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『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』 ひとり読書会 No.12「第12章 反転授業のためのインストラクションのデザイン」

 C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterハッシュタグ#学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。

 今回は「第12章 反転授業のためのインストラクションのデザイン」を読んでいきます。「反転授業」は、これからの授業づくりのために知っておいた方がいいと思います。全部を反転授業にしなくても、また休校という事態になったときに反転授業のアプローチで言う、「授業外」の場面が学びに入ってくることになります。この機会に、反転授業のためのインストラクションのデザインについて学んでおきたいと思いました。

 最初は大学で行われていた反転授業ですが、小学校・中学校・高校でも導入が始まっているように思います。今回の新型コロナウイルスの感染対策での休校期間を経てオンライン授業や動画授業を配信していた学校は、反転授業あるいはそれに近いところまで実現しているケースも多くあると思います。それは、テクノロジーの発展によって可能になったことです。

 ただし、どの学校でもすぐに反転授業ができるわけではない、ということが書かれています。

 授業設計が重要だということがわかります。また、反転授業で基礎的な部分を授業外で習得してきてもらった後、どんな議論を教室でするのかというのは行き先が見えにくいこともあり、授業設計をしっかりしなければ、「そもそも何で反転授業にしたんだっけ?」となってしまうのではないかと思います。

 続けて、反転授業を設計するにあたり、先生はどんな役割をすべきなのかが書かれています。

 反転授業を設計するための論理的枠組みが依拠している信条がp.319からp.324にわたって、まとめられていました。

  • 学習には、経験と情報伝達との療法が重要である(デューイ、1990)
    • 「デューイは、学習は経験から始まると主張した。教室での授業において、学習者の経験に焦点を当てることにより、指導者は学習者がこれまでに体験したことを、これから体験することに移行するのを促すことができる。」(p.320)
    • 「学習者の経験が向かう方向に注意を向け、彼らが単に「何かをやっている」だけではなく、それをやることが「何を意味するか」を捉えることができるように、学習者の経験を形作ることが指導者の役目となる。これは、自身がしていることのさまざまな側面を学習者が概念化し、それらの概念と経験とを具体的に結び付けることで達成される。」(p.320)
    • 「デューイの理論は、反転授業においては、授業外での情報伝達と授業内での学習者の経験との間の相互作用を効果的に構築することが決定的に重要であることを示している。」(p.320-321)
    • 「デューイはこのように表現している。「経験の代替にしてしまっては有害となってしまう『内容の伝達』は、経験を解釈し、拡張するためには非常に重要である」(p.321)
  • 学習者は思考の対象をどのように変換するかを考えるときに知識を構築する(ピアジェ、1970)
    • ピアジェの理論は、経験を通じて学習者がより低い知識の状態から高い知識の状態に移行する方法をより深く理解するのに役立つ」(p.321)
    • 「人間は、思考の対象を何らかの方法で変換するために用いた行動を省察した場合にのみ、知識を構築する」(p.321)
    • 「反転授業によって指導者が学習者の学びを支援するというゴールを達成するためには、学習者が内省的抽象化に関与する方法を設計し、さらに指導者がその内省的抽象化の結果を学習者の学びの強化に活用するための方法も設計に組み込む必要がある。」(p.321)
  • 学習者の理解は、彼らが他の人の助けを借りて何ができるかを観察すると最もよく理解できる(ヴィゴツキー、1978)
    • ヴィゴツキーによると、人は個人史と社会史との双方の中で実行され、それらが導く心理的プロセスを通じて、より高い水準へと知識を発達させる。」(p.321)
    • ヴィゴツキーの人間発達論が反転授業の設計に与える示唆としては、学習者が知っていることは、各々が1人でできることを観察するよりも他の人の助けを借りて何ができるかを観察することによって、よりよく理解できる、という概念を応用することがある。」(p.321)
  • インストラクショナルデザイナーは、学習共同体が個々の学習者の学習にどのように影響与えるかを説明する必要がある(レイヴ&ウェンガー、1991)
    • 「レイヴとウェンガーは、学習の社会理論をさらに発展させるために、実践共同体での見習いの比喩を用いてヴィゴツキーの理論を展開した。彼らは、共同体での学習は、古参者と新参者との両方がその共同体の実践への十全的参加(full participation)(あるいはもっと十全的な参加)とはどのようなものなのかを交渉するときに起こると論じた。」(p.322)
    • 「学習を何かのために(すなわち、何かを促進するように)設計する必要があることがわかる」(p.322)
    • 教授設計のためのウェンガーの記述的原理(p.322-323)
      • 実践の設計は、参加と具象化との間のどこかに常に位置づけられる。その実現は、これら2つの側面がどのように適合するかに依存する。
      • 学びの実践は設計の結果ではなく、設計への応答であるため、設計と実践での実現との間には不確実性が常に内在している。
      • いかなる共同体も、他の共同体の学習を完全に設計することはできない。また、自身の学習を完全に設計することもできない。
      • 設計は、同一化と交渉の領域を形成し、さまざまな形態での参加あるいは非参加に、関係する人々の実践を方向づける。

