教育ICTリサーチ ブログ

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夏の学校見学シリーズ:関西大学初等部訪問(2015年7月3日)

 7月3日に、大阪府高槻市にある、関西大学初等部を訪問しました。山中昭岳 先生が担当されている小学校5年生の算数の授業を見学させていただきました。

みんなで考える算数の授業

 山中先生の教室でまず驚くのは、その教室レイアウト。みんなが前を向いている形での授業はほとんど行なわない、ということでした。といって、みんながしゃべってしまって先生の話を聴いていない、ということもありません。このレイアウトの方が「学び合い」に適しているから、と山中先生はおっしゃっていました。
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 この日の授業のテーマは、「合同の三角形をかく」というものでした。でも、山中先生は最初は児童に何も言わず、ただホワイトボードに「この三角形と同じ大きさと形の図形をかきましょう」とだけ書きます。そして、「はい、かいて」と言うと、児童からは、「いやいや、この三角形ってどれ!?」とリアクションが。もちろん、もうすっかり先生の方をググっと見て集中しています。知りたい情報があるので、しっかり集中して聴こうと意識を向けています。
 「それじゃ、見せるから、見ててね」というと、児童はすでにiPadで撮影をしようと待ち構えています。このあたり、使い慣れているな…と思いました。
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 この日の授業のテーマは、「合同の三角形をかく」というものでした。でも、山中先生は最初は児童に何も言わず、ただホワイトボードに「この三角形と同じ大きさと形の図形をかきましょう」とだけ書きます。そして、「はい、かいて」と言うと、児童からは、「いやいや、この三角形ってどれ!?」とリアクションが。もちろん、もうすっかり先生の方をググっと見て集中しています。知りたい情報があるので、しっかり集中して聴こうと意識を向けています。
 「それじゃ、見せるから、見ててね」というと、児童はすでにiPadで撮影をしようと待ち構えています。このあたり、使い慣れているな…と思いました。
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 まだこの段階では、長さも角度も情報として与えられていないので、「これだけじゃかけない!」という声があがります。ここから、「じゃあ、何が情報としてほしいの?何がわかれば、同じ三角形がかけるの?」と山中先生は質問をします。
 児童たちは考えて、自分なりの意見を次々に言っていきます。山中先生は、挙手しての意見も、つぶやかれた意見も、どんどんホワイトボードに書き込んでいきます。
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 そうして、ようやく長さや角度などの情報を得て、いよいよ「同じ図形をかく」という課題に取り組みます。ここからは同じ三角形をかくための工夫を始めます。コンパス、分度器、ものさしなど、自分の持っている道具を使って、同じ三角形をかき始めます。

 「どういうふうにすれば合同の三角形をかけるか」というのは、かき方を教えてしまえば簡単です。ここであえて、それぞれで考えさせるのは、時間がかかる教え方です。隣の人と話し合いながら考えて身につけたかき方は、ただ「かき方」を覚える以上の効果がある、と先生が思っているからではないかと思いました。
 山中先生に、「先生に我慢がいりますね」と話したら、「そうなんです、でも、時間をとって待って、学び合いができるようになると、児童たちはすごく伸びていくんです」とおっしゃっていました。問題を投げかけて、信じて、待つ。これがポイントかなと思いました。
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 この後、2人組になって、お互いにどうやって同じ三角形を描いたかを録画しました。「何を使ってどんなふうにかいているのか」を実況中継している児童もいます。もちろん、恥ずかしがる子もいますが、ペアでやっているので、それぞれのペースで三角形を描いていきます。
 教室内を移動しながら、山中先生は児童たちに適宜声をかけていきます。
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 授業の最後に、録画した動画をみんなで見てみます。友だちの動画をたくさんみて、まとめている児童に出てきてもらって、この授業のふりかえりしてもらいます。
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 一度、三角形をかく様子を最後まで全部見終わったところで、山中先生から「いくつの情報でかいてた?」と質問されます。この質問への答えを探すために、もう一度みんなで動画を見ます。実は、塾に行っていて、すでに合同の三角形の公式を知っている児童もいます。ですが、「知っている」ということと、「そのかき方となぜそうかくのか理由をきちんと説明できる」、というのは大きく違います。
 こうした情報共有をすることによって、「まとめのノートがとてもよくなった」と山中先生はおっしゃっていました。
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考え方を考える ミューズ学習の成果

 関西大学初等部では、思考力育成を重点とし、考え方を考える「ミューズ学習」をしています。ミューズ学習では6つの思考スキル=考える技(「組み立てる技」など名前がついています)を教えています。
 山中先生は、ミューズ学習をしっかりやってきているから、小学校5年生ではそれをどう使うか、という応用の段階に入っていると言います。「この学校では、先生は“ちゃんと考えなさい!”とは言いません。“どう考えるか”を教えているので」とおっしゃっていました。
 算数の授業を見学させていただいて、先生と児童とのやりとり、児童同士のやりとりなどを聞いていて、ミューズ学習と一般教科の結びつきもきちんとできているのだと感じました。
www.youtube.com

 関西大学初等部のミューズ学習については、書籍も出版されています。

まとめ

 山中先生の授業を見学しての感想は、とにかく児童の顔をよく見えるようにしているのかな、ということです。図を見せるやり方ひとつとっても、少しずつ情報を出すようにして興味を駆り立てる、という工夫がされています。その結果、みんなが「先生は、次は何を言うんだろう?」と集中して、先生の顔をよく見ています。もちろん、先生からもみんなの顔がよく見えていると思います。
 2人組で三角形をかいているときは、先生は説明をしているわけではありませんから、みんなの視点を集めてはいません。その時間は、とにかく教室を歩いて、いろんな児童に声をかけていきます。学習態度も含めて、さまざまなことを考慮しながら、授業を進めているように思いました。

 これらは、iPadを一人1台持っているから…という理由ではありません。これまでずっと学校現場で培われてきたノウハウが大切で、そのうえでiPadやICTを活用している、ということだと思います。


 関大初等部、まだこれから卒業生が活躍をしていくと思いますが、「考え方を考える」という教育とICTの結びつきが、どんな児童を育てるのか、楽しみに見て行きたいと思います。