教育ICTリサーチ ブログ

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書籍ご紹介:『教養としてのコンピューターサイエンス講義』

 ブライアン・カーニハン『教養としてのコンピューターサイエンス講義』を読みました。プリンストン大学の大人気講義を書籍化したものだそうです。原題は「Understanding the Digital World: What You Need to Know about Computers, the Internet, Privacy, and Security」です。
 まえがきに、以下のような文章が書いてありました。

私は学生と読者が技術について知的に懐疑的であってほしいと願っています。技術はしばしば良いものですが、決して万能薬ではないということを知ってほしいのです。悪い影響を及ぼすこともありますが、技術は決して純然たる悪というわけではないのです。
リチャード・ムラーの素晴らしい著書“Physics for Future Presidents”(未来の大統領たちのための物理学)は、指導者たちが取り組まなければならない、核脅威、テロリスト、エネルギー、地球温暖化などの、重要な問題の底に横たわる科学的ならびに技術的背景を解説しようとしたものです。大統領になることを熱望していなくとも、知的な市民ならこうした話題についてもある程度知っている必要があります。ムラーのアプローチは、私が達成したいと思っていること、つまり「未来の大統領たちのためのコンピューティング」のための良いヒントです。
未来の大統領は、コンピューティングについて何を知っているべきでしょう?そして知的な市民は、コンピューティングについて何を知っているべきでしょう?(p.8-9)

 この本では、3つのコア技術(ハードウェア、ソフトウェア、コミュニケーション)に関する話題を読むことができます。すべてに詳しくなくてもいいと思いますし、すべてを記憶していなくてもいいと思いますが、どうした原理であるのかについて知っておくのにとても良かったと感じています。
 僕は1994年入学で大学に入って、その大学では情報処理が必修でした。そこで学んだことはこの本の中でもまだたくさん言及されていて、外側については技術はどんどん進歩していて、もうわからなくなっていても、土台の部分については大学で学んで良かったと思っているものがまだまだ残っているように思いました。新しく出てきた技術については、アップデートをかけていけばいいのであり、いちばんの土台の部分を知るためには、こうした本の役割は大きいと思いました。

 プログラムを書けるようになる、プログラミング教育にそのまま活用することができる、というタイプの本ではありませんが、学校の先生も読んでおくことで、テクノロジーの土台部分についての理解をブラッシュアップできるのではないかと思います。

 また、こうした本を読むと、2019年10月にComputer Science World in Asiaで東京大学大学院情報学環長・教授の越塚登 先生がおっしゃっていた、「なぜコンピューテーショナルシンキングを学ばなければならないか?」という言葉を思い出します。
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 越塚先生は、実務的な視点から、「社会的なコミュニケーションコストを下げるために、文字や文章を読み書きできることと同じくらい重要」「デジタル社会で生き残るためにはコンピュータやインターネットの仕組みを知ることが不可欠」とおっしゃっていました。新型コロナウイルス対応で、大人がリモートワークを取り入れ、学校はオンライン授業に取り組んでいる今、この言葉は何度も思い出しますし、これから変わっていく社会において、コンピューターサイエンスについての知識は、より重要になっていくと思います。

(為田)