教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

スマートに学べる問題集「リブリー(Libry)」を提供する株式会社Libry CEO後藤匠さん インタビュー No.5(2021年3月22日)

 スマートに学べる問題集Libry(リブリー)を提供する株式会社Libryが、「2022年春、学習者用デジタル教科書機能をリリース!~「生きる力」を育むデジタル教材プラットフォームへ!~」というリリースを出しました。リブリーが、学習者用デジタル教科書の本格的な普及に向けた2022年春に学習者用デジタル教科書機能リリースについて、CEOの後藤匠さんにインタビューをしてきました。

教科書とはどんな役割をもつべきものなのか

 リブリーが、「学校」や「教科書」から外へ繋がっていくようにという構想をしている出発点として、「教科書をデジタル化させていただく、というのが自分のなかの心境の変化として大きかったと思います」と後藤さんは言います。

後藤さん デジタル教科書として、教科書会社さんにリブリーをプラットフォームとして選んでいただけるとなったときに、その僕たちが知識・技能の習得にだけフォーカスしていたら、結局日本の教育の未来は、知識・技能習得型の未来になってしまいます。
でも、それは今の日本の教育が目指す姿とはズレています。だとしたら、少し背伸びかもしれないですが、「教育の未来をこうしていきたいんだ」と示すためにも、知識及び技能に閉じない機能に手を出していく必要があると思っています。「デジタル教科書になりました。アダプティブラーニングで知識習得を超効率化します、以上。」では、全然おもしろくないじゃないですし、あるべき教育や教科書の姿が作れないと考えています。
僕はしっかりと知識を習得しながら、世の中に目を向けて、自分たちで思考し、判断して、他者と意見を交わし協働しながら力強く未来に向かうという学びを実現したい。そういった「生きる力」を育てるデジタル教科書を目指します。

f:id:ict_in_education:20210525102840j:plain

 後藤さんは、「教科書って本質的に何だろう」と特にこの半年考えてきたそうです。

後藤さん 新学習指導要領を読みながら、教科書の歴史を勉強しながら、そもそも教科書の、日本の教育における役割って何だろう、と考えていました。
教科書がなぜ検定を受け、教科書がなぜ法律によって使用が強制させられるのか。それは、日本の教育の目標の達成に大きく貢献するものだからなんです。教科書の本質は「日本の教育の目標の達成」にあります。
そう捉えたときに、新学習指導用要領に合わせて各社の教科書が素晴らしい進化を遂げつつも、紙であるがゆえに、教科書が本来の目的、つまり「日本の教育の目標の達成」に向けて、機能が足りていないのではないかとも思いました。もっとテクノロジーを活用することで、教科書はより「日本の教育の目標」に対して強く貢献ができると思うんです。
いまの教科書は、ちゃんと習得すれば、知識・技能が身につけられるものではあります。その一方で、思考力・判断力・表現力については、さまざまな工夫はされていますが、実際に養うところまではいけていないと思います。
この教科書をやることによって、思考力・判断力・表現力は養われるのか、社会に向き合う力は養われるのか?と思いました。教科書の内容が「足りていない」というよりは、デジタルのちからを使って「もっとうまくできる」というふうに表現した方がいいでしょうか。

 ここから、「教科書とはどのような役割を果たすべきなのか」という点について、後藤さんの考えを聴きました。

後藤さん 本質的に教科書を捉えるのであれば、「これをやっていれば、子どもたちは日本の教育の達成にかなり近づくことができる」と保証していく、ということが教科書の価値とすることができると思います。
そう教科書の「価値」を捉えればば、ベテランの先生でもビギナーの先生でも、子どもたちの知識・技能も、思考力・判断力・表現力も養えるように最低限サポートしにいくところまでが、教科書に求められている役割なのではないかと思います。

リブリーとしてやりたいのは、「一人ひとりの興味や能力や状況に合わせて、適切な指導や適切な情報が適切なタイミングで提供される学習環境をつくる」ことです。日本の教育において重要な「教科書」を起点としてそのような学習環境を創っていきます。


そうだとしたら、「思考力・判断力・表現力」も、子どもたちの状態を正しく認識できるような仕組みも必要です。社会にどう向き合うかを考えるきっかけになるものも提供したいと思います。当然、基礎的な知識技能の確実な習得もやらなければいけないと思います。不確実性の高いこれからの社会を、強く生き、自分なりの幸福追求をできる子ども達を育てるために、テクノロジーを使って、先生たちもがんばって、子どもたちも向き合って、保護者の方々も支援して…と総掛かりでやればいいんです。

だから、2022年春のアップデートのラインナップに、「ルーブリック評価支援」と「キャリアと学びの連携」が入るんです。教材だから知識習得をすれば良いじゃなくて、日本のあるべき教育の姿を創るために、僕たちとしてどう貢献できるかが重要です。

