夏休みなので読書特集というわけではないですが、ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』がとてもおもしろかったです。
何らかの理由で世界文明が滅亡した後、どうしたら文明を再興できるかについて考えている本です。序章には、以下のように書いてあります。
これは文明再起動のための青写真だ。
しかし、これはまた僕ら自身の
文明の基礎に関する入門書でもある。
また、訳者あとがきには以下のように書いてあります。
現代文明の最大の利器は自動車だろうか、コンピューターだろうか。大勢の人が一日の多くの時間を、小さな画面に釘付けになって過ごしていることを考えれば、近年はスマホかもしれない。いずれにせよ、いまではこうしたIT機器を使いこなし、必要な情報をインターネットで迅速に引きだせる人が、文明の最先端にいるような錯覚をいだきがちだ。しかし、かりに世界の電力網が壊滅的な打撃を受けて、復旧の見込が限りなくなくなったら、どうだろうか?3・11後の計画停電の際に、私も久しぶりに大辞典を引っ張りだして訳文を手書きしたことで、いくらかそれに似た体験をした。だが、もし印刷所がすべて破壊され、紙も鉛筆も生産できなくなってしまったら?本書は、万一そんな事態が起きた場合に、人類は狩猟採集生活にまで戻ることなく、これまで築きあげてきたような文明を再建しうるのか、という思考実験をテーマとする。
たしかに、どうやったら文明を再起動させられるかを考えることは、文明について知ることになるので、幅広く現在の文明はどんな状況にあるのか、できること/できないことがわかるようになっています。目次をざっと見てみると、扱われているテーマがとても広いことに気づきます。それだけ多様な土台の上に文明が存在しているということだと思います。
目次
- 僕らの知る世界の終焉
- 猶予期間
- 農業
- 食料と衣服
- 物質
- 材料
- 医薬品
- 人びとに動力を パワー・トゥ・ザ・ピープル
- 輸送機関
- コミュニケーション
- 応用化学
- 時間と場所
- 最大の発明
文明が滅亡したところから再興するための思考実験なので、「電力が切れて直後は、まだ◯◯は使えるだろうから、まずそこで運びだしておいて…」とか、けっこう現実的なことが書かれています。
ロンドンのすぐ郊外にあるウエストサセックス州には、ミレニアム・シード・バンクというのがあるらしい。ここには何十億もの種子が、核爆弾にも耐える地下複数階の倉庫に格納されていて、大破局後に不可欠となる図書館の役割をはたすのだそうです。
また、ノルウェーのスピッツベルゲン島には、スヴァールバル世界種子貯蔵庫というのがあるらしく、農業を回復させるバックアップとなるべく作られているそうです。(下の写真は外観ですが、ほとんど秘密基地…)
この本で書かれている、「科学文明の作り方」については、まだ研究は続いているそうです。The Knowledgeというサイトがあります。サブタイトルが「How to Rebuild Our World From Scratch(ゼロから私たちの世界を再構築する方法)」です。みんなで、残すべき資料や推薦図書、動画などを研究するためのサイトみたいで、なんだかいろいろなものがアップされていますが、覗いてみるとおもしろいかもしれません。
テーマをうまくアレンジして、プロジェクト学習のお題にしたらおもしろいかな、と思いました。授業に関係なく、読み物としても非常におもしろかったです。オススメ。
(為田)