教育ICTリサーチ ブログ

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京都教育大学附属桃山小学校 教育実践研究発表会 レポート No.5(2018年2月23日)

 2018年2月23日に、京都教育大学附属桃山小学校の教育実践研究発表会に参加してきました。テーマは、「主体的に情報を活用しようとする子の育成 ~各教科の学びを深めるメディア・コミュニケーション科~」でした。
 堀田龍也先生(東北大学大学院 教授)の講演「新学習指導要領における情報活用能力の育成」から、気になったところのメモを公開します。
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 まずは、今日の公開授業についてのコメントから、桃山小学校の授業について話が展開していきました。

  • メディア・コミュニケーション科の開発。特別な教科を設定して取り組んできたが、その教科に取り組んできた成果が、各教科ににじみ出ていたと思う。
  • ICT機器について
    • まだ一人1台はないが、たくさんのタブレット端末が桃山小学校にはある。
    • いまどき、附属の方が、横並びで機器整備される公立学校よりも厳しい。
    • 機器の重要性が、学校内で、京都教育大学内で、きちんと重視されているということ。子どもたちの学びにとって大きな意味があるということを認識していることの証。
  • 最初から桃山小学校はこうだったわけではない。
    • 最初は、3枚のホワイトボード、真ん中にモニター。実物投影機での活用だった。
    • それからWiFiが飛ぶようになり、先生のタブレットを映すようになり、子どもの画面を映すようになった。
  • 時間をかけて「段階的に」整備をしてきたもの。
    • この「段階的に」というのがキーワード。
    • 最初からフルスペックのものが入ると、先生たちには戸惑いも大きい。
    • だんだん先生がICTに慣れてきて、だんだん授業設計に組み込まれていくようになる。

 桃山小学校の授業を見させていただいてから、2年が経ちますが、この2年で急速にタブレットを使う授業が増えました。ですが、タブレットが入る前から、桃山小学校での授業には驚かされてきました。ICTが問題ではないのだ、ということを、堀田先生は説明します。

  • ICTで授業がどう変わるか
    • 教室の画面に映るだけではなく、クラスメートの回答も手元に映る。大きく見せられる。クラスメートの答えを一覧してみることは、思考を促す。
    • だが、これはICTがなくてもできたこと。今までもできていた。だが、ICTがなければ、「ホワイトボードを上手に使える」ようになる。ICTを使えば、「タブレット端末を使える」ようになる。
    • 最終段階しか見られない紙。デジタルであれば、過程も見られる。似たようなことをしているが、身体の中にはまったく違う物が入る。
    • カンニングでは?と思う人もいるが、答えが一意に決まるものならそうだが、クラスメートの答えを見て啓発されるような問いには有効。
    • 子どもたちに求めている資質・能力がどのあたりのものなのかに関係する。
    • 低学年でしっかり紙でやっている。それをホワイトボードでやっている。「だから」タブレット端末が来たときに、できるようになる。それを学校が意識してやっている。タブレットが来たからできるようになったわけではない。端末が来たときに、子どもの能力が伸びるようにどうやっているか=カリキュラム・マネジメントに繋がる話。
    • 手紙を書くときに、イラストを添えるのも、「時間が余った人は絵を描いてもいいよ」ではない。
    • 形式と内容について、しっかりと学べている。

 メディア・コミュニケーション科、またそのなかでの思考ツールについても説明がありました。紙とデジタルと両方を使い分けることができるようになっている、というのは本当におもしろいと思います。

  • メディア・コミュニケーション科で学んでいることが、各教科の学習の基盤となって働いている。
    • 各教科の「その教科らしい」授業の下には、どの教科にも役立つ資質・能力がある。
    • 3つが学習指導要領で規定されている「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」。
    • 学習活動のレベルを意識するようになってくる。どの教科で教わったか、などはどうでもよくなる。
    • 紙とデジタル、両方が使われる。子どもたちは意識して分けている。初期の頃は、紙でやったほうがずっと楽、ということもある。だが、それをデジタルで撮影する。撮影すると記録として残る、また共有もできる。デジタルと同じことができるようになる。
    • 「学習の内容」をリフレクションするだけでなく、「学習のしかた」をリフレクションできる。
  • 思考ツールは、形状が思考を誘発する。だからといって、全員が同じ思考になるとは限らない。
    • 思考の初期の段階では、思考ツールを導入して、それに整理してみるという経験をクラス全体がしてみることで、お互いの考えの仕方や自分の考えの特徴を知ることができる。
  • この学校では、わざわざプレゼンテーションのスライドを作ることはしない。
    • ロイロノート・スクールは、子どもの思考がそのままスライドになる。可視化される。
    • ワープロのように描いた文章と、撮影した写真を、必要であればつなげることができる。
  • 1時間で終わらなくてもいい
    • ゴールをいくつか、段階的に設計しておく。
    • 発表を見直す過程を何度もやっている。
    • 最低でも2周する授業設計をする。大雑把に作り、その段階で情報共有し、分析的な目で自分たちの成果物を見て(いい目でみたいのを我慢して、クリティカルに見て)、そこでフィードバック・改善する。
  • キーボードが必要では?小学校の総則に書かれている。3年生のローマ字の学習のあたりから積極的にやらせておかないとダメ。

 国公立の学校においては、どうしても避けられない先生方の異動についても、メディア・コミュニケーションのように教科書をしっかり作ることによって、克服がでっきるというコメントがありました。

  • 教員の転入・転出が多い学校において、どうやって持続的に体現すべきか、ということ。
    • そのひとつが、教科書だと思う。
    • 子どもたちも、教科書を見て、見通しを得られる。教科書によって足場掛けができている。

 文部科学省の「情報活用能力調査」についても説明がありました。

  • 文部科学省「情報活用能力調査」
    • 1ページにまとめられた情報を読み取るというのはできる。だが、複数のページにまたがって書かれた情報を、読み取って自分でまとめることは、ほとんどできない。
    • 個人差よりも学校差の方が大きい。つまり、能力差ではなく、経験差。
    • 文字入力のスピードについてもきわめてお寒い…。このスピードだと、思考を妨げていると言える。
    • そのこともあって、整備をするようにと学習指導要領「なのに」書かれている。

 情報活用能力の差は、「能力差ではなく、経験差」だという言葉は、学校に対してカリキュラムを提案している立場として、もっとがんばらねばならないと思わされました。

 No.6に続きます。
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(為田)