教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『最先端の教育 世界を変える学び手』

 アレックス・ベアード『最先端の教育 世界を変える学び手』を読みました。著者のアレックス・ベアードさんは、イギリスの高校教師で、世界20か国以上を訪問して、最先端の教育事例についてこの本で紹介しています。
 テクノロジーを用いた学校、教育手法などについての紹介も多くあるのですが、「テクノロジーがどう学校を変えるのか、子どもたちの学びを変えるのか、先生方の授業を変えるのか」ということについて、刺激となる部分が多かったので、読書メモとして紹介したいと思います。

 まずは、ロサンゼルス中央部にあるメルローズ小学校のニードルマン先生の言葉です。学校研修で先生方に伝えていきたい言葉です。

ニードルマン先生は、「テクノロジーは正しい使い方をしなければならない」と感じている。学校が考えるべきは、「どうやってこのツールを使えばいいだろう」という問いではない。「私は何をやろうとしているのか、そのためにこのツールは役立つだろうか」ということだ。ただiPadを学校に導入すれば学習が改善されるなどと期待することはできないし、テクノロジーにこだわりすぎてはならない。こだわるべきところは教師と、学習目標を達成することのほうだ。(p.52)

 また、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOのインタビューも紹介されていました。ここで出てくる「なんでも知りたい(Learn It All)という態度」を教室で生み出し、それをクラスメイトの一人でも多くに感染させることこそ、学校で先生方しかできない仕事だと思っています。

「かりにもともとの能力は低くても、なんでも知りたい(Learn It All)という態度は、かならずなんでも知っている(Know It All)という態度に勝る」とマイクロソフトのCEOサティア・ナデラは2016年のインタビューで語っている。これはスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックの言葉だ。その「固定した」マインドセットと「成長」マインドセットという考え方は世界中の学校に広まりつつある。(p.161)

 また、ハイテック・ハイのCEOであり創設者であるローゼンストックさんの言葉も紹介されていました。

「世界は変わりつつあるのに、学校は取り残されている」と、ローゼンストックは言う。問題は、自分たちは学習革命を一から起こさなければならないのか、それとも「世界が変わることで、学習も自然と変化していくのか」だと彼は考えている。
彼は自然な変化にはあまり期待していない。教育には長期的な取り組みが必要だが、合意点を探るための将来のビジョンや協力は、どうしても政治的な変化による影響を受けてしまう。(略)将来に向けての真に価値ある行動は、自分でしっかりと物事を決め、新しい世代の子供たちを育て、彼らに世界を変えてもらうことだ。(p.386)

 学校で教える内容についても、「何を教えるか」「どう教えるか」について書かれていました。

内容によっては、一方的に教えたほうがいいこともある。読み書きや数学の公式、レーザーカッターの使い方、歴史的事実などがそれに当たる。そうしたものを、それぞれの世代が改めて「発見」しなければならないとしたら時間の無駄だろう。マイケル・トマセロの文化的ラチェット効果の意味はこうした点にある。だがそれ以外にも、子供たちが向きあわなくてはならないことはたくさんある。何を読み、書くか。どこに数学を適用するか。歴史をどう解釈するか。最新のテクノロジーを利用する目的は何か。最善の生き方とは。ここでは、知識は固定されたものではないし、固定することなどできない。こうした難問には議論が必要となる。記憶をすれば認知的能力は高まるが、そのとき学習者はある固定化された世界像を知らず知らずのうちに受けいれることになる。ハイテック・ハイの生徒は、不確実性への備えをしている。(p.387-388)

 たくさんの事例を見てきたあと、最後の「まとめ 学習革命」の章では、学習革命のマニフェストが書かれていました(p.419-433)。

学習革命のマニフェスト

  1. 学びつづける
  2. 批判的に考える
  3. 創造的になる
  4. 人格を鍛える
  5. 早期教育
  6. 協力
  7. 指導力を高める
  8. テクノロジーを賢く使う
  9. 未来を作る

