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学習者用デジタル教科書を起点に「教科書がもっている機能」を考えた(2023年7月29日版)

 学校での一人1台情報端末の活用をサポートしていると、「デジタル教科書ってどうなるんですかね?」と先生から質問されることがあります。正直、僕から見える範囲では「どうでしょう…!?」という感じなので、そう答えています。

 文部科学省のサイト「学習者用デジタル教科書について」の中にある「学習者用デジタル教科書のイメージ」というPDFの下の方に、<学習者用デジタル教科書の導入により期待されるメリット>というのが書かれています。
 しかし、ここに書かれている「デジタル機能の活用による教育活動の一層の充実」と「デジタル教材との一体的使用」ではちょっと範囲が大きすぎて何か分からず、(例)として書かれている「拡大縮小、ハイライト、共有、反転、リフロー、音声読み上げ、総ルビ、検索、保存 等」と「動画・アニメーション、ドリル・ワーク、参考資料 等」では逆に例が個別具体過ぎて大きな目的が見えなくなってしまっているような気がします。

 ここを読む限りは、たしかに学習者用デジタル教科書はあれば便利だと思いますが、ここに書かれていることの多くは他のアプリを使って実現できる機能だったり、外部のサイトを活用することでも実現できることのように思えて、「そうすると、なんでデジタル教科書なの!?」と思ってしまう先生もいるのだと思います。

教科書がもっている機能とは何だろう?

 デジタル教科書について先生方と話していて、「教科書とはどんな機能をもっていて、その機能がデジタル化によってアップデートされるとどうなるのだろう?」ということに焦点をあてて考えてみたらいいのではないかと思うようになってきました。自分が教科書を使っていた目的を思い起こして、教科書のもっている機能(もっていてほしい機能)を考えてみました。4つくらいに分かれるのではないかと思い、仮に分類してみます。

  • 知識技能の伝達:
    正統な考え方、解き方、手順、事柄の伝達
  • リファレンス:
    いつでも学んだ情報を参照可能
  • 習熟のための素材:
    学習者が書き込んで習熟するための素材を提供
  • 習熟トレーニング:
    習熟のための練習問題や課題などの提供

 文部科学省のサイトにある「学習者用デジタル教科書のイメージ」に書かれている科目ごとの利用例、「国語:本文を自由に切り取り 試行錯誤」「算数:立体図形の展開/回転」「外国語活動:発音を音声認識して自動チェック」「理科・社会:理解を促進するための音声・動画」を、この4つの機能に分類してみました。複数の機能にまたがるものもOKにしました。多少MECEでなくても、まずは仮に分類をしてみることを優先します。

  • 知識技能の伝達:
    正統な考え方、解き方、手順、事柄の伝達
    • 算数:立体図形の展開/回転
    • 理科・社会:理解を促進するための音声・動画
  • リファレンス:
    いつでも学んだ情報を参照可能
  • 習熟のための素材:
    学習者が書き込んで習熟するための素材を提供
    • 国語:本文を自由に切り取り 試行錯誤
    • 算数:立体図形の展開/回転
    • 外国語活動:発音を音声認識して自動チェック
    • 理科・社会:理解を促進するための音声・動画
  • 習熟トレーニング:
    習熟のための練習問題や課題などの提供

 それから、「デジタル機能の活用による教育活動の一層の充実」の例と「デジタル教材との一体的使用」の例も当てはまりそうなところに入れてみます。

  • 知識技能の伝達:
    正統な考え方、解き方、手順、事柄の伝達
    • 共有
    • 動画・アニメーション
    • 算数:立体図形の展開/回転
    • 理科・社会:理解を促進するための音声・動画
  • リファレンス:
    いつでも学んだ情報を参照可能
    • 拡大縮小、ハイライト、反転、リフロー(見やすくなる工夫としてまとめて)
    • 音声読み上げ、総ルビ(個人に合わせたフォーマットで情報を受け取るために)
    • 検索
    • 保存
    • 参考資料
  • 習熟のための素材:
    学習者が書き込んで習熟するための素材を提供
    • 国語:本文を自由に切り取り 試行錯誤
    • 算数:立体図形の展開/回転
    • 外国語活動:発音を音声認識して自動チェック
    • 理科・社会:理解を促進するための音声・動画
  • 習熟トレーニング:
    習熟のための練習問題や課題などの提供
    • ドリル・ワーク

