2024年5月16日に戸田市立芦原小学校を訪問し、授業参観後に校内研修「デジタル・シティズンシップ教育について」の講師をさせていただきました。戸田市内の小中学校では、デジタル・シティズンシップについて、校内研修をしたり研究授業を実施してきています。そのため、今回は担当の先生方と相談して、日々の生活の場面とデジタル・シティズンシップを結びつけて先生方が考えられるような研修になるように企画してみました。
最初に「デジタル・シティズンシップについて教えて下さい」とCopilotに質問してみるデモをしました。
その後で、「デジタル・シティズンシップ」という大きな概念から、先生方が子どもたちの日々のデジタル活用と結びつけて考えられるようにキーワードを増やしたくて『学校リーダーのためのデジタル・シティズンシップ・ハンドブック』に書かれている9要素を紹介しました。
デジタルは社会の中で大きな役割を果たすようになっていて、子どもたちはデジタルがある社会の中で生きていくことは間違いありません。そのときに、デジタルが自分たちの生活とどう関わりがあるかを考えるのに、この9要素はとてもいいと僕は思っています。
この9要素を通して、芦原小学校での子どもたちのChromebookの使い方がデジタル・シティズンシップとどういう関係があるかを先生方に考えてもらうきっかけになればと思いました。
一人1台のChromebookを子どもたちが使いこなすようになっていくと、芦原小学校でもきっといろいろな問題が出てくると思います(これは全国、どの学校でもそうだと思っています)。そのなかで、先生方が子どもたちに語ったり、指導したりすることはたくさんあると思います。それらの指導を「情報モラル」的(=危ないことはしない)であるとか、「デジタル・シティズンシップ教育」的(=デジタルの良き使い手になりましょう)であるとかで考えるだけでなくて、「情報モラル」も「デジタル・シティズンシップ」も、「情報」と「デジタル・」を消して「モラル」と「シティズンシップ」として考えるのがいいのではないか、と先生方に伝えました。
「モラル」も「シティズンシップ」も、子どもたちとのやりとりや指導の中で、先生方は大切な価値観としてスキルとして日々子どもたちに伝えていると思います。その伝えていることのなかに、「情報モラル」も「デジタル・シティズンシップ」も入れられたら、それがいいのではないかと僕は最近思っています。
そのために、デジタルを活用する体験を学校の中でたくさんしておくのがいいと思っています。例えば、共有ドキュメントを作るときの振る舞い方とか、他人へのコメントをしたときに対面と同じようにしてしまってトラブルになるとか、誰かの考えをそのままコピー&ペーストして自分のものとして出してしまったりとか、動画を見るのをやめられなくなってしまったりとか、そうした小さな失敗をたくさん教室でしておくことが大事だと思います。
そこで、日々のいろいろな場面で起こりそうなデジタルの「問題」をたくさん考えてもらうワークを先生方と一緒にしました。できるだけたくさんこれから起こりそうな「問題」を考えてもらい、Padletに書き込んでもらいました。
先生方はPadletにたくさんの起こりそうな「問題」を書き込んでくれました。僕が想像していたよりもずっと具体的なことが書き込まれました。例えば、「コメント欄で悪口を書かれた」「授業中ゲームをする」「放課後に勝手にmeetで会話」「共有データの削除」「AIが作成した作文等を提出」「やめられない ずっと遊ぶ」「コピペをそのまま提出」「加工写真ばらまき」「友達が書いたカードに落書きしたり消したりする」「正しい情報と適当な情報の区別がつかず、ふりまわされる」などがカードに書かれました。
Padletへの書き込みが終わった後は、他の先生が書き込んでくれた「問題」を見て、みんなでこの後話し合いたいことはないかを探してもらいました。
Padletへの記入が終わった後で、各学年のテーブルごとにPadletを読みながら、みんなで話したい「問題」や気になる「問題」について、「その問題についてどう対処したらいいと思うか」「どういう理由で、その対処をしたいか」の2つの観点で話し合ってもらいました。
「どういう理由で、その対処をしたいか」というところで、先生方がデジタルについてどういう価値観をもっているかが現れます。先生方が、デジタルに対してどんな価値観をもっているかは、デジタル・シティズンシップ教育を進めるにあたってとても大事なことなので、理由をきちんと話し合ってもらいたいことを伝えました。
研修で使った芦原小学校の多目的室ではホワイトボードになっているテーブルを使えるので、話し合いながらどんどんテーブルにメモが書き込まれていきます。最後に、各学年のテーブルごとに出てきた話題を発表し、全体で共有しました。
ここでは「どう対処するのがいいのか」についての正解を出したいわけではありません。先生方が価値観を表明し合う場を作りたいと思っていました。特に、同じ学年を組んでいる先生方の間では、価値観を表明し合って、そのうえで学年としてどのような価値観をもって、子どもたちにデジタルを使ってもらうのかを考える意味があると思います。
また、Padletに書いてもらったようなデジタルに関わるさまざまな問題がこれから出てくるなか、学年単位でどのように対処するかの方針は共有できている必要ももちろんあります。対処の方針は先生方の価値観から出るものであり、価値観を子どもたちにも保護者の皆さんにも伝えていくことが重要だと思います。この日のこのディスカッションがそのための第一歩になればいいなと思いました。
(為田)