教育ICTリサーチ ブログ

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つくば市立学園の森義務教育学校 授業レポート(2023年2月17日)

 2023年2月17日に、つくば市立学園の森義務教育学校を訪問し、大山喜裕 先生が担当する5年1組の社会の授業を参観させていただきました。

 授業の最初に大山先生は、「これは何のニュースでしょう?」と言って、モニターに一瞬だけニュース画面を表示します。すると、子どもたちから「トルコの地震のニュース」と答えが返ってきます。大山先生は「ニュースをちゃんと見てますねー」と言い、そのままモニターに日本も地震が多く起きる国であることを示す資料を投映して紹介します。
 こうして最新のニュースを教室ですぐに素材として使えるのも、ICTの活用によって可能になっていることです。

 今回の授業は「どうする国土交通大臣! 勝手に 国土強靭化 プロジェクト(KKPⅡ)」と題されていました。子どもたちはグループに分かれて、学習者用デジタル教科書やインターネットを使って災害や災害対策について調べて、わかったことや考えたことをPowerPointにまとめていきます。
 それぞれが国土に関する政策を立案する国土交通大臣として災害について向き合うことで、多角的な視点を意識してもらう学習課題になっていました。

 国土交通大臣として考えなければいけないこととして、「災害(どんなものがあるの?)」「しくみ(どうしておこるの?)」「対策(災害への備えは?)」の3つが提示されていました。
 国土交通大臣として考えなければならない災害は、地震災害・風水害・火山災害・津波災害・雪害など多岐にわたります。グループで「最初に誰がどれを調べるか決めよう」と分担を決めて、それぞれ調べていきます。

 各グループごとにメンバーで共有をしたPowerPointを作っています。スライドごとに分担を割り振ってありますが、PowerPointが共有されているので、リアルタイムでグループのメンバーが書いている他のスライドの様子を見ることができます。自分の分担を調べているときに見つけた良いサイトや写真・グラフなどは、「良さそうなの見つけた!」と言って共有していました。
 また、デザインについても「みんなで文字の色、合わせようぜ!」というふうに話している声も聞こえました。

 災害について調べる素材として大山先生は、学習者用デジタル教科書と国土交通省のホームページなどを黒板に書いて紹介していました。引用元も必ず書くように注意されていました。

 東京書籍の学習者用デジタル教科書が一人1台のWindows端末に入っているので、みんなそれぞれにページを読んでいきます。教科書を使わずに学習者用デジタル教科書のみで見ている子もいました。学習者用デジタル教科書では、本文を拡大して表示することができるので、自分で読みやすい文字のサイズに変更するなど、自分の学習環境を自分で整えることができます。また、写真を拡大表示することもできますので、より細かいところまで見ることができます。こうした点は、デジタルの良さだと思います。

 また、学習者用デジタル教科書を活用することで、教科書に掲載されている写真や図をそのままコピー&ペーストしてPowerPointの中で使うことができます。
 教科書に掲載されている写真などの著作物を共有されているPowerPointに貼り付けるということは、クラウド上にデータを保存することになるので、一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)への届け出が必要になります。SARTRASへの届け出はほとんどの自治体が行っているので、学習者用デジタル教科書をこうして活用できる学校は増えてくると思います。
 SARTRASへの届け出をすることで、教科書という信頼できるコンテンツを使って学習の質を担保することにつながると思います。

 一方で、学習者用デジタル教科書だけではやりにくさを感じる部分もあるようでした。パラパラとページをめくりながら、「あ、ここだ!」と思って本文を読むと、情報がよくまとまっている、というのは教科書だからこその良さです。こうしたことは、紙の教科書の方がやりやすいと感じているのかな、と思う場面が何度かありました。紙の教科書と学習者用デジタル教科書は同じ内容なので、紙の教科書で内容を読んでページを確認してから学習者用デジタル教科書でページを指定して開いている場面を何度か見ました。
 それと、学習者用デジタル教科書の写真や図版をコピーしてPowerPointに貼り付けることはできますが、現状では教科書本文をコピー&ペーストすることはできません。そのため、教科書によくまとまっている情報を紙の教科書を開いてPowerPointに書き写さなくてはいけなくなっています。

 家で自由学習としてインターネットで検索して、1960年のチリ地震についてのページを見つけてきた子もいました。幅広い資料にあたることができるのは、インターネット検索を調べるためのツールとして活用しているからこそです。
 大山先生は教室を回りながら「もっと詳しく知りたい」と子どもたちが思うような質問を投げかけていきます。こうしたことは、グループでの学び合いにプラスして、先生がいるからこそできる学びの場面だと思います。

 学習者用デジタル教科書と教科書、そしてインターネット検索をそれぞれに使いながら、グループでスライドをまとめていきます。「ここの表、使えそうだから4ページにまとめておいて」「この写真、入れたらわかりやすくない?」とやりとりをしながらスライド作りが進んでいきます。

 授業が残り10分くらいになったところで、大山先生は「みんなは国土交通大臣になるんだから、いろいろな質問をされたら答えなければいけないですよ。例えば、“我が国では地震が起こりそうな場所ばかりですが、どうしてそうなっているんですか?”と質問されたら、答えられますか?」と、国会での質問のように子どもたちに問いかけます。 各グループで地震を担当して調べている子たちが、手を挙げて「わかるよ!」「プレートが!」と声を挙げていました。

 それから、「津波を調べていたら、あることにつながってきませんか?」と続けて問いかけると、「地震でしょ?」と教室がザワザワします。各グループでそれぞれに調べていることをクラス全体でシェアをするために、こうして大山先生が全体に向けて問いを投げかけて、それをもとにまた各グループで調べてまとめていくことで学びが深まっていくように思いました。

 学習者用デジタル教科書を活用することで、基本的な情報、特に写真や図版などを一人ひとりが簡単にスライドに使えるのはとてもいいと思いました。そのうえで、インターネットからの情報も組み合わせることで、グループごとに調べる内容も多様になるし、多角的な視点で国土について考えられる授業だと感じました。

(為田)