C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第12章 反転授業のためのインストラクションのデザイン」を読んでいきます。「反転授業」は、これからの授業づくりのために知っておいた方がいいと思います。全部を反転授業にしなくても、また休校という事態になったときに反転授業のアプローチで言う、「授業外」の場面が学びに入ってくることになります。この機会に、反転授業のためのインストラクションのデザインについて学んでおきたいと思いました。
「反転授業の教授モデル(flipped classroom instructional model)は、通常は授業内で実施される指導を授業外へ移行するために、テクノロジーに大きく依存している。」(p.318) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
「一般的に、典型的な反転授業での主なゴールは、有意義で魅力的な課題を完了することにより学習者がともに授業内容を理解できるような時間を、授業中に確保することである」(p.318) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
最初は大学で行われていた反転授業ですが、小学校・中学校・高校でも導入が始まっているように思います。今回の新型コロナウイルスの感染対策での休校期間を経てオンライン授業や動画授業を配信していた学校は、反転授業あるいはそれに近いところまで実現しているケースも多くあると思います。それは、テクノロジーの発展によって可能になったことです。
「教育テクノロジーの進歩により、初等中等高等教育のすべての学年レベル(K-16)の教育者にとって、反転モデルの魅力が高まった。」(p.318)→これが可能になったのは、授業外コミュニケーションをテクノロジーがよりインタラクティブにできるようにしたから。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
ただし、どの学校でもすぐに反転授業ができるわけではない、ということが書かれています。
「反転授業を広く実装することの必要性は唱えられているものの、このモデルはどの学習環境でも採用できるわけではない。」(p.318) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
「反転授業では、学習者は定期的に対面で会い、また授業外で通信するためのテクノロジーにアクセスできなければならない。そして、設計された授業内での指導は学習共同体の一員として完遂される学習者中心の課題を含んでいなければならない」(p.318) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
「反転授業を成功させるためには、ビデオ講義と従来と同じような宿題以上のものが必要である。反転授業モデルを使って学習者中心の指導を作るためには、慎重な授業設計が必要である。」(p.318) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
授業設計が重要だということがわかります。また、反転授業で基礎的な部分を授業外で習得してきてもらった後、どんな議論を教室でするのかというのは行き先が見えにくいこともあり、授業設計をしっかりしなければ、「そもそも何で反転授業にしたんだっけ?」となってしまうのではないかと思います。
続けて、反転授業を設計するにあたり、先生はどんな役割をすべきなのかが書かれています。
「反転授業モデルに最も適切なことは、指導者が授業内の情報源としての役割から離れることである。」(p.319) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
「検索エンジンとオンラインサイトによって高品質と低品質両方の専門的な情報が得られる今日、指導者は学習者が容易に見つけられる大量の情報を使って思考する方法を学ぶ支援をする必要がある」(p.319) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
反転授業を設計するための論理的枠組みが依拠している信条がp.319からp.324にわたって、まとめられていました。
- 学習には、経験と情報伝達との療法が重要である(デューイ、1990)
- 「デューイは、学習は経験から始まると主張した。教室での授業において、学習者の経験に焦点を当てることにより、指導者は学習者がこれまでに体験したことを、これから体験することに移行するのを促すことができる。」(p.320)
- 「学習者の経験が向かう方向に注意を向け、彼らが単に「何かをやっている」だけではなく、それをやることが「何を意味するか」を捉えることができるように、学習者の経験を形作ることが指導者の役目となる。これは、自身がしていることのさまざまな側面を学習者が概念化し、それらの概念と経験とを具体的に結び付けることで達成される。」(p.320)
