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宮城教育大学附属小学校 授業レポート No.3(2021年10月20日)

 2021年10月20日に、宮城教育大学附属小学校を訪問し、安倍彰人 先生が担当する6年4組のコンピュータサイエンス科(以下、CS科)の授業を参観させていただきました。
 宮城教育大学附属小学校ではプログラミング教育にとどまらず、より適切にコンピュータを活用するために、その特性や原理についての科学的な理解を学ぶことを目指して、年間10時間のCS科を設けてカリキュラム開発及び授業研究が進められています。

 今回の授業のテーマはAIでした。安倍先生が「AIとは?」と質問すると、子どもたちからは「人工知能」「便利なもの」「うちにあるAlexaは、調べることも人間より速いし、会話もできる」「過去の情報や失敗を活かして行動する」「人間と違って知能はあるけど感情をもたない」「人間がプログラムを構成したもの」などの答えが挙がりました。
 子どもたちからは、実際に知っているものとして、Siri、Googleアシスタントなどのソフトウェア、ペッパーなどのロボット、ルンバやエアコンなどの家電も挙げられていました。
 安倍先生は、そこから「ルンバはどこがAIなの?」と質問をします。「物があったらぶつからずに避ける」「2階の階段から落ちないようになっている」「家の構造をたしかめて、プログラムを組んで掃除する」などの答えが返ってきました。
 こうしたディスカッションは、プログラムで制御している部分とAIの部分との違いについて考える機会になると思いました。

 「AI」という言葉を知っていても、実際にそれがどのように機能しているのかまでは分からないことが多いので、実際に使ってみることが重要だと思いました。
 この日は、6年4組の教室の入口のところに、体温を検知することができるサーモカメラが置いてありました。順番に一人ずつサーモカメラの前に立って体温を測ってみます。安倍先生は、「このサーモカメラにもAIが使われています。どこがAIだろう?」と問いかけ、みんなで考えていました。サーモカメラを題材にすることで、生活のなかにあるAI(=テクノロジー)について考える機会になります。
 子どもたちもいろいろなことをサーモカメラの前で試していました。マスクをつけずに測ると、「マスクをつけてください」と言われたり、近づいて顔が大きすぎたら測れなかったり、サーモカメラがどのように動いているかを自分たちなりに考えていました。

 サーモカメラでマスクをしているかどうかをAIを使ってどうやって判断しているのか、機械学習の3つのステップ(1. データを与える→2. 判断基準を作る→3. 判断をする)を安倍先生は紹介していきます。
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 そして、それを自分たちで実際に作ってみるために、一人1台のChromebookでTeachable Machineのサイトへアクセスして、マスクをしているかを判断するAIを先生が作ってみます。
 データを与えるために、マスクあり(Class1)とマスクなし(Class2)で、それぞれ写真を撮影してAIに学習をさせます。ここまでやると、プレビュー画面できちんと判別できるか気になった子どもたちから、「先生、やってみてくださいよ!」と声があがっていました。
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 ここで、自分たちにもTeachable Machineを自分のChromebookでやってもらいます。最初のうちは、AIが「マスクあり」か「マスクなし」か迷うケースが多かったようです。「では、どうすればいいだろう?」とみんなで考えていくと、「もっとたくさん写真を撮ればいいのでは?」「データの種類を増やそう」「サンプルを増やせば、100%に近づいていく」とだんだん解決策が見つかっていきます。自分一人で50枚以上、写真を撮って学習させている子もいました。
 また、やっているうちに、自分のメガネを外して撮影してみたり、他の人の写真を撮影して入れてみたり、さまざまな試行錯誤が生まれていきました。
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 授業の最後に安倍先生が感想を訊いてみると、「男女でマスクあるなしで迷っているような感じがした」「わたしは男子のマスクもちゃんと分かった。男女関係ないんじゃない?」とコメントが出ていました。実際に男女が関係ないのか、安倍先生がやってみると、「いや、先生は性別というよりマスクの色が違う!」という風に、どうやって判別しているのかのディスカッションへと繋がっていきました。
 たくさんの情報があればいいわけではなく、質が良い情報が必要なのではないか、という意見も出ていました。こうした意見は、自分で何枚も撮影してみて自分なりのAIを作ってみたからこそ出たものだと思います。

 今回のTeachable MachineのようなAIでマスクをしているかを判断して、その判断をもとに「マスクをしてください」と言わせるのはプログラムです。この後、CS科の授業は「AIで、こんな物があったらいいなというプログラムを作っていきます」と安倍先生は最後に言いました。
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 授業後に安倍先生にお話を伺うと、「Teachable Machineを体験ができることの強みがあった。体験が始まったところから、子どもたちのリアクションが良かった」とおっしゃっていました。

 今回の授業は、CSの系統表のなかでは、「コンピューティングと社会との関わり」のなかの「AIの利便性と危険性」に繋がっていく授業でした。
 安倍先生は、「体験をすることで、問いが生まれた。なんでこれじゃうまくいかないんだ、ここが問題じゃないか、と問いが出てきて。そこから試行錯誤ができるというところが良かった」と評価していました。自分たちでやってみたからこそ、「たくさんのデータが必要だ」「そこには質が必要だ」「自分で画像を増やそう」「他の人の画像ならどうだろう」とどんどん意見が出てきていました。
 予定では、データの質のところまでは行く予定ではなかったそうで、Teachable Machineの体験によって、予定以上のところに子どもたちがはやく到達できた、と評価していました。今後も、AIの精度を高めていくことを自分たちなりに行っていくのが楽しみです。

 No.4に続きます。
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(為田)