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書籍ご紹介:『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』

 田内学さんの『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』を読みました。帯に「大人も子どもも知っておきたい経済教養小説」と書かれていて、小説を読み進めていくと「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」という3つのお金の謎と、格差の謎「退治する悪党は存在しない」と、社会の謎「未来には贈与しかできない」について考えられるようになっています。

 学校で金融教育、投資教育を行う動きが出てきていて、さらにスマートフォンで「こういう金融商品が…」とか、「投資で◯億円が…」のような情報に接することができ、アプリで簡単に始められるようになってきたからこそ、お金について、投資について、経済について、考えることが必要だと思って読みました。

お金の謎

 第1章から第3章までが、お金の謎について書かれている章です。それぞれの章のストーリーを読み終わると、1ページずつ「まとめ」がついています。まとめの項目だけを読んでも伝わらないことが、小説という形式だと考えやすいようになっていると思います。

第1章のまとめ 「お金自体には価値がない」(p.61)

  • 税金の導入によって、お金(貨幣)が必要になる
  • 集めた税金を政府が使うことによって、お金が循環する
  • お金は、個人にとっては価値があるが、全体では価値がない
  • お金によって、人々が支え合える社会が実現している

 「集めた税金を政府が使うことによって、お金が循環する」「お金によって、人々が支え合える社会が実現している」というところは、お金について知ってほしいところだと思いながら読みました。

第2章のまとめ 「お金で解決できる問題はない」(p.100)

  • 問題を解決しているのはお金自体ではなく、お金を受け取る人々
  • お金が商品に変わるのではなく、自然資源に無数の労働が結びついて商品が生産される
  • お金の力は選ぶ力。解決してくれる人を選ぶことしかできない
  • ムダな仕事を減らすことで、経済は発展している
  • 成果を分かち合うことができなければ、ムダな仕事が必要になる
  • 1人ひとりが社会を形作っている

 第2章のまとめからは、「問題を解決しているのはお金自体ではなく、お金を受け取る人々」と「お金の力は選ぶ力。解決してくれる人を選ぶことしかできない」の2つがとても考えさせられました。

第3章のまとめ 「みんなでお金を貯めても意味がない」(p.136)

  • みんなでお金を貯めることは、将来の備えにならない
  • 年金問題を解決するには、少子化を食い止めたり、生産効率を上げる必要がある
  • お金は移動しているだけで、全体のお金は増減しない
  • 未来に向けて蓄えられるのは、社会基盤や生産設備、技術や制度など
  • 全体にとって大事なのは、値段よりも使用価値を上げること
  • お金は奪い合うことしかできないが、未来は共有できる

 第3章には、これから社会に出ていく子どもたちに読んで考えてもらいたいことがたくさん書かれていました。年金問題についても、「年金問題を解決するには、少子化を食い止めたり、生産効率を上げる必要がある」とまとめられています。また、「みんなでお金を貯めることは、将来の備えにならない」「未来に向けて蓄えられるのは、社会基盤や生産設備、技術や制度など」というのも、社会にどう関わっていくのかを考えるきっかけになるのではないかと思いました。

格差の謎

 第4章は、格差の謎について書かれていました。小説のなかで中学生2年生の主人公が、「ずるい」と大人に思いをぶつけるところがありました。いまの中学生・高校生のなかには、いま「ずるい」と思っている人もいるだろうし、これから「ずるい」と言いたくなるような場面に出会う人もたくさんいるだろうと思います。そうした人たちに読んでもらいたいなと思いました。また、そうした中学生・高校生に教える立場である先生方にも読んでもらいたい章でした。

第4章のまとめ 格差の謎「退治する悪党は存在しない」(p.169)

  • 金銭的な格差と生活の豊かさの格差は異なる
  • 格差のない豊かな生活を提供する人々が結果的にお金持ちになっている
  • 消費と投資のお金の流れによって未来が選ばれる
  • 投資されたお金自体ではなく、それを受け取って研究開発する人たちが未来を創造する
  • 1人ひとりの生み出すお金の流れが格差を作っている
  • 現代において、税金は支配者による搾取ではなく、再分配に使われている
  • 政府による再分配は、1人ひとりの投票によって決められる

 社会との関わりについて、小説の中でボスが言う言葉がとてもいいなと思いました。どう社会と関わっていくのかを考える、その媒体として「お金」がある、そんなストーリーです。

「問題なのは、『社会が悪い』と思うことや。社会という悪の組織のせいにして、自分がその社会を作っていることを忘れていることが、いちばんタチが悪い」(p.162)

社会の謎

 第5章は社会の謎です。個人的にはこの章がいちばん印象的でしたし、個人的に興味があります。

第5章のまとめ 社会の謎「未来には贈与しかできない」(p.201)

  • 全体の預金が増えているのは、誰かが借金をしているだけ
  • 過去からのツケが存在するのではなく、同世代の格差が存在している
  • 借金する国ではなく、働けない国が破綻する
  • 外国に頼る以上、外国に対してどんな価値を提供できるかを考える必要がある
  • 人から人への贈与、過去から現在、現在から未来への贈与が経済を発展させる

 「借金する国ではなく、働けない国が破綻する」「外国に頼る以上、外国に対してどんな価値を提供できるかを考える必要がある」というところ、もっておいたほうがいい視点だと思いました。こういうテーマで社会科や探究の時間に中学生・高校生と話してみたら、どんなふうな反応が返ってくるのか、知りたいなと思いました。
 ボスが「世界は贈与でできている」と言う場面があります。この場面が、とても大事だなと感じました。

「世界は贈与でできているんや。自分から他人、他人から自分への贈与であり、過去から現在、現在から未来へと続く贈与なんや。その結果、僕らは支え合って生きていけるし、より良い未来を作れる。それを補っているのがお金やと僕は位置づけている」(p.198)

 僕は、学校で学ぶことの大きな意義は「社会へ出ていく準備をしていくこと」だと思っています。だから、社会はどんなふうになっているのかを学校で学べることはとても大切だと思っています。いま、子どもたちが学校で学ぶことに、こうした内容はどれくらいあるかな、と考えてしまいました。

おまけ

 この本と合わせて、著者の田内学さんが東洋経済オンラインで書いた「日本の「お金の教育」が子供に超悪影響な深いワケ 「投資される側になる」発想の欠如が国を傾ける」も読んでみるといいと思います。「投資する側」になる子を育てるのではなくて、「投資される側」になる子を育てなくてはいけない、と言う言葉にはハッとさせられる人も多いのではないでしょうか。
toyokeizai.net

(為田)