2023年8月5日に、夏のパターン・ランゲージ活用フェスに参加してきました。このイベントは、慶應義塾大学の井庭崇先生が代表を務めるクリエイティブシフトの創立10周年記念イベントでした。
井庭先生が研究されているパターン・ランゲージに以前から興味があり、学校の先生方向けの研修に使えないかと思っていました。今回参加した「デジタルを活用する未来に向けて」講演&ワークショップの様子をレポートしたいと思います。
講演が終わると、グループになって、「デジタルを活用する未来に向けて」(以下、デジパタ)の本と「デジタルを活用する未来に向けてのことばカード」を使って、ワークショップを行いました(会場で販売されていたので、ワークショップ終了後に買ってきました)。データはデジタル庁のサイトで公開されています。
また、Amazonでも「デジタルを活用する未来に向けてのことばカード」小冊子セットを購入することができるようになりました。
デジパタは、【Core(核)】となる「よりよくするためのデジタル」という1つのことば(パターン)と、【一人ひとりの暮らし】【コミュニティ・活動】【社会】という3つのカテゴリーに28のことば(パターン)があります。
3つのカテゴリーを1つずつ、井庭先生の解説で読み合わせていきます。その後にテーブルの上に広げられたカードを手に取りながら、メンバーそれぞれの知見を共有していくシェアリングの時間となりました。
僕の参加していたグループは、飲料メーカーの方、IT企業のエンジニアの方、井庭先生の研究室の大学院生など、多様なバックグラウンドの6人でした。グループでのシェアリングを始めるときに、目の前にカードの形であったパターン・ランゲージがコミュニケーションのメディアになっているのを実感しました。カードを手に取って、「A.1のこれなんですけど…」と自分の体験を話し始められて、そこに他のメンバーの人が自身の体験を重ねてきてくれます。
それぞれのカテゴリーでとったメモを共有したいと思います。自分が話した内容だけでなく、グループのメンバーが言ってくれた教育現場に活用できそうな内容も含まれています。
A.一人ひとりの暮らしをよくする
1つめのカテゴリーは【一人ひとりの暮らしをよくする】です。学校のデジタル化を進めていく現場から考えると、「一人ひとりの暮らしをよくする」は、「一人ひとりの先生方の仕事をよくする」「一人ひとりの児童生徒の学校での暮らしをよくする」と読み替えていくことだと思いながら、シェアリングしていきました。
- A1 「それ、いいね」の実感
- 学校の先生にデジタルを使ってもらうためには、「それ、いいね」と思ってもらうのがいちばん効果的。
- 新しい教材やツールを使ってもらうときには、示範授業させてもらうことがある。先生が、「オレの方がうまい」と思ってくれれば、「あ、それいいですね!」と先生に自分で授業で試してもらえる。
- 子どもたちの変容を見てもらって、「それ、いいね」と感じてもらう。
- A2 困りごとの解決
- A3 頻度が高いものから
- パスワード忘れるとか。小学校1年生にいま毎週パスワードを自分で入れてもらっているが、ちゃんとできるようになる。
- 何度も使うと定着していく
- 高齢者の病院予約とか、オンラインになりつつある(何度も行く=頻度が高い)。混んでいる待合室だけど、オンライン予約した人が待たずに先に診察される様子を見るから、「自分もやろう」となる。
- A4 使い始めの伴走
- ログインは小学校1年生だって、ちゃんとできるようになる。
- 「めんどくさい」からやってあげてしまうと、結果、その人は全然できるようにならない。
- A5 その人に合った場所
- A6 安心へのサポート
- 危険なことはちゃんとわかるようにしなければならない。情報モラル教育も、適度に行う必要はあると思う。
- A7 同世代のおしゃべり
- 学校の先生は、教育委員会主催の研修などで同世代とも話す機会が多く、コミュニティが強いと思う。
- 学校のなかでのコミュニティもある。職員室、学年、教科ごと、とか。
- 一方で、世代が関係なくなるのがデジタルの良さなような気もする。
- A8 面白がって変えていく
- 拡張していく。面白がってComfort Zoneから出ていくことが大事。
- A9 デジタルとのバランス
- デジタルをあえて使わないことで出会う感動もある
B.コミュニティや活動を育てる
2つめのカテゴリーは【コミュニティや活動を育てる】です。学校のデジタル化を進めていく現場から考えると、「コミュニティや活動を育てる」は、学校のクラスはコミュニティだし、授業や学校行事は活動です。職員室をはじめ、先生方のコミュニテイが学校の中にはたくさんあります。このあたりに繋げられないだろうかと思いながら、シェアリングしていきました。
- B1 本当に望んでいること
- 「そのサービスを使っていくことになる人の声を」
- これが「先生が本当に望んでいること」なのか、「学習者が本当に望んでいること」なのか、学校だと混ざっている感じがするし、「先生が本当に望んでいること」が優先されている感じもある?
