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横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校 授業レポート No.1(2022年7月13日)

 2022年7月13日に横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校を訪問し、佐野裕基 先生が担当する3年2組の国語の授業を参観させていただきました。この日は、「ファンタジーって何?物語の構造を捉えよう!」というテーマの7時間目の授業でした。教室に入ると、モニターで題材となる映画「平成狸合戦ぽんぽこ」が再生されていました。子どもたちが映像に合わせて歌を一緒に歌っていたりして、この映画を楽しんで何度も見ているのだなと感じました。

 今回の授業のねらいは、映画「平成狸合戦ぽんぽこ」を見て額縁構造について考えることです。佐野先生は「こんな構造の決まりがあるんじゃないかな、と一人ひとりが言えるようになったら、今日の授業の目標達成です」と子どもたちに伝え、授業が始まりました。
 前時までに、額縁構造を知るために映画を見て、本物の狸が出る場面とアニメの狸が出る場面を書き出していたので、この時間では「本物狸とアニメ狸の場面を比較して考える」という課題が佐野先生から出されました。

 子どもたちは一人1台のChromebookを持っていて、佐野先生からJamboardでワークシートが配布されています。ワークシートの中の「本物」と「アニメ」の枠に気づいたことを付箋で書いていきました。

 自分が考えたことをどんどん付箋に書いている途中で、近くの人と情報交換する時間をとりました。子どもたちはChromebookを持ち歩いてJamboardで書いた付箋を見せながら説明をしていきます。
 佐野先生は、「友達が見つけたことは自分のJamboardに追加してくださいね」と言います。友達に説明して、友達の話を聴いて、それを自分のJamboardに付箋で書いて…というふうに交流が続きました。

 交流をしている途中で、佐野先生は「付箋の色分けしている人もいるよ」と子どもたちに伝えます。教室のモニターにChromecastがついているので、子どもたちは自分のChromebookの画面を映す(=キャストする)ことができます。佐野先生が「キャストして説明して」と言うと、付箋を色分けしていた子が画面をキャストしながら説明をしてくれました。
 佐野先生は、「情報整理するときに、自分なりの工夫をしてみよう。付箋を置く場所を分けたり、付箋の色を変えたりして、自分の情報を整理してみて」と子どもたちに言います。
 ここから、子どもたちはこれまでに書いた付箋に色をつけたり、付箋を移動してまとめたり、思考の整理をしていきました。こうして後から色をつけたり場所をどんどん変えていくことができるのは、デジタルを活用する良さだと思います。

 佐野先生は教室をまわって、一人ひとりのJamboardを見ながら、もう一歩先に進めるようにサポートをしたり、問いを投げかけたりします。子どもたちも先生も一人1台の端末を持つようになっても、こうした教室のなかでの一人ひとりに向けてのサポートなどは変わらずに行われています。

 この後、子どもたちに自分が書いた「本物狸の場面」と「アニメ狸の場面」についての意見を発表してもらいました。最初の人を佐野先生が指名して、「そこからつなげていってください」と言うと、発表した子が次に発表する子を指名していきます。

 佐野先生の授業では、「他の人に声を届ける/考えを伝える」ことを、「チケットを渡す」と表現しています。逆に、「他の人の声が届く/考えが伝わる」ことは「チケットを受け取る」になります。
 ある子が意見を発表したときに、佐野先生は「今のチケットもらえた人?」と訊くと、半分くらいの子だけが手を挙げた場面がありました。それを見て、佐野先生は、「この人たちにはチケットが渡せている。残りの人にもチケット届けるようにがんばってみる?」と追加説明をしてもらうように子どもの背中を押していました。
 発表する子はチケットを届けようと声を大きくしたり、より説明を丁寧にしたり、発表の様子が変わりました。また、発表を聴く側もチケットをもらうために声が聞こえるように身体の向きを変えたりしていました。
 「もう少し大きな声で言ってみよう」と言われるよりも、「チケットを届けよう(=考えを伝えよう)」と言われる方が、目的意識が明確になると思いました。

 最後の15分で、「こうしてアニメ狸と本物狸の場面を比べてみて、これが額縁構造のきまりじゃないかな、というのをJamboardの下のところに書いてみて」と佐野先生は言います。
 一人でさっそく書き始める子がいる一方で、「相談したい人は、ねえねえタイムを近くの人と、小さい声で始めてください」と佐野先生が言うと、相談しながら考えを書き進めていく子たちもいました。
 一人でJamboardを使って付箋を書く子、相談しながら書く子、それぞれに考えをまとめていきます。

 最後に考えたことを発表してもらって、佐野先生が黒板にまとめていきます。「映画の中で、不思議な世界と現実の世界があったことがわかったけど、この2つの世界を図にできるかな?次回の授業はそれをやります」と佐野先生が言い、授業が終わりました。

 最後に佐野先生が「もう1回映画みたい人いる?」と訊くと、ほぼ全員が挙手しました。「休み時間に流しておきますので、見てみてください」と言います。コンテンツを見て構造をみんなで考えてから、またコンテンツを見ることで、また新しい見方ができるように思いました。おもしろいコンテンツを題材として使うことで、子どもたちは何度もコンテンツに立ち返って学びを深められそうだと感じました。

 No.2へ続きます。
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(為田)