C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第4章 個人に合わせたインストラクションの原理」を読んでいきます。「個人に合わせたインストラクション」は、文部科学省や経済産業省の実証事例でもキーワードになっています。きちんと理解しておきたいところでした。
情報時代の教育パラダイムは、「標準化されたものではなくカスタマイズされるべきであり、コンテンツ配信中心的ではなく学習中心的であり、教師主導ではなく学習者主導(または共同主導)であり、受動的学習よりも能動的学習を伴うものである」(p.91) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
米国教育省は、2010年国家教育工学計画報告書で「個人化(personalization)とは学習要求に歩調を合わせ、学習者ごとの学びの嗜好や興味に対応して作られるインストラクションである」と定義した。「完全に個人に合わせた環境においては、学習目標と内容のみならず、学習方法とペースもすべて異なる可能性がある(したがって、個人化には差別化(differentiation)と個別化(individualization)が含まれる)」(p.12)とした。(p.92)
米国教育省の報告書に関連していろいろ検索していて見つけたPDF「personalization(個人化) VS differentiation(差別化) VS individualization(個別化)」はちょっとおもしろそうです。
「テクノロジーの役割も個人に合わせた学習の概念や定義の中でその重要性を高めており、個人に合わせた学習をサポートするためのデータマイニングの使用は現在の研究の中のもう1つの注目点である」(p.92-93) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
PIES(Personalized Integrated Educational System:個人に合わせた統合型教育システム)の4つの主機能:「学習の記録」「学習の計画」「学習の指導」「学習の評価」(p.93) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
PIES(Personalized Integrated Educational System:個人に合わせた統合型教育システム)の話については、アダプティブラーニングをはじめ、いまの経済産業省がやっている「未来の教室」実証事業にもすごく近いところがあると思いました。昨年の12月に関わらせていただいた、アダプティブラーニングの教材を対バンで比べたイベントで、「アルゴリズムなりAIなりで、次の問題がどんどん出題されて、それに応じてやっていくだけでいいのだろうか?」という質問がされたのを思い出した。PIESによって提示されてやらされる学習は、自分の学びと言えるのだろうか?というのは考えなければいけないことだろうと思います。が、これはものすごく難しい…
究極的には「システム主導による学習者のためのカスタマイズという体系化されたアプローチを超え、知識だけでなく自己調整学習スキルを身につけるために、学習者による制御を取り入れるべきである」(p.93) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
自分で「何を学ばなければならないのか」「どうやって学ぶのがいいのか」をわからなければいけないでしょうね。
ライゲルースによる「工業社会のニーズを満たすために、時間基盤型の教育システムがいかに適していたか」の説明:「教育時間を固定化することで、パフォーマンス結果に差異が生じることを強いるシステム」(p.93)→時間を区切ることで全員ができるようにあえてしていない #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
個人に合わせたインストラクションは、長い歴史があるが、公式なモデル化は文献上、限られた数しかない。←「おそらく現在の時間基盤型で指導者主導型の教育システムの中で、個人に合わせたインストラクションを実施することの難しさに起因していたと思われる」(p.95) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 10, 2020
個人化教授システム(PSI: personalized system of instruction)、モンテッソーリ法、個人に合わせた課題選択モデルなども紹介されていました。PSIは、スキナーの行動主義的アプローチからプログラム学習教材の話へと繋がっていきます。ときどきアダプティブラーニングのEdTechについて教員研修などで紹介をしたときに、「そんなの、昔からあったよ」というふうにコメントされることがあります。
個人に合わせたインストラクションが「何を含み、どのように実装されるべきかをよりよく理解するために、いくつかの具体的な価値観が役立つ(略)個人に合わせたインストラクションは、最も基本的なレベルで学習者中心であることに要約される」(p.99) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
個人化(personalization)という概念について、以下のように書かれています。
(個人化(personalization)という概念は、)「相当に強い学習者の自律性と学習プロセスの方向づけを支援する学習者中心性の側面を表している。個人に合わせるアプローチは、知識基盤型の学習成果を促進することに加え、学習者の自己調整能力を発展させ、内発的動機づけを促進し、そして学習者のやる気を喚起させるものでなければならない」(p.99)
「個人に合わせるアプローチは学びを重視している。つまり最も効率的な教授方法を見つけることではなく、学習成果と知識とスキルの完全習得に重点が置かれるべきである」(p.99) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
ここは、すごく大事なところだと思っています。重視されるべきは「学習成果」と「知識とスキルの完全習得」であり、「効率的な教授方法」ではありません。勘違いすると、ひたすらに個々に効率的にドリルをするだけ、になりかねません。「やる気を出す」ということを考えるならば、個人でなく集団でやる方がやりやすいこともありそうだとも思いますが。
「指導者の重要性は軽視されるべきではないが、その役割はコンテンツの供給者ではなく、学習の促進者およびメンターとなることに変容する必要がある」(p.99) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
「個人に合わせるアプローチでは、既存の要素を学習者個々の特性に基づいて適応させるだけのシステムを開発するのではなく、個々の学習者に焦点を当て、それぞれのニーズを最大限に満たすために学習者による選択とゴール設定を伴うべき」(p.99) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
個人に合わせたインストラクションのデザインを導くための普遍的原理:1.個人に合わせた教育ゴール 2.個人に合わせた課題環境 3.個人に合わせた指導的足場かけ 4.個人に合わせたパフォーマンスと学びの評価 5.個人に合わせた省察(p.100-106) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
個人に合わせたインストラクションは、時間基盤型システムにおいても実行することが可能なのは、ケラーのPSI(Personal System of Instruction, 個人化教授システム)でも示されている(p.107) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
時間基盤型システムで個人に合わせたインストラクションをするときの懸念:「完全習得が大事だと言われているにもかかわらず、実際には学期のカレンダーが時間の期限を決定するので、時間がこの種のアプローチの主な懸念である」(p.108) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
「必要なすべての学習目標を習得するまで、学習者に「未完」という成績評価(incomplete)を与えることも、もう1つの選択肢である」(p.108)→カーン・アカデミーをはじめ、オンライン学習のサイトではincompleteで何度も戻って学習をするのは普通に定着しているもの。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
個人に合わせたインストラクションは、学びのためにある手段であり、目的ではない。テクノロジーがない状態でもできることはできるが、実際にはすごく大変だし、学校教育などのクラス人数を考えれば、ほぼできなかったといっていいのではないかと思います。テクノロジーは、「いままでできなかったことを実現してくれるツール」となるのだと思います。
テクノロジーによって、「個人に合わせたインストラクションの実施が著しく容易になる。(略)各学習者のゴールや現在の進捗状況、および達成記録を追跡する必要があるため、テクノロジーは学習を個人に合わせるシステムにおいて強力なツールである」(p.109) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
「ただし、テクノロジーはインストラクションを個人に合わせるために必須ではない」→ただし「紙ベースのシステムで個人に合わせるアプローチを実装するには、学習者の学びを計画、追跡、保存、報告するための体系的で構造化されたアプローチを取る必要がある」(p.109) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 11, 2020
先生方がこれまでに積み上げてきた知見に、テクノロジーを活用することで「個人に合わせたインストラクション」ができるようになることで、学びの場をアップデートすることが可能になるのではないかと思っています。
No.5に続きます。
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(為田)