島田功 先生・馬場卓也 先生の編著『算数授業のオープンエンドアプローチ』を読みました。算数の授業を通じて、「多様な価値観や数学的な見方・考え方を磨く」ことを目指した授業事例を読むことができました。読書メモを共有します。
算数の授業では、1つの正解があって、それを正しく求められるとよい、というイメージがありますが、この本では「オープンエンド」な問題に取り組むことで、算数の力をどのように使うかを考える学習活動を提案しています。
最初に、国立教育研究所の勝野頼彦 先生が『社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理』(2013)のなかで述べているオープンエンドな問題の重要性が紹介されていました。
「現実のリアルな課題をもとに問題解決プロジェクトを設定し、具体的な経験や体験を通じた課題探究型の学習など、学習者の生活意欲、学習意欲、知的好奇心を十分に引き出すような新しい形態の学習をデザインしていく必要がある。子どもたちが実生活や社会の中で直面するような、リアルで正答がない、あるいは答えが一つではないようなオープンエンドな問題を扱い、多様な選択肢や可能性を意見や立場の異なる様々な他者と共に検討しながら、よりよい選択肢や納得解を探求していく学習活動が求められているのである」
オープンエンドな問題とは、「リアルで正答がない」「答えが一つではない」という問題です。算数で正しく計算ができたり、正しく式を立てて考えられたりすることはもちろん大事ですが、そうして計算したり考えた成果をオープンエンドな問題を解くときには価値観と紐づけて表現することが求められます。
例えば、自分と5歳の弟と、よくお世話をしてくれる6年生の男子と同じクラスの友だちと4人で12個のどんぐりをどう分けようか?というときには、「12÷4=3だから、3個ずつ!」というのが算数の問題ですが、実際の社会では、5歳の弟はどんぐりが好きだから多くあげようか、というふうに考えることもできます。そこには、価値観が入ってくるのです。この、算数と価値観を組み合わせて考えるのは、おもしろいなと思いました(もちろん、計算がしっかりできることは大事ですが)
この本のなかでは、数学的価値観、社会的価値観、個人的価値観の3つが登場します。まとめておきたいと思います(p.21)。
- 数学的価値観
- 数学の主要な特性の基盤になる価値観
- 簡潔、明確、統合が算数・数学教育における価値観
- 社会的価値観
- 社会を組織する多くの人が共有する価値観。他者とのかかわりの中で表出する価値観。
- 他の人への思いやり、平等・公平の価値観、公正の価値観など。
- 個人的価値観
- その個人が重視する価値観。個人が一人で考える場面で表出する価値観。
算数の問題を解いたあとで、個人的価値観、社会的価値観に結びつけるところでは、授業支援ツールでみんなの考えを同時に見せて考えたり、クラスメイトの書いた考えを参考にして自分の考えを深めていったりすることもできそうです。
本のなかで、社会的オープンエンドな問題として4つのカテゴリー(p.23-24,p.27-28)が紹介されていました。
- 分配問題
- ものの分配をするときに、価値観がかかわってくる。
- 物の分配(ケーキなど)
- 資源の分配
- ルール作り問題
- ルールを作るときには、価値観がかかわってくる。
- 平等・公平なルールを作るか、弱者のことを考えてルールを作るか、など。
- ゲームや身近なスポーツのルール作り
- 税や年金などのルール作り
- 選択問題
- 選択するときに価値観がかかわる
- 買い物や意思決定の場面で、人によって選択するものが異なるのは、その人の価値観によるもの。
- 代表選手の選択
- 選挙(集団の代表者を選択する)
- 計画・設計問題
- 時間的な要素や空間的な要素、経済的な要素を生かして、計画を立てたり設計するときに価値観がかかわってくる。
- 経済性や倫理性、愉悦性、環境性の価値観や、他者思いの価値観(思いやり、使いやすさ、安全性など)が表出する。
- 旅行などの計画
- 都市造りの計画
4つのカテゴリーのすべてで、全学年の事例が紹介されています。一度、自分の授業でやってみたいなと思いました。算数の問題を解いた後で、出てきた数字を使ってどのように考えたのかを文章として発表してもらう授業をしてみようと思います。
「なぜそのように分配しようと考えたのか」「なぜそのようなルールにしたいと思ったのか」「なぜそれを選択したのか」「なぜそうやって計画したのか」と問うことが大事です。授業支援ツールを使うことでいろいろな価値観を見ることもできそうで楽しみです。
(為田)