教育ICTリサーチ ブログ

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【先生向けアンケート】小中学校でICTはどれくらいマストアイテムでしょうか? 結果レポート

 2021年2月にこのブログで告知をさせていただきました、「小中学校でICTはどれくらいマストアイテムでしょうか?」というアンケートの結果をまとめてみました。
 動機は、「ICTはマストアイテム」というタイトルの講演をする機会をいただくなかで、「学校には他にもマストアイテムがあるな」「それらと比べるとどんな違いがあるのかな」というのが気になったことでした。
 全部で44件の回答をいただきました。小学校教員25名、中学校教員11名、中高一貫校教員1名、高等学校教員1名、特別支援学校教員1名、教育関係者5名でした。ご回答いただきましてありがとうございました。

 「ICT」「紙の漢字ドリル・計算ドリル」「リコーダー」「習字セット」「裁縫セット」「そろばん」の6つについて、「これって、マストアイテムですか?」と5点満点で答えていただきました。
 オンラインで回答を募るアンケートなので、バイアスはかかるかと思いますが、ICTが学校にあるさまざまな備品のなかでどのような位置づけになるのかを考えるきっかけになるといいな、と思いました。

「ICT」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 今回のアンケートの発端となった、「ICT」は、マストアイテムか、という質問には、44人中35人が最高点5をつけています。オンラインでこのアンケートを知って回答していただいている方々がほとんどなので、想像できる結果だと思います。この思いを、ここからどう広げていけるか、が勝負だと思っています。
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「紙の漢字ドリル・計算ドリル」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 学校で学んでいた時にお世話になっていた、「紙の漢字ドリル・計算ドリル」です。いちばん多い点は3でした。小学校の先生方にとってはマストアイテム!という方が多いかと想像していましたが、そうでもないのだな、と感じました。
 一方で、「不要だ=1」をつけている方も8人いらっしゃいました。デジタルドリルなど、代替できるものが増えてきたから、ということかもしれません。
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「リコーダー」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 教育系のイベントで「学校を卒業したら、二度と吹くことがない」というコメントをときどき聞くこともある「リコーダー」については、最高点5が多数派となりました。「不要だ=1」を付けている人は、1人だけです。前の項目の「紙の漢字ドリル・計算ドリル」と比べてみるとおもしろいですね。
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「習字セット」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 「習字セット」も最高点5をつけている方がいちばん多かったです。個人的には、海外交流の場面などで、習字ができるといいな、と思うことが多いです。
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「裁縫セット」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 いまになって、ボタンをつけたりできない自分に気づいて、家庭科って大事だな、と僕は思うことが多いのですが、「裁縫セット」も最高点5がいちばん多かったです。
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「そろばん」は、一人1つもつべきマストアイテムだと思いますか?

 最後に、「そろばん」です。そろばんでいちばん多かったのは、最低点1でした。小学校の先生、中学校の先生が1をつけています。
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いただいた評価の理由

 アンケートに参加していただいた先生方には、「評価の理由」をフリーアンサーで書いていただきました。上のグラフと合わせて読んでいくと、どういった観点があるのかということを知ることができると思います。

