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新潟市教育委員会「新潟市インターネット接続環境及び意識調査」実施レポート(2020年5月8日)

 新潟市教育委員会 学校支援課の片山敏郎 先生のFacebookに、以下のような投稿がアップされました。

今日の午前11時半に出した通知を基に、各学校のメール配信システムから保護者にネット環境調査を配信してもらいました。各学校も保護者も素早く対応してくださり、半日にも満たない21:00時点で約50,000件の家庭数のうち、23,000件の回答をいただきました。
リアルタイムで数値が変わり続ける凄さを目の当たりにしています。接続環境は9割を超え、多くの積極的な意見があることが明らかになりそうです。また、学校のパソコン室の開放ニーズも高いですし、環境格差に不安を感じている方々も少なくないことが分かりました。
しかし、Googleのシステムの凄さと、アンケート回収の早さ等、社会の意識やリテラシーが相当高くなっていることを実感しました。
この凄さを上に伝えていき、判断材料にすることと、現場におろして役立ててもらうことが私の役割です。
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 Googleフォームを使ってのアンケートは、学校や教育委員会の研修でデモンストレーションをして見せると、「これ便利!」と言ってもらえることが多いのですが、「セキュリティが心配…」という声も聞かれ、なかなか導入がされていない印象でした。それを、新潟市全体50,000件で行う大規模な取り組みに本当に驚きました。半日で23,000件の返信が来て、それがデータとして勝手に集計されていく、というのは見たことがない光景です。

 Googleフォームは、家庭と学校を結びつけるツールとして非常に強力だと思いますし、教育委員会単位、学校単位で、それぞれのニーズにあった形で利活用が進めばいいなと思っていましたので、どうやって新潟市教育委員会が、今回の意識調査を全市で導入するに至ったのか、片山先生にお話を伺いました。


Q:新潟市全体でGoogleフォームを活用するということについて、決定に至った経緯を教えていただけませんか?

片山先生:はい。新潟市では、4月当初から家庭への情報環境調査をすることを検討していました。その際の一番の検討の視点は、如何に各学校に負担をかけずに調査をするかでした。というのは、新潟市は、4月当初休校にせずに、感染症対策に取り組みながら学校を再開していました。その対応に、各校の管理職も担任も、全力のエネルギーをかけていたからです。
アンケートをメールで各校に配付し、家庭数で配付してもらい、担任に集計してもらい、その結果をエクセルで打ち込んでもらい、市教委に提出するという従来調査のやり方では、「印刷」「配付」「回収」「集計」「提出」という5つの工程があり、項目数を少なくしたとしても、学校に負担がかかります。
少しでも現場の手間を減らすには、アンケートを市教委で集計するという方法があります。近隣の自治体ではそのような方法を取りました。それでも、やはり、回収までは学校で行います。更に、新潟市のような家庭数40000から50000規模となると、市教委で集計作業をすることも物理的に厳しいです。
そこで、その次に考えたのが、紙で配り、QRコードでアクセスして貰い、Googleフォームで回収する方法でした。これは、配付直前まで行きましたが、再度の臨時休校が決定し、その中で、紙一枚を印刷配付することも大変だろうということで、見送りました。
しかし、どうしてもこのアンケート調査は、必須でかつ喫緊の課題だということで、考えた結果、休校延長が決まったこのタイミングで、メール本文を学校に送り、通常、不審者情報等の配信に使っている各学校から家庭への連絡メールシステムで、リンク先と共に配信してもらうことにしたのです。それであれば、学校の手間は、担当者(通常は管理職か情報主任、生活指導主任)の手間のみとなります。実際、お昼少し前に配信して、午後1時すぎには、保護者からのメールが集まり始めました。学校の意識が高いこともありますが、家庭に届けるための手間を最小にしたことも、迅速にできた理由の一つと思います。


Q:実際にやってみて、どのような感想を持たれていますか?(手応え、想定外だったこと、今後の方向性へのフィードバックなど)

