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「学習者用デジタル教科書の学習履歴データの活用に向けた共同実証研究」成果報告会レポート No.2(2024年2月19日)

 2024年2月19日にオンラインで開催された、「学習者用デジタル教科書の学習履歴データの活用に向けた共同実証研究」成果報告会に参加しました。この研究は、東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也 研究室(当時)・東京書籍株式会社・株式会社Lentrance・つくば市の4者が3年間(2021年~2023年)に渡って協力して行ったもので、つくば市内の公立小中学校・義務教育学校で児童生徒が学習者用デジタル教科書を活用する様子を学習履歴データとして記録し、分析することを目的としています。
 研究は、東北大学大学院博士後期課程の宮西祐香子さんと、長濱澄 准教授を中心に進められており、今回の報告会では長濱澄 先生より、記録した学習履歴データを分析することによって得られた、デジタル教科書の利用実態と学習傾向についての成果が報告されました。

成果報告1:家庭学習におけるデジタル教科書の利用実態と学習傾向

 東北大学大学院の長濱澄 先生から「家庭学習におけるデジタル教科書の利用実態と学習傾向」についての成果報告が行われました。
 つくば市の公立中学校の中学1年生~3年生151人を対象に、2021年10月~2022年8月までの10か月間の家庭学習での操作ログ10,449件を分析して、家庭学習での英語の学習者用デジタル教科書「NEW HORIZON1~3」の利用実態を見ていったそうです。

 家庭学習での操作ログで見ているのは、以下の4つの機能です。

  1. ページ閲覧(ページめくりを含む)
    • 学習者用デジタル教科書でページを開き、読む
    • 次のページへ進む
  2. ポップアップコンテンツ(動画や音声などのデジタルコンテンツ)の開閉
    • 学習者用デジタル教科書の「コンテンツ」ボタンなどを押して、動画や音声再生などのコンテンツを使う
  3. 本文や図版の拡大画面の開閉
    • 学習者用デジタル教科書の任意の文章のみ拡大表示
    • 学習者用デジタル教科書の任意の図のみ拡大表示
  4. ズーム
    • ページ全体の拡大縮小表示

 操作ログでは「どの機能を使ったか」だけでなく、「いつ使ったか」という時間の記録もとれるので、そこから操作にかけている時間もわかります。そこで、操作ログと操作にかけている時間を組み合わせて、「ページ閲覧やポップアップを使うことが多いが、操作にかけている時間が短い」「4つの機能すべてを、積極的に利用している」というようにグループに分けて、端末をどのように利用しているかの傾向が分析されていました。

 長濱先生は、「どういう指標に注目すれば、家庭学習のがんばりがわかるだろうか?」と問題提起をされていました。こうしたところこそ、学習者用デジタル教科書でログを記録できるからこそわかることだし、ログを見るだけでなく、今回の研究発表会のように先生方にも成果を見てもらって、日々の授業での子どもたちの様子と合わせて考えるべきところだなと感じました。

 続いて、長濱先生は家庭学習においてデジタル教科書上の操作と学習をどう結びつけられるのかについての成果を報告されました。
 学習の強度を推測するうえで、学習者用デジタル教科書の「操作が多いか」「時間が長いか」「アクセス回数が多いか」の3つの観点をもとにクラスタ分析をされていました。以下の4つのクラスタに分けて分析がされていました。

  • クラスタ1(青)
    • 「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが小さい
  • クラスタ2(赤)
    • 「操作回数」が多い
  • クラスタ3(緑)
    • 「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが大きい
  • クラスタ4(紫)
    • 「操作時間」が長い

 この4つのクラスタのデジタル教科書の操作傾向と、成績がどう結びつくのかについての分析が報告されました。家庭学習における音読課題の得点と各クラスタの相関関係を見て、「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが大きいクラスタ3(緑)は、得点が高い傾向があります。逆に、「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが小さいクラスタ1(青)は得点は下位から上位までさまざまでした。
 一方、「操作回数」のみが多く、その他の指標が少ないクラスタ2(赤)は、得点が低い傾向にあります。これは、一つ一つのページやコンテンツの閲覧時間が短く、流し見をしている傾向にあるためと考えられます。

 「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが大きいクラスタ3(緑)は、得点が高い傾向があるのは、家庭学習で学習者用デジタル教科書をしっかり使っていたということが推測できます。
 逆に、「操作回数」「操作時間」「アクセス回数」すべてが小さいクラスタ1(青)が、得点が低い傾向が出るわけではなく、得点下位から上位に散らばっているのもおもしろいと思いました。子どもたちは学習者用デジタル教科書「だけ」を使って勉強をしているわけではなく、英会話教室などで学んでいたりするので、学習者用デジタル教科書をあまり使っていなくても得点が高いという子もいるのかな、と感じました。
 音読課題の得点と、学校の定期テストの得点には強い相関があったそうなので、学校の成績と学習者用デジタル教科書の操作傾向の結びつきもあると推測できるかと思いました。

 僕は中学校で学習者用デジタル教科書を活用している授業を見たことがありますが、自分の習熟していないところ=学ぶべきところをきちんと復習できているかどうか、ということが重要になるので、操作ログと合わせて、「どのコンテンツをどうやって学んでいたのか」まで見えてくるといいなと思いました。いずれ「操作ログ」と「学習ログ」の相関が見えてくるようになるといいなと思います。(今回のようなマクロの分析では難しいかも知れませんが…)
 東京書籍の「NEW HORIZON」の学習者用デジタル教科書であれば、英語音声を再生するときに音声の速度を調整できたり、マスク表示を使ったりもできます。自分の習熟度に合わせて適切に行えているのかどうか、というところを先生が上手にサポートしてあげることで、同じ操作時間、同じアクセス回数でも成果の上がり方も違うと思いました。そうしたところまで、研究が今後進んでいくといいなと期待しました。

 No.3に続きます。
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(為田)