  • 日本文化継承の面から、そろばんや習字セットは外せないと考えました。(中学校教員)
  • 数人に一つでは、時間を効率よく使えないから。(教育関係者)
  • ICT以外は、使用頻度や共有可能かどうかで評価しました。(教育関係者)
  • リコーダーは大した重さじゃないので一人一つでも良いのでは(衛生上でも)、書道セットは文化的価値ぐらいしか見いだせない(指導するなら一人一つが望ましいと思うが)、裁縫セットは学校に配備したものを貸し出した方が良いのでは、そろばんは暗算まで辿り着くこと前提で有用 (高等学校教員(教科:情報))
  • 現在の使用頻度から考えたから(小学校教員)
  • ICTについては、何を指しているのか明確ではなく、範囲が広すぎるため。習字や裁縫など、日本文化に触れること、生活で必要な技能を獲得することに関わるものについては、一人1つ必須だと思う。(小学校教員)
  • 実社会、今後を見据え、また文化面も踏まえてで必要か必要無いかで判断(教育関係者)
  • 紙のドリルも必要だと個人的には思います。一冊しっかりやりきった達成感などを感じられる良さがあると思います。(小学校教員)
  • 1人1台端末はいつでも必要な時に活用できるところが最大のメリット。難しく考えず、コンパスや定規などの文房具と同じように、いつ、どこでも使える点では評価できる。(小学校教員)
  • 今もそうだし、これからもしばらくそうなのは、暮らしにICTが欠かせない時代になっているから、ICTはマストだと考えました。それ以外は、選択制でも良いのではないかと考えました。(小学校教員)
  • 時代は変わっているのに、マストアイテムが変わらないのはおかしいですよね。(小学校教員)
  • ICT持ち帰り可能となったら紙のドリルは必要なくなる。デジタルドリルで充分。リコーダーはさせるなら口をつけるので個人持ちかな。(小学校教員)
  • リコーダー、習字、裁縫など実際に手を動かして技能を育てるものは今後も必要だと思う。iPadなどのデジタル機器の操作を中心とする授業との切り替え(気分転換)にもなって良いのではないか。そろばんについては現状の扱いでもかなり微妙なため不要であると思う。(小学校教員)
  • 文房具としては1人1台あった方がいいですが、ICTが学びの妨げになっている児童も見受けられます。定規で手遊びするように。大切なのは、文房具ではなく、それを有効活用して学びたいと思える課題設定だと感じています。パソコンで遊んでいる子を見ると、もっといい課題を持たせてあげたいなと反省です。(小学校教員)
  • 従来、保護者に購入してもらい学校で使用していたリコーダーなどについては購入する必要性があまり感じない。なぜならば、普段の生活の中で使用する場面があまりないものを購入する必要がないと思う。(中学校教員)
  • ドリル学習は紙ベースでなくてもできる世の中になってきていると思います。そろばんは学校で準備したもので十分です。ICTが1人一台になることで、できることがどんどん増えていくと感じています。(小学校教員)
  • 活用頻度と共有しにくいものは個人持ちが必須なので、裁縫セットや習字セットは必要。紙のドリルはクロム持ち帰りが当たり前になるまで必要。という理由です。(小学校教員)
  • 生徒たちの近未来を展望した時に必要なスキルを磨けるかどうかが判断基準。漢字は書いた方が覚えられるし、習字は藝術であるから触れた方が良い。これはITではできないこと。リコーダーもそう。裁縫はできた方が生活の質を上げる。そろばんは日常的な計算能力は上げるがアカデミックな数学的思考力を上げるわけではないので、そろばんにかける時間をエクセルの習得にかけた方が将来的に役立つ。(中高一貫校教員)
  • やるkeyなどでの経験上,計算ドリルは紙ベースでなくていいと思います。一方漢字ドリルについては,やらせたことがないので今一つイメージがわかないので,3にしました。書き順や字形などノートに練習した方が,身につくのかなと思いました。でも書き順・字形チェックもアプリ上で可能でしょうから,もしかしたら漢字ドリルも紙ベースは必要なしとなるのかもしれません。リコーダーは,音楽の学習の中で唯一自分が人並みにできた楽器なのでマストであってほしいのですが,作曲や音楽を楽しむという視点からいけば,ガレージバンドなどのアプリを活用して創造力を高める機会をあったほうがいいと思います。音楽室にはクラス児童全員が演奏できる数の楽器があると思いますが,基本の楽器としてリコーダーを残すということもありだと思います。習字は「美術」の一つとして取り上げた方がいいのではないでしょうか。「手本の通りに写す」ことよりも「字をアレンジして自分なりに考えて書く」方が,子供たちは熱心に取り組みます。「そろばん」は,実生活でも使う機会がないので純粋に必要ないです。計算の考え方というのかわかりませんが,よさもあるでしょうけど,必要性は感じません。「裁縫セット」は個人持ちにすることで,安心の「一家に一台」って感じでたまに使えるのでいいかと。(小学校教員)
  • ドリル→その力をつけるためにあっている方法は、個によってちがうから。裁縫セットは、人生の役に立つから。ワイシャツのボタンが取れた時に自分でつけるぐらいのスキルはあったほうがよいのでは?習字セット→文字を手書きできれいに書くことは文化の継承になっていく。そろばん→計算方法もその人にあった方法でよい。計算機もあるので。(小学校教員)
  • ICTは三角定規やコンパスと同じ扱い、リコーダーは自分の物でなくてもいいかもしれないが、口につける物なので、衛生面を考えると一人1つ。紙のドリルは問題がICTで提示され、漢字や計算用の練習用紙があれば「紙のドリル」は不要と思う。(小学校教員)
  • どれも貸し借りをしているから。(中学校教員)
  • 一人一つの基準が曖昧。授業中全員の意味だとドリル以外はマストアイテム。きょうだいで共有可と考えて評価しました。(小学校教員)
  • 個別支援学級の担任をしています。この子たちには、マストアイテムではないと感じます。(小学校教員)
  • ドリル物は、基本的にICTがあればそれで充分です。リコーダーは、楽器を演奏するということを体験するのに適したもののひとつであり、共同で使うものではないので一人一つ持つという観点ではマストとしました。そろばんは、活動を経験すること自体は価値があるが、日常それぞれが持つ必要性は感じません。(小学校教員)