片山先生:列挙します。


<成果>

  1. 想像以上に迅速に回答が集まったこと。(学校への通知から40時間経過時点で37000件)
  2. 回収率が高いこと。(40時間経過時点で、家庭数の推計8割が回答)
  3. 反響が大きいこと。(上司を含め、この規模での円滑な結果集計に驚いています。)
  4. 効果が高いこと。(迅速かつ回収率高く実施できることは作業効率の改善になります。)
  5. とても簡易であること。(アンケート作成そのものは、1時間かかりません。起案を通すまでの検討の日数が作業時間のほとんどです。)
  6. 概要を掴む上で、有効であること。(新潟市の園児・児童・生徒がいる家庭数の8割の意見が、簡単にグラフで見られること。)

<課題>

  1. 学校ごとの実態を把握するには、再集計の手間がいること。
    • 学校数が170ほどなので、それぞれのデータをソートをかけて作る作業の手間はあります。その際に、学校名を打ち込みにしたので、ミスタイプ等のズレの修正等が大変と思われます。また、小・中複数にまたがる家庭を分けずに打ち込むような設計をしたので、事後処理が大変です。アンケートの作り方によってある程度は解決できる問題とは思います。
  2. クラウド上であることからデータが消える不安があること。
    • 配信前のテストの段階で、調査項目の編集・修正をしていたら、調査項目がなぜか消えてしまうエラーが起き、その前にテストで回答していたデータが消えてしまいました。
      そのことから、配信後は、項目の編集を行わないように徹底しています。また、万一、データが消えても良いように、数時間ごとに、フォームデータをExcelデータに変換しています。


Q:クラウドで情報をやりとりすることについて、セキュリティを心配して、Googleフォームを活用することを悩んでいる学校もありますが、そういった点についての対応はどのようにされましたか?

片山先生:今回、メールアドレスを収集しない設定で行いました。無記名なので、個人を特定できる情報がないので、セキュリティー上の心配はほぼありません。紙で集めて、収集の過程でシュレッダーをかけないという人為的ミスや、友達に見られる等のリスクの方が高いです。
ただ、記名式や個人情報を集める際は、その旨も告知する必要はあると思います。
文部科学省も、クラウド バイ デフォルトのセキュリティーポリシーへ舵を切ったわけですので、過度な心配をするのではなく、リスク管理をして活用すべきと思います。
ただ、操作ミスによる漏洩等、人的エラーでの漏洩が起こりうるのは、紙と同じです。基本的に、集める個人情報の範囲をミニマムにし、保護者の同意(協力をお願いし、難しい場合はその方に代替の方法を用意する等)の下に進めるべきと思います。


Q:今後、新潟市のこの取り組みを見て、次に続く自治体や学校も出てくるかと思うのですが、そうした自治体や学校に対してのメッセージをいただけますか?

片山先生:Gsuiteの普及により、教員や児童・生徒へのアカウントの付与が徹底すれば、Googleフォームを使った取組は、全く特別なことで無くなります。多くのクラスで日常的に授業で使うようになり、学校でのGoogleフォームでの調査は、当たり前になるでしょう。
その際は、アンケートを出しすぎて、保護者に逆に負担感が生まれたり、回答率が減ったりするなどの新たな問題が生じるかもしれません。それを恐れてやらないのではなく、まずやってみることが大切で、ミニマムな問題の発生を前提に進めその都度解決していくことをお勧めします。
なお、Googleフォームの上限は、設問数と調査人数の積が500万件と聞きました。これは、ネットで調べた中で、教えていただいた中で信ぴょう性のありそうな情報というだけで、違っているかもしれません。より大きな自治体で実施する場合、大規模集計でつまずかないようにするために、確認をすると良いと思います。

 学校と児童生徒・保護者との繋がりを、ICTを活用して繋いでいくことは、全国の学校で求められています。休校期間だからこそ、というものではなく、今後も学校の武器として活用できるものだと考えています。この新潟市教育委員会の事例が、他の自治体での活用を後押しして、学校の情報化が進んでいけばいいな、と思います。

(為田)