教育ICTリサーチ ブログ

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山形市小学校教育研究会メディア教育部会 講演レポート No.1(2023年8月2日)

 2023年8月2日に開催された山形市小学校教育研究会メディア教育部会 第3回研修会に講師としてお招きいただきました。山形市にはご縁があって、このメディア教育部会の研修会の講演を2018年2019年に、山形県メディア教育研究協議会 山形・上山地区協議会でのオンライン講演会を2020年2021年にさせていただいています。
 今回のテーマを決めるときに資料として、山形市小学校教育研究会メディア教育部会で配布している資料「進化する山形市の学校教育~AIやICT」を見せてもらったので、そこで紹介されていたさまざまなツールが実際に授業ではどんなふうに使われているのかを、事例を紹介しながら整理していく形にして、「進化する山形市の学校教育 ~AIやICTを活用した授業イメージづくり~」というテーマにしました。
 山形市立小学校に配備されている一人1台のWindowsタブレットと、今夏から全校に入るという電子黒板を活用して、どんな授業が設計できるのかの助けになればと考えました。

 2時間のプレゼンテーションで話した内容をまとめておきたいと思います。

デジタルとはどういうものか

 AIやICTを活用した授業のイメージをもってもらうために、講演の最初に「デジタルがどんなものであるのか」について考えてもらいました。参加者の先生方は一人1台の端末を持ってきてくれていたので、QRコードでMentimeterにアクセスして、「あなたにとってデジタルとは?」という質問に答えてもらいました(読み込みがうまくいかなかった先生は、URLで直接サイトにアクセスしてコードを入れてもらいました)。

 僕は、「デジタルとはどういうものか」という質問を日本全国の研修でしています。回答をしてもらうと、ときどき「あれば便利なもの」というような控えめな回答ももらうことがあります。しかし、個人的な評価は別として、これから先の10年~15年を考えたときにデジタルを「あれば便利なもの」くらいに認識するのは、あまりに小さく評価しすぎだと僕は思っています。
 いまの小学生にとってデジタルがどんな意味があるものだと思っているのかという価値観は、授業の中でどんなふうにICTを活用するかということに繋がります。デジタルを「あれば便利なもの」くらいに価値づけている先生は、あれば便利だけど別になくてもいいので、デジタルを授業のなかであまり活用しないでしょう。一方で、「思考や表現のために不可欠な道具になる」と価値づけている先生は、子どもたちの思考や表現をする場面でデジタルをどんどん使ってもらうように授業を作るでしょう。

 僕自身は、デジタルは「能力を拡張してくれるもの」だと思っています。検索機能が使えることは身の周りにあったものしか調べられなかったのが、より多くのことを調べられるようになる、調べる能力の拡張だと思います。僕は手書きよりもキーボード入力の方がずっときれいに速く記録がとれますが、これも記録の能力の拡張だと思います。手書きよりもデジタルで文章を書くほうが、手直しをしたりするのも楽です。これも書く能力の拡張だと思っています。子どもたちが思考や表現をするときに、特にこの能力の拡張は意味を持つと思います。
 デジタルを「能力を拡張してくれるもの」だと思っているからこそ、学び方を学ぶ場である小学校で、デジタルをきちんと使えるようになる場面がたくさんあればいいと思っています。そうした場面は家庭でデジタルを使っていれば勝手に身につくものではなく、学校で先生とクラスメイトと共に学ぶからこそ身につくものだと思っています。

 「デジタルとはどういうものか」という問いを自分で考えて文章に書いてみたり、学校の職員室で話してみたり、学年団で話してみたりするといいと思います。ここでの価値づけがある程度同じ方向を向いていないと、学校でのICT活用は進んでいかないと思っています。

学校でのICT活用、ここで止まってほしくない

 学校現場では、「デジタル」は「ICT」と言い換えてもいいと思いますが、「能力を拡張する」という視点でICTが活用されているかを見てみると、実はまだまだもったいないところもたくさんあるのではないか、という話をしました。

 たった1回プリントを配布して、そこに何かを書き込んでもらって授業の最後に提出してもらう、というのではあまりにもったいないと思います。デジタルだからこそ、途中でクラスメイトが書いているものを見て、自分で参考にすることもできます。一度提出した後でも、クラスメイトが書いた文章を読んで、「書き直したい」と思う子もいると思います。そこには、「もっとよく書けそう」という子どもの思いが現れると思いますし、そう思わせる発問を作ることが先生方にしかできない仕事だと思います。
 プレゼンテーションのスライドも、最後に全体で発表する前に、グループ内で発表して、途中でコメントを先生からだけでなく、クラスメイトからももらえるほうがいいと思います。自分の伝えたいことがきちんと伝わるように努力をして、それが「伝わった」という体験をすることが重要です。
 プログラミングについても1回で正解にたどり着かなくても、あきらめずに何度でも試して、問題(エラー)がどこにあるかを見つけて直してみて、できるようになることが大事だと思います。

 こうした点について考えてもらいながら、子どもたちが思考や表現のツールとしてICTを活用している学校の授業を事例として紹介していきました。

 最後にMentimeterで「今後、AIやICTをどんなふうに使っていきたいですか?」という質問に答えてもらいました。先生方が、紹介した事例を自分たちなりに理解して自校でどう展開しようかと考えている様子を見ることができました。

 デジタル(ICT)をどんなものだと価値づけるかが重要という話と、日本全国のたくさんの授業事例の紹介が、先生方が山形市内の小学校での「AIやICTを活用した授業イメージづくり」に役立っていればいいなと思っています。

 No.2に続きます。
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(為田)