いただいたフリーコメント

 アンケートの最後に、コメントを自由に書いていただきました。こちらもさまざまなコメントをいただきまして、読んでいてさまざまな視点を知ることができました。

  • ICTでカバーできるものはカバーすべきだが、かえって煩雑化するものや物理的媒体に明確なメリットがあるものは実物を1人1つ所持することに価値があると思う (高等学校教員(教科:情報))
  • 難しく考えず、1つの道具、学習ツールとして使えるようになることが大事。使い方のスキルを身につけてから、授業での活用の幅が広がって来たと実感している。(小学校教員)
  • このアンケートをやって、自身の価値観の狭さに改めて気がつきました。(小学校教員)
  • 技能を育てる学習についてはICT機器を併用することで学習効果アップ、効率化を図れると考える。手元で先生のお手本動画を何度も見ながら実際に自分の手を動かして習熟を図るなど、積極的に活用したい。(小学校教員)
  • ICTを文房具のように、必要な時に使え、不必要な時は使わない子を育てたいです。全てにICTを使わなきゃってなれば、それは文房具ではないように思います。紙のよさもあるし、鉛筆のよさもあると思ってます。
    それと、パソコン画面の中毒性みたいなものも感じます。なかなか画面から目が離せず、話している人を見ないことが増えました。
    ただ、今はより良い活用法を日々模索しています。せっかく導入してもらったので。(小学校教員)
  • ICTは文房具と同じで、1人一台もつべきマストアイテムです。(小学校教員)
  • 一人一台になっても、自分専用にカスタマイズできない現状。アプリは統一では、文房具化は難しい。例えば、読むのが苦手な児童には、デイジー教科書とかを入れたいが、現状では難しいらしい。問題は沢山あるが、楽しみでもある。(小学校教員)
  • 今、生徒たちにMoonBlockとmicro:bitやってもらってますが、明らかにMoonblockでゲーム作る方が楽しそうで工夫を凝らします。クリエィティブはモノづくり感覚に支えられている面もあるなぁと実感中です。(中高一貫校教員)
  • 家庭におけるICTの活用は,インターネットの利用とともに,これまで悪者扱いされてきたものであるため,家庭の抵抗感はもちろんのこと学校教員にも抵抗感があります。もしかしたら,教員の方が強いかもしれません。これまでの授業を変える必要があることに対する抵抗感,自分の目で見たことがないやったことがない不安感だと思います。(小学校教員)
  • 自分に合った方法を利用し、スキルアップすればよいというのが基本的な考え方です。義務教育は、様々な方法や、継承されてきた文化に触れることは必要なので、特にそれが合っていると感じた子供は続ければよいと考えます。特に多くの時数をかけない内容は、学校に40個(これからは35個?)揃えておいて使えば充分です。(小学校教員)
  • ICT(タブレットなど)は本来は、学校で貸与ではなく、自分で購入して文房具のように使う物と思う。学校から貸与すると、大切に扱わない。
    また、一人1台で学習に使うためにはネットワークの増強が必須。35人学級で一斉に使うと15分もログインできないようでは文房具とは言えない。
    自治体によって使えるアプリや環境が違うのも、教員のリテラシーが上がらない理由の1つ。同じ環境で同じように使えなければ、進んだ学校と遅れている学校での活用の度合いに差が出るのは当たり前。総務省文科省できちんと調査し、せめて同一都道府県内では同じように使えるように予算をつけるべき。
    活用方法(授業事例など)の共有も進んでいない。指導案とかではなく、活用アイデア集のような簡単なものがあれば、自分の授業に合わせて柔軟に使えるし、発信側もどんどん出せると思う。(小学校教員)
  • どれもマストだと仮定すると、貧困家庭は教育を受けられませんよね。
    これらが貸与できる世の中にならないと!(中学校教員)

まとめ

 「ICT」「紙の漢字ドリル・計算ドリル」「リコーダー」「習字セット」「裁縫セット」「そろばん」の6つのグラフの縦軸はすべて最大値を合わせているので、比較して見てみるのもおもしろいと思います。
 オンラインのアンケートで、「こんなにみんなマストアイテムだと思ってます!」「こんなに不要だと思っている人が多いんですよ!」と言いたいわけではありません。個人的に思ったのは、学校で取り扱っていることへの評価には、多様な視点が必要なのだ、ということです。小学校・中学校のさまざまな役割を実感することができる結果だったと思います。

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 最後に、アンケートにご協力いただきました先生方、本当にどうもありがとうございました。

(為田)