 「知識技能の伝達」「リファレンス」「習熟のための素材」「習熟トレーニング」と、教科書のもつ機能を4つに分類してみました。学習者用デジタル教科書は「知識技能の伝達」「リファレンス」「習熟のための素材」「習熟トレーニング」の4つの機能をそれぞれ、どれくらいもっているべき、と先生方がイメージするかによって、学習者用デジタル教科書への評価は違ってくるように思います。
 この4つのうちどの機能が、紙の教科書よりも学習者用デジタル教科書が優れているのか。学習者用デジタル教科書で実現できていないと思われる機能を補うためのツールとしてどんなものが使えるのかを考えていくべきだと感じました。

機能1:知識技能の伝達

 「知識技能の伝達」の機能については、教科書には圧倒的な正統性があります。学校で授業をするときには大切なことだと思います。紙の教科書をそのままデジタルにしている学習者用デジタル教科書にも、正統性があります。

 例えば、たつの市立龍野西中学校の英語の授業では、音声を聴くところは学習者用デジタル教科書を使い、スピーキングの練習のところはGoogleドキュメントの音声入力機能を使っていました。
blog.ict-in-education.jp

 つくば市立学園の森義務教育学校の社会の授業では、学習者用デジタル教科書の図版や写真などをPowerPointに貼り付けてまとめていました。教科書に収録されている図版や写真だからこそ、安心して学習に使うことができます(ネット検索の結果などを入れると、正統性の担保が大変です)。
blog.ict-in-education.jp

 この2つの学校の事例は、教科書がもっている「知識技能の伝達」の機能、とりわけ「正統な考え方、解き方、手順、事柄の伝達」の機能を評価して学習者用デジタル教科書を使い、その後のアウトプットの部分は外部のツールを使っています。

機能2:リファレンス

 僕自身は、「リファレンス」の機能こそ、紙の教科書よりも学習者用デジタル教科書がいちばん強みを発揮する機能なのではないかと思っています。
 紙の教科書では、学習者が前の学年の教科書を簡単に参照することはできません。しかし、デジタル教科書であれば学年を遡ってページを参照することが可能です。自分で関連する単元がわからなくても、単元系統表などを使って必要なページを示すこともできると思います。他教科との連携も可能になります。学習内容のタグ付けとして学習コードが機能し、学習者の学習ログなどと組み合わせられれば、教科書の使い方はだいぶ変わるのではないかと期待しています。

機能3:習熟のための素材

 「習熟のための素材」については、外部サイトにもたくさんの良いコンテンツがあります。また、世界的な企業がツールを提供してもいます。学習者用デジタル教科書で不足している素材があれば、外部の素材を使って補うことはできるのではないかと思います。
 言い換えれば、この機能に着目して「学習者用デジタル教科書を導入すれば、使える教材が増える」ということを根拠にしていくと、「外部のコンテンツもたくさんあるではないか」という話になってしまうと思います。

機能4:習熟トレーニン

 「習熟トレーニング」のところは、学習者一人ひとりが自分の習熟度にあった問題に取り組めるように、アダプティブ・ラーニングができたらいいと思います。
 教科書に掲載されている問題から、正答誤答などの学習ログを蓄積して、一人ひとりに問題を出し分けるアダプティブ・ラーニングができるのが理想ですが、トレーニングするのは外部コンテンツへのリンクでも対応できるかもしれません。現在のEdTechサービスで対応できるものも多くあると思います。

まとめ

 「教科書のもっている機能」というぼんやりとしたところから考えてみましたが、自分としては少し学習者用デジタル教科書を使った授業を見るときの評価軸ができたように思っています。引き続き、考えていきたいと思います。

 自分なりに「教科書の機能」についていろいろと書いてきましたが、それこそ正統性に全然自信がありません。でも、発信することに意味があると思いますので、このままアップします。また続編を出すかもしれないので、タイムスタンプ入りでアップしたいと思います。

 感想、コメントをいただけたらと思います。また、「教科書の機能」についてすでにまとめられている法令であったり、研究だったりがあったら、ぜひ教えていただければと思います。こちらのブログのコメントでも、SNSでもメールでも、ちょっとだけのヒントでもかまいませんので、ぜひ、よろしくお願いいたします。

www.mext.go.jp

(為田)