 この学習革命のマニフェストの中でも、特に「8. テクノロジーを賢く使う」のところでは、テクノロジーを学ぶ意義について書かれています。テクノロジーを知ればいいだけではない、ということが書かれています。

正しい組みあわせは、人間+機械+巧みなデータ処理だ。そのため、子供たちが最新の道具を使えるようになることも教育の目的になる。タブレットや携帯電話でさまざまなことを試したり、道具そのものへの理解を深めること。すべての子供が読み書き、算数や科学的な思考を学ぶように、プログラミングの基礎も学ぶべきだ。思考を機械に委ねてしまえば、人間は愚かになってしまう。
将来の仕事のほとんどは、特定の技術的スキルがなくてもできるようになるだろう。読解力や数学力も基礎的なレベルが身についていればいい。ロボットに仕事を奪われないために、大切なのは人間的なスキルだ。栄養や知識、精神、身体的な面で、私達は互いの必要を満たすだろう。テクノロジーが学習におよぼす最大の影響は、逆説的だが、私たちをより人間らしくすることなのだ。(p.430)

 同じく学習革命のマニフェストの「9. 未来を作る」には、教師という仕事がどういう意義をもつのか、ということが書かれています。この部分、自分自身がいまいる業界を選んだ理由と重なっていて、共感しながら読みました。

イギリスで最も権威ある学校で、卒業生から十七人の首相を輩出しているイートン・カレッジには、気候変動活動家で、あえてこの学校で教えるキャリアを選んだ教師がいると聞いた。その理由はいたって単純で、教師になれば、地球を保護するために最も大きな影響を与えられると考えたからだ。彼女の教室で学び、巣立っていく生徒たちはやがて下院議員や裁判官、ジャーナリスト、企業経営者、外交官になっていく。彼女の指導のもと、彼らはみな気候変動活動家として卒業していく。世界を変えたいなら、まずは学校から始めよう。
(略)
いまの子供たちは不確実な時代をうまく生きていくことができる。正しい知識とスキル、態度を身につけさせることができれば、彼らは協力して全員にとってよりよい未来を作っていくことができるだろう。学習とは自分の能力を伸ばす孤独な行為ではない。社会をよりよくするための共同作業だ。(p.431-432)

 社会をよりよくするための共同作業を進めていくために、「システムを変えよう」ということが最後に書かれていました。「システム」は何かができない理由になっているという悪い文脈で登場することが多いですが、私たち自身もシステムの一部なので、これを変えていければより広い範囲で「よりよい社会」を作っていけると思います。

問題解決の特効薬であるとはいえ、教育は子供たちの学習を簡単にする特効薬ではない。私は教育を変えるテクノロジーイノベーションを捜して世界を旅した。だがそこで見つけたのは、学習の未来は私たちのなかにあるということだった。これこそ私たちが目指すべきものだ。「最も重要な社会基盤は教育を受けた人だ」と、世界の教育を改善するために設立された国連の教育委員会の広報担当、アメル・カーブールは言う。その社会基盤を強化することが、私たちの手段であり目的だ。
システムは自分たちの外側のどこかにあるものではない。システムとは私たちであり、それは人と人との関係でできている。誰もがそのなかで役割を担い、よくも悪くも影響を与える力を持っている。人間には生まれつき学習し適応する能力が備わっているのだから、現状は、必要ならば変えていけばいいのだ。子供たちに何を望むのかについて、私たちは共通の決定を下すことができるし、また下さなければならない。家族や学校、共同体といった単位でそれができれば、システムの目的や方法を変えることができる。(p.432-433)

 最後の「システムは自分たちの外側のどこかにあるものではない。システムとは私たちであり、それは人と人との関係でできている」という言葉は、自分自身の仕事に関して、力強く背中を押してくれる言葉だな、と思っています。よりよい社会を作るために、頑張っていきましょう。

(為田)