教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『AI時代の教師・授業・生きる力 これからの「教育」を探る』

 渡部信一『AI時代の教師・授業・生きる力 これからの「教育」を探る』を読みました。ICTを活用することで、授業がどう変わっていくのかということについて、事例が具体的に書かれている部分が勉強になりました。

 化学の時間でICTを活用していた事例が紹介されていました。

教師は、ある化学アプリ内の映像を生徒たちに見るように言いました。この学校の生徒は一人一台タブレットPCを持っているのです。その映像はかなり衝撃的で、多量のナトリウムを大きなプールに投げ入れるという映像でした。投げ入れられたナトリウムは水と反応し、轟音とともに水しぶきが上がりました。教室のあちらこちらからドン・ドン・ドンと音が鳴ります。教師から事前に「水と激しく反応する」と聞かされていた生徒も予想をはるかに超えたあまりの大きな爆発にびっくりして何度も繰り返して見て、隣の生徒とともに感想を言いながら笑っていました。
ナトリウムと水の反応を見る実験は、化学室で生徒が実際に行うこともできます。しかし、ごくごく少量のナトリウムを用いて行われてきました。水、もしくは濡らしたろ紙の上で小さなナトリウムがまるで生き物のように動いて溶けていきます。金属が水に溶けるという点では生徒にとってはじょうしきてきではないのでそれはそれで驚きのある実験なのですが、インパクトという面では明らかに動画の方が上でした。(p.106-107)

 実際に見てみようと思って、YouTubeにアクセスして「ナトリウム 水」と検索ボックスに入力していくと、その後ろには「爆発」「反応」「発火」とキーワード候補が並ぶので、笑ってしまいました。
 いろいろな動画を見ることができますが、比較的短めの海外の動画を見てみましたが、コメント欄に「この動画、学校で見させられた」というのもありました。
www.youtube.com

 化学の実験だけでなく、小学校低学年での事例も紹介されていました。

「例えば、ハルジョオンヒメジョオンって春から夏によく見かける白い花で両方よく似ているのですが、それをスケッチして、その構造の違いを比べるという授業が小学校低学年にあります。当然ですが子どもたちはみんな構造をひかくできるほど上手にスケッチできませんし、みんなだいたい同じ絵をかきます。」(p.154)


↓ ICTを使っていいよ、と言えばどうなるか?


「不思議なものでスケッチにするとみんな同じでも、写真にするとみんな切り取り方が違うのです。ちなみに最近はインスタとか写真に凝るのがふつうですから、小さな子でもびっくりするくらい凝ったアングルで撮る子もいます。様々な角度から撮られた写真を見れば、構造の違いについて児童自ら気が付くのではないかと思います。」(p.154)

 一人1台の端末を持って、みんなでそれぞれに撮影をしたりすると、視線も大人よりずっと低いですし、全然違うアングルで写真を撮影してくるのを見るのはとても楽しいです。ICTを活用することで、観察学習のしかたはアップデートされるといいな、と思っています。

 また、最後にテクノロジーを教育の場で学ぶことの必要性についても書かれていました。

今後、便利さを追求する技術開発がますます進行し、私たちをより効率的な生活へと、そして無駄と失敗のない「エコ」な生き方へと導いていくことでしょう。無駄と失敗のない「エコ」な生き方は、一見魅力的に思えるかも知れません。しかし、(略)無駄と失敗を経験しなければ、非効率、非合理的な方法を経ることでしか得られない「内在的な成功感」や「持続的な探究心」が養われることはありません。また、そのような生き方が当たり前になると、無駄と失敗に対する抵抗力が欠如するでしょう。「便利なAI時代」だからこそ、あえて不便な手段を用いることで、無駄と失敗を切り抜ける力を養えるような教育のあり方を考える必要があります。(p.187)

 無駄と失敗を経験させるためには、ICTを使わないほうがいいのではないか、と思われがちですが、無駄と失敗をたくさん経験させることは時間がかかります。それをしていると学校での時間が終わってしまいます。ただし、ICTを活用すれば、無駄も失敗もこれまでよりもずっとたくさんできるようになります。プログラミングも、作文も、そういう観点でICTを活用すればいいのではないかと思います。

(為田)