2024年2月19日にオンラインで開催された、「学習者用デジタル教科書の学習履歴データの活用に向けた共同実証研究」成果報告会に参加しました。東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也 研究室(当時)・東京書籍株式会社・株式会社Lentrance・つくば市の4者が3年間(2021年~2023年)に渡って協力して、つくば市内の公立小中学校・義務教育学校で児童生徒が学習者用デジタル教科書を活用する様子を学習履歴データとして記録し、分析する研究が報告されました。記録した学習履歴データを分析することによって、デジタル教科書の利用実態と学習傾向について成果が報告されました。
成果報告会には、つくば市の全小中学校の先生方も参加
この成果報告会には、つくば市内の公立小中学校から各校1人ずつ先生がオンラインで参加されていました。成果報告会の最初の挨拶で、つくば市教育委員会の森田充 教育長が「新たな成果が聴けるのではないかと楽しみにしています。成果が出ることで、我々も自信をもって進めていくことができる。皆さん、これからの報告をしっかり聴いて勉強していきましょう」とおっしゃっていました。
学習者用デジタル教科書を使って授業をして終わるだけでなく、その学習履歴データを分析した研究成果を聴いてこれからの学校作りに活かしていこうというメッセージだと感じました。今回の成果報告会が、「ここがゴール地点で、デジタル教科書に良い/悪いの判定をする」ものではなく、「ここはスタート地点で、これから学校でどう使うかを考えるために研究してわかったこととわからなかったことを共有する」ものとして位置づけられていることを感じます。
簡単なようで、こうしたスタンスで研究をしている自治体・企業はそんなに多くないと思っています。この研究は、つくば市の先生方とつくば市教育委員会による探究にもなるのだと感じました。
本プロジェクトの主旨・概要
東北大学大学院(当時)の堀田龍也 先生から、最初に「本プロジェクトの主旨・概要」の紹介がありました。
文部科学省は2024年度の本格導入を前にした実証事業で、英語と算数・数学の「デジタル教科書」を小学5年生から中学3年生に無償提供しています。「デジタル教科書」には、先生が授業をするときに使う「指導者用デジタル教科書」と子どもたちが自分のコンピュータで使う「学習者用デジタル教科書」がありますが、今回の研究対象は、学習者用デジタル教科書です。学習者用デジタル教科書は、紙の教科書と内容がほぼ同等でデジタルになっているものです。
堀田先生は、2021年から始まった研究がどのように進んできたかを紹介してくださいました。2021年から始まった研究の1年目に、子どもたちが学習者用デジタル教科書のページを開いてどこをクリックしているかのログがとれる仕組みを作って利用できるようになりました。そして、2年目・3年目にそのログの解析を進めてきたそうです。
堀田先生は「子どもたちの学びがどうなっているのかを、たかがクリックの記録だけから知るのは難しいが、マクロから見るとこういう傾向がありそうだぞ、ということはわかってきた」とおっしゃっていました。
英語の学習者用デジタル教科書を活用している学校でのログについて紹介がされました。英語のデジタル教科書には、ネイティブの英語音声やいろいろな練習ができるコンテンツが入っていて、先生方も子どもたちも使い始めやすいと思います。
研究対象だった学校では、デジタル教科書で学ぶ生徒も、紙を使う生徒も、紙もデジタルも使う生徒もいました。紙とデジタルとどちらの教科書を使うかも含めて、学習の判断は子どもたちがするということでログを集めたそうです。
同時に行ったアンケートで、どういう学習活動に学習者用デジタル教科書を使うことが多くなっているのかを調べたところ、1回目は紙の教科書もデジタル教科書も使って学習するが、2回目にはデジタル教科書を使う子どもが増える学習活動があることがわかったそうです。特に大きく増えているのは「単語の発音練習をする」「教科書本文の音読練習をする」で、子どもたちがこれらの学習活動はデジタル教科書の方が便利だと思っていることがアンケート結果から読み取れます。(参考:「学習者用デジタル教科書・教材から得られる学習履歴データ分析実証研究 2021年度 報告書 概要版」)
ログを記録しているので、学習者用デジタル教科書の画面のどこをクリックしたのかがヒートマップでわかります。学習者用デジタル教科書のページのあちこちがクリックされているが、そのなかでもいちばん使われていている(赤くなっている)のは本文を拡大するボタンで、その次に挿絵でスキットの練習をするボタンになっているので、教科書本文の音読練習に使っていることがわかります。
このように、学習者用デジタル教科書の操作ログを見ることで、紙の教科書を使っていてはわからなかった、子どもたちがどんな学習活動を一人ひとりがしているのか、ということがデータでわかるようになってきています。
堀田先生は、2023年度の挑戦として、以下の4つを挙げていました。
2023年度の挑戦
- まずクリックログを分析対象とする
- ノイズがどれくらい混じっているのか
- 学習したかどうかを推定するには何を指標にすればよいか
- 学習が成立していると推定される場合のクリック行動はどういうものか
ただどのボタンがクリックされているか、ということを知るだけでなく、「学習したかどうか」を推定できるか、というところまで研究されようとしていることがわかります。こうしたことがわかれば、学習者用デジタル教科書を使って「どのように学ぶことが学習に繋がるのか」ということを先生方に伝えることができると思いました。
No.2に続きます。
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(為田)