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東京成徳大学中学・高等学校 授業レポート No.1(2024年6月27日)

 2024年6月27日に東京成徳大学中学・高等学校を訪問し、4年生(高校1年生)が取り組んでいるゼミ形式の授業を参観させていただきました。4年生はいくつかあるゼミから、自分が学びたいゼミを選んで所属して1年間学びます。生徒たちは1年間のゼミでの授業を通じて、自分が探究したいテーマを見つけて学びを深めていきます。それぞれの教室で行われていた授業の様子をレポートします。

「人と自然との関わり」ゼミ

 「人と自然との関わり」について探究するゼミでは、「諫早湾干拓事業について/行政(長崎市)と国(農水省)、現地の農業・漁業関係者と諫早湾および周辺海域の環境問題」というテーマでレポートを書いていました。Googleクラスルームで、先生から「諫早湾干拓に伴う環境問題に関する記事やコラムなどをWebから拾い上げて、自分の意見・考えを述べてください」と指示が出ていました。

 生徒たちは一人1台のiPadを使って、諫早湾干拓に伴う環境問題に関する記事やコラムを検索しています。検索結果をスクリーンショットで保存したり、Googleドキュメントと検索結果を画面に半分ずつ表示して、調べた内容をまとめている生徒もいました。また、Google Earthで諫早湾の様子を見ている生徒もいました。さまざまなリソースを組み合わせて自分の意見・考えを書いていきます。

 教室には、ワイヤレスイヤホンを使って動画ニュースを見ている生徒もいました。ワイヤレスイヤホンは学校の備品ではないと思うので、自分のワイヤレスイヤホンをiPadにBluetooth接続して使っているのだと思います。こうした小さいところにも、iPadが生徒たちにとって「学校の備品」でなく、「自分のツール」となっているのだということが見えるような気がしました。

医療ゼミ ~ 人を支えるを考えよう ~

 医療ゼミでは、黒板に貼ったスクリーンにNHKの「ドキュメント 透明なゆりかご」を映してみんなで見ていました。「ドキュメント 透明なゆりかご」は、都内の産婦人科病院の日常を通じて、妊娠・出産・中絶・出生前診断など命をめぐるさまざまな選択を見つめ、女性、男性、その家族、それぞれの思いに耳を傾けるドキュメンタリーです。

 この日の授業では、「ドキュメント 透明なゆりかご」を見た後で、出生前診断をテーマに学びを進めていきました。ゼミの中で、出生前診断という今日的な問題を少人数で、男子生徒と女子生徒が一緒に考えているのが印象的でした。
 生徒たちにはワークシートが配られて、「出生前診断とは何か」など基本的な知識をみんなで学び、共有していきます。その後で、男子生徒、女子生徒混合で、ゼミを2つのグループに分けます。それぞれのグループで、「あなたは出生前診断を受けますか?」「出生前診断で子どもに先天性疾患があるとわかったらどうしますか?」という問いに自分なりの答えを出し、その理由をワークシートに書いていきます。

 授業の最後のグループディスカッションでは、「親が妊娠したら、出生前診断を受けることをすすめますか?」という具体的な問いが先生から提示されていて、グループ内で意見を交換していました。
 それぞれのグループに先生が1人ずつ入ってディスカッションに参加してたのも印象的でした。先生が正解を解説する立場ではなく、先生が問いを投げかけ、時には先生自身の意見を参加者として生徒たちに伝えていました。
 今回のグループディスカッションのテーマなどは、じっくり語り合うなかで、お互いの価値観が出てくるので少人数のゼミに合っていると思います。

「芸術の可能性を探ってみよう」ゼミ

 「芸術の可能性を探ってみよう」ゼミでは、「芸術×〇〇で新しいものを創る」という課題に取り組んでいて、この日は1学期の成果を報告するプレゼンテーションを行う授業でした。
 「芸術×〇〇」には、さまざまな掛け合わせ方があります。生徒たちは、「芸術×工学」「芸術×ロゴ」などの掛け合わせを考えていました。また、掛け合わせた2つの要素に「芸術」の言葉が入っていない創作を考えている生徒たちもいました。たとえば、「景色×科学」でスノードームを作ってみたり、「アニメ×スポーツ」でスポーツアニメの名シーンを自分で再現しようとしたり、さまざまな計画が発表されていました。

 この日のプレゼンテーションでは、2学期以降どうやって創作していくのかの展望が発表されていました。いろいろなアイデアがあがっていましたが、着眼点がおもしろいものが多かったと思います。YouTubeで見た企画を自分の身の周りのテーマに置き換えてやってみたい、というものも多くありました。YouTubeという身近なメディアを通じてたくさん手本となる探究に触れているのだと感じました。見るのと創るのは大違いで、実際に創作するのは大変かもしれませんが、それでも自分でやってみたいと思ったことに時間をかけて取り組めるのは貴重な経験になると思います。
 担当されている先生が、「完成させることをゴールにすると、生徒たちは簡単なものにしてしまう。それが先生としては困る」とおっしゃっていました。「実際にそれが創作できるのか」という観点ではなく、自分がやりたいことを創作してみることに重点が置かれているのだと思いました。探究活動はこうでなければ、やらされた探究になってしまうので、おもしろくなくなってしまいます。2学期以降、創作の過程を楽しみながら苦しむことを、先生方も楽しみにしていそうな感じでした。

「美味しい珈琲を淹れよう」ゼミ

 この日、参観させていただいたゼミのなかでいちばん異色だったのは、「美味しい珈琲を淹れよう」ゼミでした。担当されている先生にお話を伺ってみると、「自分がコーヒーが好きだからやっているわけではなくて、大人の入口にいる高校生と教師である自分が一緒に楽しめるから、コーヒーをゼミのテーマにした」とおっしゃっていました。

 1学期は、毎週いろいろなコーヒー豆を自分たちで焙煎したり、ミルで挽いたりしながら淹れて、味わってみるという授業をしてきたそうです。どれくらい焙煎するのか、豆をどれくらい挽くのか、そうした具合によってもコーヒーの味が変わるということを体験してもらうそうです(いろいろ試しても「苦い」ということしか最初はわからない、と先生は笑っていましたが…)。
 理科室の前のコンロにはコーヒーを淹れるための水、ミル、ドリップポットなどさまざまな道具も揃っていました。参加している生徒は5人でしたが、電動ミルをもってきている生徒もいました。

 生徒たちは慣れた手つきで自分でコーヒーを入れて飲み比べていました。ゼミの最初の時期は、コーヒーを自分で淹れて飲み比べて楽しむことが中心になりますが、年間を通じてコーヒーを楽しみながら自分なりの研究テーマを見つけて、「コーヒーの成分」「フェアトレード」「コーヒーの産地」「コーヒービジネス」など、毎年多様な研究テーマが生まれるそうです。

「もったいない」をサイエンスしよう!ゼミ

 「もったいない」をサイエンスしよう!ゼミでは、企業から出た廃棄物をもらって堆肥を作り、その堆肥を使ってベランダで小麦などを育てたりするそうです。ただ育てて収穫するだけでなく、収穫量の違いを調べたり、外部の研究機関に依頼してタンパク質などの含量を調べたりもするそうです。
 「もったいない」という身近な感情からスタートをして、そこから自分たちの活動でどのような違いが生まれるのかを科学的にしっかり検証していくことができるゼミになっています。


 No.2に続きます。
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(為田)