C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第3章 課題中心型インストラクションの原理」を読んでいきます。僕はICTを活用した授業を担当することが多いので、自分でカリキュラムを書くときには、この「課題中心型」になるように考えていることが多いと思いました。だからこそ、こうしてモデルを知ることと問題点を知ることは重要だと思っています。
「学習者中心の教育パラダイムの主な焦点の1つは、学習者中心の指導において内発的動機づけと協働を支持するために、現実社会の課題を学習の中心に据えることである」(p.66)→そのモデルのひとつが、課題中心型のインストラクション(Task Centered Instruction: TCI) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
TCIは、課題中心型の学習方法であり、メリルの5つの主要要素(1.学習課題 2.既有知識の活性化 3.例示/モデリング 4.応用 5.統合/探究)をどう使うかを処方している。(p.66) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
「TCIの目的は、効果的・効率的な学習とともに、現実的な文脈への知識の応用と転移を重視する傾向がある」→対照的に、PBLの目的は、柔軟な知識、深い理解、問題解決スキル、自己主導学習スキル、効果的コラボレーション、自己主導的動機づけの発達に重点(p.67) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
「知識構築を支援し、情報時代において意味のある学習経験を提供するためには、現実の問題を中心に学習を進めていくことが重要」→「課題は、ターゲットスキルと知識の成果を得るまでの学習効率の低さ」→TCIが両者の中間点となり得る方法論を提供(p.67) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
情報時代の学校になり、一人1台の情報端末が活用できるようになれば、課題に一人ひとりが取り組むことができるようになります。課題中心型インストラクションの存在感は大きくなるように思います。
「TCIの重要性は、情報時代の学習ニーズに合った学習者中心のアプローチとしての、学習者中心の教育パラダイムとの関連にもある」(p.67):・教師主導でなく学習者主導による学習を可能に ・学習者の進歩を時間基盤型ではなく、達成度基盤型で測るべきという考えに適合 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
「TCIを経験することにより、学んだことが実際にどのように学校外環境で役立つかを、指導者や学習者がより明確に考えるようになる傾向がある」(p.68) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 3, 2020
課題中心型のインストラクションの普遍的原理についても書かれていました。なんとなくの実践にならないように、どういう点を考慮して設計しなければならないのか、まとめられていました。
課題中心型インストラクション(TCI)の普遍的原理(p.69-75):
- 学習課題
- 指導者またはデザイナーは、学習者が主要概念に対応した知識とスキルを現実的な方法で適用することを要求する課題は何かを複数、特定する必要がある。(学習の過程でどのトピックを網羅して学習者に提示するかを決定するのではない)
- これらの課題は、学習者が学習後直面する現実世界の課題を元に作られるべきであり、学習状況の制約内で可能な限り多く、現実の課題と同じ側面を含むべきである。
- TCIでは科目の学習に必要なトピックに関連する一連の学習課題が示される。学習者はこれらのトピックを学習・適用して課題を完了することが求められる。これら一連の課題では、次の学習課題を完了するためにはますます多くの知識が必要とされるようなものを開発・配置するべき。
- これら一連の課題に取り組む経験から、学習者は関連情報や認知方略を習得し、それらを将来の経験のために転移することができるようになる。
- 既有知識の活性化
- 既有知識の活性化(activation)とは、学習され、完遂されるトピック・課題に関連する認知構造を活性化することを意味する。
- 学習者に関連する以前の経験を互いに共有させたり、あるいは新しい知識を体系化するための構造を想起させるための構造を想起させることによって可能になる。
- 例示/モデリング
- 学習課題の実行方法を学習者に示すこと、学習課題に関連する手続き的および支援的な情報を提供することが含まれる。
- 学習者に提示される例示/モデリングの量は、学習者が知識を身につけるにつれて徐々に減少させていく。
- 学習課題に関連する情報は、学習課題の実行方法を示す実際の例示の前または最中に提示される。手続き情報と支援的情報の2つに分類できる。
- 手続き的情報:学習課題を実行するために取るべき一般的な手順に関する情報
- 支援的情報:学習課題に関連するトピックや概念が含まれるが、学習課題を完了するための手順そのものではない。学習課題に適用されている教科関連の概念は、支援的情報とみなされる。
- 講義型のプレゼンテーションよりも例示/モデリングが有効であると近年の研究でも確認されている。対面式、ビデオ、およびピア例示を含むさまざまな例示の有効性に焦点を当てた研究もある。
- 応用(application)
- TCIでは、学習者は学習課題を実行するために自分の知識を適用する。TCIでの応用は、実際の科目内の学習経験の一部として行われる(学習成果の応用が学習終了後に行われるという仮定の上で設計されている学習経験とは異なる点)
- 学習者が自身のパフォーマンスを改善する方法を模索するために、学習者によるパフォーマンスの能動的な自己モニタリングを含むべき。学習者に自身の思考過程を言語化させるなど。
- 統合 / 探究
一方で、課題中心型のインストラクションの実装上の問題も書かれていました。ここで書かれている、「学習課題の特定」については、学校の先生のカリキュラム・マネジメントには及ばないな、といつも思っています。教科で学んだことを、どう課題に織り込むかというところがやはり僕としてはできていない部分だなと感じています。
課題中心型のインストラクションの実装上の問題(p.81-84):
- 学習課題の特定
- 実世界の経験を提供しながら、必要なすべての知識とスキルを網羅し、そして学習者のスキルレベルに一致させるような適切な学習課題を特定・設計することの困難さ。
- 学習者が身につけるべき知識とスキルを使って十分な練習を受けられるようにしながらも、真正で関連性が強く感じられるような学習課題を選択しなければならない。
- 利用可能な資源対学習者数
- 学習の深さと広さ
- 完全習得の徹底
- 理想的には、各学習者が学ぶべきすべての概念とスキルを完全習得する必要がるが、それを保証することは困難なので、協働作業を取り入れる。
- 指導者は各グループが行う協働作業に構造を追加する必要がある。グループメンバーが同じ知識を応用する機会を持てるようにしたり、各自の知識を判定するために学習者を個別評価したり。
実装するときの課題に触れているなかでも、テクノロジーとメディア環境がこれを解決していくかもしれない、という表現が多く書かれています。「学習の深さと広さ」や「完全習得の徹底」は、オンライン教材やアダプティブラーニングができるEdTechなどの活用により、実装を助けられる部分も多いと思いました。
No.4に続きます。
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(為田)