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『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』 ひとり読書会 No.4「第4章 個人に合わせたインストラクションの原理」

 C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterハッシュタグ#学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。

 今回は「第4章 個人に合わせたインストラクションの原理」を読んでいきます。「個人に合わせたインストラクション」は、文部科学省経済産業省の実証事例でもキーワードになっています。きちんと理解しておきたいところでした。


米国教育省は、2010年国家教育工学計画報告書で「個人化(personalization)とは学習要求に歩調を合わせ、学習者ごとの学びの嗜好や興味に対応して作られるインストラクションである」と定義した。「完全に個人に合わせた環境においては、学習目標と内容のみならず、学習方法とペースもすべて異なる可能性がある(したがって、個人化には差別化(differentiation)と個別化(individualization)が含まれる)」(p.12)とした。(p.92)

 米国教育省の報告書に関連していろいろ検索していて見つけたPDF「personalization(個人化) VS differentiation(差別化) VS individualization(個別化)」はちょっとおもしろそうです。

 PIES(Personalized Integrated Educational System:個人に合わせた統合型教育システム)の話については、アダプティブラーニングをはじめ、いまの経済産業省がやっている「未来の教室」実証事業にもすごく近いところがあると思いました。昨年の12月に関わらせていただいた、アダプティブラーニングの教材を対バンで比べたイベントで、「アルゴリズムなりAIなりで、次の問題がどんどん出題されて、それに応じてやっていくだけでいいのだろうか?」という質問がされたのを思い出した。PIESによって提示されてやらされる学習は、自分の学びと言えるのだろうか?というのは考えなければいけないことだろうと思います。が、これはものすごく難しい…

 自分で「何を学ばなければならないのか」「どうやって学ぶのがいいのか」をわからなければいけないでしょうね。

 個人化教授システム(PSI: personalized system of instruction)、モンテッソーリ法、個人に合わせた課題選択モデルなども紹介されていました。PSIは、スキナーの行動主義的アプローチからプログラム学習教材の話へと繋がっていきます。ときどきアダプティブラーニングのEdTechについて教員研修などで紹介をしたときに、「そんなの、昔からあったよ」というふうにコメントされることがあります。

 個人化(personalization)という概念について、以下のように書かれています。

(個人化(personalization)という概念は、)「相当に強い学習者の自律性と学習プロセスの方向づけを支援する学習者中心性の側面を表している。個人に合わせるアプローチは、知識基盤型の学習成果を促進することに加え、学習者の自己調整能力を発展させ、内発的動機づけを促進し、そして学習者のやる気を喚起させるものでなければならない」(p.99)

 ここは、すごく大事なところだと思っています。重視されるべきは「学習成果」と「知識とスキルの完全習得」であり、「効率的な教授方法」ではありません。勘違いすると、ひたすらに個々に効率的にドリルをするだけ、になりかねません。「やる気を出す」ということを考えるならば、個人でなく集団でやる方がやりやすいこともありそうだとも思いますが。

 個人に合わせたインストラクションは、学びのためにある手段であり、目的ではない。テクノロジーがない状態でもできることはできるが、実際にはすごく大変だし、学校教育などのクラス人数を考えれば、ほぼできなかったといっていいのではないかと思います。テクノロジーは、「いままでできなかったことを実現してくれるツール」となるのだと思います。

 先生方がこれまでに積み上げてきた知見に、テクノロジーを活用することで「個人に合わせたインストラクション」ができるようになることで、学びの場をアップデートすることが可能になるのではないかと思っています。

 No.5に続きます。
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(為田)