- 「デューイの理論は、反転授業においては、授業外での情報伝達と授業内での学習者の経験との間の相互作用を効果的に構築することが決定的に重要であることを示している。」(p.320-321)
- 「デューイはこのように表現している。「経験の代替にしてしまっては有害となってしまう『内容の伝達』は、経験を解釈し、拡張するためには非常に重要である」(p.321)
- 学習者は思考の対象をどのように変換するかを考えるときに知識を構築する(ピアジェ、1970)
- 学習者の理解は、彼らが他の人の助けを借りて何ができるかを観察すると最もよく理解できる(ヴィゴツキー、1978)
- インストラクショナルデザイナーは、学習共同体が個々の学習者の学習にどのように影響与えるかを説明する必要がある(レイヴ&ウェンガー、1991)
- 「レイヴとウェンガーは、学習の社会理論をさらに発展させるために、実践共同体での見習いの比喩を用いてヴィゴツキーの理論を展開した。彼らは、共同体での学習は、古参者と新参者との両方がその共同体の実践への十全的参加(full participation)(あるいはもっと十全的な参加)とはどのようなものなのかを交渉するときに起こると論じた。」(p.322)
- 「学習を何かのために(すなわち、何かを促進するように)設計する必要があることがわかる」(p.322)
- 教授設計のためのウェンガーの記述的原理(p.322-323)
- 実践の設計は、参加と具象化との間のどこかに常に位置づけられる。その実現は、これら2つの側面がどのように適合するかに依存する。
- 学びの実践は設計の結果ではなく、設計への応答であるため、設計と実践での実現との間には不確実性が常に内在している。
- いかなる共同体も、他の共同体の学習を完全に設計することはできない。また、自身の学習を完全に設計することもできない。
- 設計は、同一化と交渉の領域を形成し、さまざまな形態での参加あるいは非参加に、関係する人々の実践を方向づける。
ものすごく重たい引用をしましたが、どれも教室の様子を思い浮かべて読むと、完全に理解はできなくても、「ああ、こういうことなのかな…?」とぼんやりつながるようなエピソードを先生方はたくさんもっていらっしゃるのではないかと思います。
前にも書きましたが、レイヴとウェンガーの「正統的周辺参加」は、自分が作りたいと思っているカリキュラムにすごく影響を与えているなあ、と思いながら読んでいました。参考文献も読んでみたいですが、洋書か…。時間が足りないんだよな…Kindle版もないのか…悩みますね…。
続いて、反転授業を設計するための普遍的原理が紹介されています。
反転授業を設計するための普遍的原理(p.327-332)
- 授業外の課題を活用して学習者の省察を促し、学習者からの反応を引き出す
- 授業内の課題を活用して、学習共同体の一部として新しい知識を構築する
- 「授業内の課題では、学習者が自分自身の当初の推論を振り返って吟味し、他の共同体メンバーによる推論も同様に検討することを求める必要がある。」(p.330)
- 「学習共同体の他のメンバーとの省察や交渉を求めることで、学習者が最終的に内容の理解を洗練し、深めるようになる。このプロセスは、学習者のエンゲージメント(積極的に意味の交渉に参画すること)、想像(共同体での意味の交渉に貢献する方法を異なる学習経験イメージから推定すること)、および擦り合わせ(教室での広範な意味づけへ貢献できるように教室の構造に従って振る舞うこと)によって支援される。」(p.330)
- 授業外の課題と授業内の課題に同じ教授手法を使用して、両者を連結する
- 授業の指導アプローチ(例:ディスカッション、問題基盤型など)は、学習者の学習の方向性を設定するので、「学習者が一貫した指導を経験するためには、授業外と授業内の部分が同じアプローチに従っている必要がある」(p.331)
「実際に反転授業を設計して実施すると、この単純なアイデアが、学習者と指導者が意味を交渉する方法に影響を与える多くの変数を含め複雑で微妙な学習空間を形成することがすぐにわかる」(p.339) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) 2020年9月19日
GIGAスクール構想による一人1台の情報端末を持つようになり、オンライン/オフライン、同期/非同期でさまざまな学びができるようになると、反転授業の実践は日本の学校でも広がっていくのではないかと思います。そのときのために、この章は読んでおいてよかったと感じました。
No.13に続きます。
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(為田)