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夏のパターン・ランゲージ活用フェス「デジタルを活用する未来に向けて」講演&ワークショップレポート No.1(2023年8月5日)

 2023年8月5日に、夏のパターン・ランゲージ活用フェスに参加してきました。このイベントは、慶應義塾大学の井庭崇先生が代表を務めるクリエイティブシフトの創立10周年記念イベントでした。
 井庭先生が研究されているパターン・ランゲージに以前から興味があり、学校の先生方向けの研修に使えないかと思っていました。今回参加した「デジタルを活用する未来に向けて」講演&ワークショップの様子をレポートしたいと思います。

パターン・ランゲージとは

 パターン・ランゲージ(pattern language)とは、よい実践のコツを共有するための方法で、熟達者などのよい実践にくりかえし見られる「パターン(型)」を抽出し、「ランゲージ(言語)」化する方法です。
 パターン・ランゲージについての詳細は、クリエイティブシフトのサイトにある「パターン・ランゲージとは」で見ることができますが、パターン・ランゲージに収められているパターンは、すべて「状況」「問題」「解決」「結果」の4つがセットになっていて、それに「名前」(パターン名)がつけられています。

 井庭先生は、さまざまなパターン・ランゲージを開発してきています。クリエイティブシフトのサイトを見ると、「ラーニング・パターン:創造的な学びのためのパターン・ランゲージ」「プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント」「コラボレーション・パターン:創造的コラボレーションのためのパターン・ランゲージ」「プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための 企画のコツ32」など、さまざまなパターン・ランゲージを見ることができます。

 今回のイベントでは、2022年に新たに開発された、「デジタルを活用する未来に向けて」のパターン・ランゲージを知ることができました。

「デジタルを活用する未来に向けて」

 今回の講演とワークショップのテーマとなっている「デジタルを活用する未来に向けて」は、クリエイティブシフトがデジタル庁から委託を受けて作成し、2022年4月に公開されたパターン・ランゲージです。デジタル庁のサイトで公開されていて、本編と印刷用カードをダウンロードすることができます(公開時にこのブログでも紹介しました)。

 「デジタルを活用する未来に向けて」というタイトルには「パターン・ランゲージ」という言葉は入っていないのですが、意味的には「デジタルを活用する未来に向けて(のパターン・ランゲージ)」であり、井庭先生は「デジパタ」と呼んでいましたので、このレポートでも、以後「デジパタ」と表記します。

 最初に、井庭先生からデジパタの全体像の紹介がありました。デジパタは、以下のように、【Core(核)】となる「よりよくするためのデジタル」という1つのことば(パターン)と、【一人ひとりの暮らし】【コミュニティ・活動】【社会】という3つのカテゴリーで成り立っています。3つのカテゴリーのなかに、3つのグループがあり、それぞれに3つのことば(パターン)が入っていて、Coreの1つと3カテゴリー27個のことば(パターン)で、合わせて28のことば(パターン)があります。

 僕は、このデジパタを「学校で先生方がGIGAスクール構想で児童生徒に配備された一人1台の情報端末を活用して学びをアップデートする」活動を広げていくために使いたいと思っています。先生方と一緒に「学校でのデジタルを使って学びを変えていこう」という先生が増えていくようにどう使えるかという文脈で、デジパタの28のことば(パターン)を見ていきたいと思っています。

村井純 先生と井庭崇先生の対談

 デジパタの全体像についての説明が終わった後、慶應義塾大学村井純 先生と井庭先生のオンライン対談が行われました。村井先生は、デジタルが社会に浸透しない理由は、「使いたくないよな」と言う人がいると止める、「使えないよな」という人がいると止める、という状況によるものだ、と言います。この感じは、学校のデジタル化が進まない状況とよく似ていると思います。
 一方で、村井先生は2011年7月の地上アナログテレビ終了(=TVアナログ停波)のときにはデジタル化が成功した、と言います。このときの成功の要因は、「最後に困っている人をみんなで助け合った。村中まわってデジタル放送に切り替わってるか見て回る人がいたりした。“結果としてうまくいく”というのは日本の特徴と言えるかもしれない」と村井先生は言っていました。
 僕は今まで、地上アナログテレビ終了の時期を、デジタル化の成功事例としてイメージしたことがありませんでした。学校のデジタル化を進めていくイメージを、テレビの地デジ化のときと重ねていくのはおもしろい視点だと感じました。

 村井先生は、地デジ化のときと同じように、自分から自発的に取り組んでいく形になるようにするために、井庭先生のパターン・ランゲージのアプローチに期待したそうです。
 村井先生の話をうけて、井庭先生は「テクノロジーだけでなく、最後は人が動かないといけない。いろんな人たちがサポートするようにならなくてはいけない」と言っていました。この「テクノロジーだけでなく、最後は人が動かないといけない」という言葉は、まさにいま学校のデジタル化がぶつかっている壁だと思っています。配備はできたが、ここから先生が使って、子どもたちが使って、デジタル時代の学びをできるようにしないといけません。「人が動かないといけない」のです。井庭先生は、そのためにデジパタには一人ひとりがどう動くかのことば(パターン)が入っていて、どれもが「デジタルで社会をより良くする」ことに繋がっていると言います。

「デジタルを活用する未来に向けて」(デジパタ)の概要説明

 村井先生とのオンライン対談が終わった後、「デジタルを活用する未来に向けて」(デジパタ)の概要についての解説がありました。通常のパターン・ランゲージでは、「状況」「問題」「解決」「結果」の4つがセットになっていて、それに「パターン名」がつけられていますが、デジパタでは、対話を生み出す「ことば」という形をとっています。

 デジパタの28個の「ことば(パターン)」で書かれている文章は「中空の言葉」で書かれている、と井庭先生は言います。中空の言葉とは、抽象的すぎず、具体的すぎない言葉だそうです。抽象的すぎると行動を促さず、具体的にし過ぎると「行動指示」「マニュアル」になってしまいます。それでは、自分で動く人にはならないからだと思います。
 このあたり、学校で先生方にデジタルを活用する研修を行うときにも、自分の言葉が「中空の言葉」になっているだろうか、と自分をふりかえる機会になりました。

 デジパタの「ことば(パターン)」を読んでいくことで、「言葉を得ること」ができると思います。いままで自分の目の前にあったけれど言語化していなかったから認知できなかったことを、「ことば(パターン)」で言葉を得ることで、認知できるようになります。認知できたものを評価して、他の人に語ることもできるようになります。井庭先生は、「言葉は概念。パターンが概念として“認識の眼鏡”となり、認識しやすくなる」と言っていました。

 学校でデジタルを活用したことでどのように子どもたちが変わっていくのか、どのように学校が変わっていくのかを認知し、評価するための言葉を得るために、デジパタが使えそうだと感じました。
 言葉を持っていれば、それを見ることができ、価値づけることもできます。言葉をもっていれば、それを他の先生方に伝えることもできます。学校というコミュニティにデジタルを活用した学びを広げていくときに、言葉は必要です。デジパタを使うことで、その助けができるのではないかと思いました。

 No.2に続きます。
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(為田)