これらの新機能を使うために、これまでやってきたやり方を全部変えてください、と言うのではなく、学校現場の先生方が守りたいものや、チャレンジしたいと思っているけどできていないことなどを、なめらかに変えていくのがリブリーの世界観です。2022年に向けた新機能は「いままでは知識・技能の習得しかできていなかったけど、この範囲を広げていきましょう」ということなので、新しい挑戦ではありますが、向かうべくして向かう方向性です。

 教科書はよく練られたコンテンツです。教科書だけしっかりやっていたら、もっとできるのに、という子もたくさんいます。しかし、教科書の役割は、テクノロジーによって大きく変わりつつあります。かつてのようにさまざまな情報にアクセスする方法が限られていた時代とは変わってきて、いろいろな情報に手が届くようになってきているなか、教科書はどうあるべきでしょうか。

後藤さん 難しいですよね。教科書が、「必要最小限、この知識があれば、十分条件は満たせるよ」という最小限のわかりやすいコンテンツ集という捉え方もあります。
デジタル教科書になったときに、最小限のパターンでいくなら、PDFでいいということになると思います。でも、最終的に日本の教育の目標を達成するために、自分たちは何ができるだろうと考えたときに、それでは教科書の価値をあまりにも小さく捉えているのではないか、とも思います。教科書を小さくするのか、大きくするのかは悩ましいなと思います。どちらにせよ、僕は日本の教育の目標が達成され、「子どもたちが不確実性の高い社会の中で幸せに生きる」ことができるような環境を創ることを目指していきます。

 デジタルになることで、ページ数の制限などもなくなるので、教科書を大きくすることもできます。教科書にページ数の制限があれば、算数や数学の教科書での解説や解法は削ぎ落とされて、最低限のスモールステップになってしまいます。でも、デジタルになることで、教科書会社がページ数の都合で泣く泣く削った1文や1問を入れることができて、その1文・1問があることでわかるようになる子もいると思います。デジタルならば、その1文、1問を差し込めて、教科書を作っている人たちの思いをもっと反映できるかもしれません。
 教科書を使って学ぶ子どもたち全員が、その差し込まれた1文・1問が必要なわけではありません。そこは個別最適化の文脈だと思います。差し込まれた1文を読んでわかったなと思ったら、そこからリブリーが「ちょっとこれやってごらん」と類題を出してくれたら、それは教科書をアシストしてくれることになると思います。

 だからこそ、教科書会社とリブリーが一緒にやるのはいいことだと思います。教科書を大きくするけど、全部やらなくてもいい。そうすると、いまはわからなかった子がわかるかもしれない教科書ができるようになります。

後藤さん デジタル教科書はアコーディオンみたいだと思う。たくさん情報が必要な子には広げてあげる。要らない子には少なく。いちばん大きいのを教科書にしてしまうと冗長なので、いちばんコンパクトなのを教科書にして、必要なものを枝葉として与えてあげる。
教科書で学べる知識・技能は大事です。結局、思考力・判断力・表現力の基礎の部分が知識・技能ですし、子どもたちが自己肯定感をもつようになるのは、知識・技能のところでわからなかったところがわかるようになる瞬間であることが多いと思います。

でも、日本の教育の目的の達成に貢献するのであれば、教科書がその目的を達成できるように、テクノロジーで補完していきたいです。「知識・技能」は当然ながら重要ですが、それに偏重することなく、「思考力、判断力、表現力」や「学びに向かう力」もバランス良く養えるデジタル教科書を目指します。

 教科書会社も、まずは知識・技能からスタートして、そこから思考力・判断力・表現力を育もうという意図で編集をしていると思います。ただ、そのようにすべての学校で教えられているかというと、そうではない話だと思います。あるいは、「うちの子たちは、こういう思考力・判断力・表現力に関わる問いを出しても答えられない」と先生が思っているからやらないということもあると思います。
 そこをリブリーがなめらかに教科書から繋げて問いを出してくれれば、「意外とこの子たち書けるな」と先生が思うこともあるのではないかと思います。そうすれば、テクノロジーが子どもたちだけでなく、先生方も知らないうちに一歩前に踏み出させられてしまう、ということが実現できるかもしれません。

後藤さん どういうステップでいくかといえば、まず知識・技能。教科書の知識・技能のコンテンツをやりながら、テクノロジーで補強してその過程でなめらかに思考力や判断力なども習得していく。教科書を起点として、日本の教育の目標である「生きる力」を養いながら、子どもたちが強く幸福追求できるようになっていく環境をつくりたいと思っています。そうした願いが2022年春のアップデートに現れています。

 No.6に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)