- 分断していることを認識しなくてはいけない。
- B2 できる限りシンプル
- 何のためのしくみなのか
- 目的を実現するために必要な「幹」を見定める
- あれもこれも機能を増やすのはダメ。
- B3 指標の特定
- 重要な指標=何が大事なのかを特定する。それを把握する
- B4 変化の先のイメージ
- その世界が実現すれば、どんないいことがあるのだろうか?GIGAスクール構想によって配備された一人1台端末の活用について言えば、これはできていない気がする。
- 車は、馬なし馬車と言われていた。その方が伝わる。機能を言ってしまいがちだが、それだと「要らない」になる。どんな変化が起こるのか伝える
- B5 入りやすい入り口
- B6 ありがとうのお返し
- B7 共感者の声
- 共感度の高い人達と共に
- 「らしさ」を強化 使ってよかった、を強化していく
- B8 つながって学び合う
- GEGとか、ロイロユーザ会とか、AppleとかMIEEとか、先生方は「つながって学び合う」はできている気がする。
- あとは、これを「いまはまだデジタルを使っていない人たち」にどう広げていくのか?
- B9 ポジティブなエネルギー
C.これからの社会をつくっていく
3つめのカテゴリーは【これからの社会をつくっていく】です。学校のデジタル化を進めていく現場から考えると、学校は社会とどんどん繋がっていく機会が増えていく方がいいと思うし、先生方も外部と協力しながら学校を運営していく機会は増えていくと思います。また、学校で使う一人1台の情報端末だけでなく、中学校にあがれば自分のスマートフォンも持つようになり、自分で外部ともどんどん繋がっていきます。そうした状況を考えながら、シェアリングしていきました。
また、「この【これからの社会をつくっていく】のカテゴリーを作ることに、デジタル庁はとても前向きだった。国や、いま政策決定に関わっている人たち以外にも、社会をつくることに関わってほしいという思いがあったと思います」と井庭先生は言っていました。これこそまさに、デジタル・シティズンシップ教育に繋がるべき話だなと思いました。
- C1 発信の影響力
- C2 多様な考えの受け止め
- 個々人が変な影響力に加担しない。
- デジタルによって、いまは一個人が社会にいきなり接続されてしまっている。それに対応する力が必要。
- C1とC2は、デジタル・シティズンシップとか、宇野常寛さんの「遅いインターネット」な感じ。
- C3 その問題の本質
- C4 いろいろな届け方
- これを授業として捉えたらどうだろうか
- C5 良質なコンテンツ
- クックパッドの「つくれぽ」は荒れにくい。反射的なコメントが減る。ポジティブなコメントが連鎖する仕組み
- C6 情報活用の工夫
- マルチなコミュニケーションチャンネル
- 見落としているかも?な想像力
- どうやったらいいか、工夫を共有し合うといい
- C7 つながりの突破力
- C8 日本ならではの特性
- 高齢化が進む社会、災害が多い社会→それに対応する研究サービスの実装
- 最新技術の先進度で競わなくてもいい。
- C9 若い世代の感性
- 若い世代に任せればいいのではなく、コラボレーション。若い感性とのMIX、力を合わせていく。
- 人生経験、物事の進め方など、若くない世代の良さもある。
まとめ
グループで3つのカテゴリーでのシェアリングを終えてみて、全体をふりかえると、僕は2つめの【コミュニティや活動を育てる】と3つめの【これからの社会をつくっていく】が話しにくいな、と感じました。自分自身が苦手なところでもあるし、僕がいま学校を回って学校のデジタル化を手伝っているのが、段階として1つめの【一人ひとりの暮らしをよくする】が多いからだとも思います。
今回、「デジタルを活用する未来に向けてのことばカード」を使って、グループでシェアリングをすることで、パターン・ランゲージをコミュニケーションツールとして使うことを体験できたので、これを先生方と一緒に使ってみたいなと思いました。
カードを持ちながら、「こういう使い方をしてみたら、あの子がこんなことできたよ」とか、「こういう使い方をしてみたら、あの作業めちゃくちゃ楽になった」とか、先生方が経験談を語りやすく、共有しやすくなると思います。そんな場面を作りたいです。
まずは、教育委員会内にあるデジタル教育推進チームの先生方と一緒にやってみたいと思います。学校単位では、最初はデジタル活用の推進担当の先生方とやってみて、それから推進にちょっと躊躇している先生方も含めて学校全体でやってみる、と進めていきたいと思います。
(為田)