 ものすごく重たい引用をしましたが、どれも教室の様子を思い浮かべて読むと、完全に理解はできなくても、「ああ、こういうことなのかな…?」とぼんやりつながるようなエピソードを先生方はたくさんもっていらっしゃるのではないかと思います。
 前にも書きましたが、レイヴとウェンガーの「正統的周辺参加」は、自分が作りたいと思っているカリキュラムにすごく影響を与えているなあ、と思いながら読んでいました。参考文献も読んでみたいですが、洋書か…。時間が足りないんだよな…Kindle版もないのか…悩みますね…。



 続いて、反転授業を設計するための普遍的原理が紹介されています。

反転授業を設計するための普遍的原理(p.327-332)

  1. 授業外の課題を活用して学習者の省察を促し、学習者からの反応を引き出す
    • 「反転授業モデルを用いる指導者は、学習者が授業内容を理解するための足場かけとして使える重要な情報を決定し、その情報を何らかの方法で具体化(具現化)し、テクノロジーを用いて、授業の前にその具体化された情報を学習者に伝える必要がある」(p.327-328)
    • 「授業外の課題を情報の伝達のみの場所として扱うのではなく、反転授業の設計者はこれらの課題を「プロセスの始まり」と見なすべきである。つまり、授業内で行う課題の「出発点」になる」(p.328)
  2. 授業内の課題を活用して、学習共同体の一部として新しい知識を構築する
    • 「授業内の課題では、学習者が自分自身の当初の推論を振り返って吟味し、他の共同体メンバーによる推論も同様に検討することを求める必要がある。」(p.330)
    • 「学習共同体の他のメンバーとの省察や交渉を求めることで、学習者が最終的に内容の理解を洗練し、深めるようになる。このプロセスは、学習者のエンゲージメント(積極的に意味の交渉に参画すること)、想像(共同体での意味の交渉に貢献する方法を異なる学習経験イメージから推定すること)、および擦り合わせ(教室での広範な意味づけへ貢献できるように教室の構造に従って振る舞うこと)によって支援される。」(p.330)
  3. 授業外の課題と授業内の課題に同じ教授手法を使用して、両者を連結する
    • 授業の指導アプローチ(例:ディスカッション、問題基盤型など)は、学習者の学習の方向性を設定するので、「学習者が一貫した指導を経験するためには、授業外と授業内の部分が同じアプローチに従っている必要がある」(p.331)

 GIGAスクール構想による一人1台の情報端末を持つようになり、オンライン/オフライン、同期/非同期でさまざまな学びができるようになると、反転授業の実践は日本の学校でも広がっていくのではないかと思います。そのときのために、この章は読んでおいてよかったと感じました。

 No.13に続きます。
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(為田)