NPO法人Social Change Agency代表理事の横山北斗さんの著書『15歳からの社会保障 人生のピンチに備えて知っておこう!』を読みました。
10代から40代の登場人物10人のエピソードを通じて、さまざまな社会保障制度を知れる本です。例えば、「怪我で仕事を休まなくてはいけなくなる」「アルバイトができなくなる」「住む場所がなくなる」「高校生で妊娠」「会社でハラスメントを受け体調を崩す」「ヤングケアラーになる」「家族から暴力を受ける」などのエピソードのそれぞれにおいて、どんな社会保障の制度があるのかが紹介されています。
最初のエピソードで、怪我をしたユウジのパートナー・サキが医療ソーシャルワーカーの井上さんに質問をするシーンがあり、そこで「申請主義」について説明されていました。こうしたことって、公教育の場で知っておくべきことだと思います。
サキが「質問していいですか?」と反応した。
「今日教えてくださった社会保障制度って、住んでいるところの市役所が『あなたはこの制度が使えますよ』と郵便とかで知らせてくれたりするんでしょうか?ユウジの場合は今日、井上さんがていねいに教えてくださったからよかったですけど。制度を知らなければ、利用できないものもあったんじゃないかなと思ったんです」
井上さんはあごに手を当て、少し間を置き、こう言った。
「残念ですが、市役所から『あなたはこの制度が使えますよ』とお知らせしてくれることはほとんどありません。日本の社会保障制度は、申請主義と言って、自分で制度を調べて、条件に当てはまるか理解し、必要な書類を準備して申請手続きをしないと利用ができないんです。サキさんのおっしゃる通り、社会保障制度と一言で言っても、いろいろな制度があるので、知らなかったことが理由で利用ができない人は、たくさんいるのではないかと思っています(p.21-22)
各エピソードの後で、「このエピソードで紹介した制度」がまとめられていて、「概要」「内容」「条件」「窓口」「窓口の探し方」というふうに社会保障についての情報がまとめられています。
また、「窓口の探し方では、「インターネットで調べる場合は「介護保険申請+利用したい人が住んでいる市区町村名」で検索してください。」というふうに、キーワードの書き方まで紹介されていました。
社会保障制度について知らないことが「個人の責任」になってしまうのはよくないと思います。自分で調べたりしようにも、そもそも存在を知らなければ調べようもありません。
わたしたちは義務教育において、社会保障制度の種類や内容、利用方法を教えてもらう機会を経ずに大人になります。ですから、知らなかったために利用ができず、困った状況になってしまうことがあったとしても、それは決して個人の責任ではありません。
自分や自分の身の回りの人の生活を守るために、一人ひとりが社会保障制度について知ることはとても大切です。(p.214-215)
たくさんの人が若いうちに読むべきだと思います。社会で生きていくのが大変な人は少なければ少ないほどいいですが、もしも自分が困ってしまったときのために、社会保障制度については公教育でもっと学ぶ場があればいいと思います。
社会保障制度の存在を知っておくだけでもいいと思うのです。ひっそりと調べたりできるように、この本が図書室にあるといいとも思います。図書室でこの本を読んでいるのを見られるのがいや、という生徒もいると思いますので、図書室で電子書籍閲覧用端末を用意するとか、学校のポータルサイトなどで関連する制度のリンク集を作っておくとか、いろいろとやれることはありそうだと感じました。
(為田)