3月29日にKnewton Day Tokyo 2017 – Adaptive Learning Summit-(以下、「アダプティブ・ラーニング・サミット」と表記)に参加してきました。最後に、パネルディスカッション「学校・塾現場でのアダプティブ・ラーニングの現状と展望」をレポートします。
このパネルディスカッションは、一般社団法人iOSコンソーシアム 野本 竜哉 さんがモデレーターをつとめました。そしてパネラーは、金子 暁 先生(広尾学園中学校 高等学校)、木暮 誠一 先生(株式会社中萬学院)、品田 健 先生(聖徳学園中学・高等学校)、永野 直 先生(千葉県立袖ヶ浦高等学校)、堀井 章子 先生(学校法人堀井学園)の5人でした。
ここから、パネラーの先生方の発言を聴いてのメモを公開していきたいと思います。
まずは、パネラーの先生方からの自己紹介です。それぞれにさまざまな取り組みの最前線にいらっしゃる方々なのがわかります。
金子先生
- 広尾学園は、1990年に1800人いた生徒が、8年で900人に、10年で500人に。学校が消滅するところから復活した学校。
- 第1期、第2期、第3期の学校改革があった。
- 第1期は共学化、進学校化の時期。
- 第2期で、教員から「このままじゃだめだ」という声。教育活動をいかに高度化するか。
- 去年の11月から第3期と考えている。日本の教育の天井を突き抜けていく、という段階になった。
- 教務開発部は、学校のビジョンや戦略を出していく部署。
木暮先生
- 横浜に本部がある学習塾
- 63年目。2017年4月から64年目に入る。
- 昔からある学習塾だが、電子黒板は12年前に入れている。iPadを6,000台持っていて、授業をやっている。学習塾は新しい面と伝統的な面を持っている。
- 生徒数が19,500人、教室数が166教室。
品田先生
- 文房具としてのICT。
- アクティブ・ラーニング、アダプティブ・ラーニング(次世代教育開発)
- 生徒・教職員を学校から自由に。
- 4月から聖徳学園でSTEAMの開発を進めていく。
永野先生
- 2011年からBYOD(生徒の自己負担)。
- 日々の生活、部活動、いつでも使っている。
- なぜ一人1台?
- 学び方がずっと変わっていない。新しい学び方を、ということで取り組んだ。
- ただ知識を学ぶのではなくて、きちんと社会の変化に対応した教育を。
- 先生の言うことを聞いて、覚える、という学校からの変化。
堀井先生
自己紹介の後、パネルディスカッションのテーマとして、「アダプティブ・ラーニング=一人ひとりに寄り添う“個別最適な学び”を提供する」について、現場での取り組みや問題点などを語ることが伝えられました。
質問1 どのようなシーンで「個別最適な学び」が必要か?
最初の質問は、どのようなシーンで「個別最適な学び」が必要と感じるか、ということでした。
金子先生
- これから先、日本の学校は、大学の合格実績を求めていればそれですむ、というのではないだろう。広尾学園の医進サイエンスコースでは、学校の勉強、部活もやり、さらに研究をし、海外の動画の翻訳をし…いろいろなことをしている。
- 彼らの本当にやりたいことは、学校での課題以外にある。最小限の課題にして、彼らのやりたいことをしてほしい。受験勉強をするにしても、元になるモチベーションはまったく違う。苦行のような勉強から解放してあげたい。ICTがそうした役割になればいいと思う。
木暮先生
- 公教育ではないので、「学校の勉強についていけるようになりたい」「受験で合格したい」など、目的はさまざま。学習塾のサービスは、個別最適化されていて当然。同じ目的で教室にいるわけではない。これを先鋭化して実現しようと思うと、個別指導になる。中萬学院でも、個別指導のサービスを持っている。それが学習塾のひとつの理想形かと思っている。
- みんなが個別指導になればいいかというと、必ずしもそうではない。生徒が学習するのは、先生から教えられるというのもあるが、それ以外に、クラスメイトからの気付きというのもきっかけとしてある。クラスメイトから刺激をうける、というのもある。そうした化学反応がある。完全にパーソナライズされた教育を受けるのが正しいかは、ケースバイケース。生徒によるし、目的にもよる。
品田先生
- いろいろあると思うが…中学入試偏差値50(?)未満の悩みは、「応急手当を繰り返して卒業させている」→答えを丸暗記で追試・再試をクリア。
- 中学入試偏差値50だったら、小学校の内容もあちこち抜けている。
- 入学時の学力が後々まで影響してくる。
- ICTなど新しいテクノロジーによって、生徒にあった手当ができる。(=治療しよう。部位も症状もみんな違う)
永野先生
- アダプティブ「的」にICTを活用する場面
- 授業が受けられない生徒がいるとき
- 各自の理解度が異なるとき
- 各自・各グループの課題や方法が異なるとき
- 今後必要となる学びを実現するための時間を創出
- 学校はこれから大きなパラダイムシフトに直面する
堀井先生
- 偏差値に代表される学力と、主体的な学び。この間で先生は揺れ動いている。進学実績を出さないと生徒を確保できない。
- 似たようなレベルの学習者が主体的に学び合うというのは限界がある。先生がそこにどう関わるか。調べ学習のその先に、どんな教育があるのか。教員は、いま目の前の子がどういう状況なのかを把握して、働きかけないといけない。生徒のキャラクター・クオリティがどういうものなのか、それも把握し、どう働きかけるのか。ここに、個別最適化を促すアイテムがあるとうれしい。
質問2 過去に実践されたり、見聞きした「個々の学びに寄り添う事例」
続いての質問は、過去に実践されたり、見聞きした「個々の学びに寄り添う事例」です。
金子先生
- 2007年に共学化。そのときに、「Personalized Learning Test(PLT)」というのを毎朝15分やっていた。これを全教室が一斉にやる。15分間は、校舎の中が一斉に静まり返っていた。みんなでやっていくムードは醸成された。ソフトを使って出題、解くのは紙。採点も紙。
- 入ってくる生徒によって、変えなければならないと思った。
木暮先生
- 生徒に合わせて教材を変えている、教え方も変えている、というのは普通にやっている。
- iPadを入れて成功した案件として、昨年、英語の4技能について、iPadがしゃべったことに、英語で答えて、それをiPadが採点して返すという仕組みを作った。一定の成果を挙げている。エンジンは、海外とのアライアンス。コンテンツは中萬学院で100%作った。
- レベルや到達度によって、中身が変わっていくという仕組みになっている。
品田先生
- 1年前に、Qubenaをテスト。
- 教員用のページに、「回答数」「正答率」「アラート」が出る。
- 手が止まって困っているようです。とか。
- 数学の苦手な生徒が、50分で150問正解(正解率80-95%)
- 常にできるかできないかギリギリの出題。
- 国語の先生である品田先生が、数学の学習サポートを全日程、1人でできた。
- ひたすら見て回って、褒める。
- 絶妙な塩梅で出題される→できる→理解できる→集中力も上がる
- Qubenaの感想
- 先生が「全部」教える必要ない
- 一人ひとりがよく見える
- 気がつかないところがICTでわかる
- 先生が生徒一人ひとりの専属のトレーナーになってあげられる(見て、提案して、話し合って、励まして、見守って)
- 本当に必要な生徒に対応できる可能性があると思っている
永野先生
- 授業が受けられない生徒がいる。クラウドに置いておいて、家でもいつでも見られるようにしている。
- 授業動画を生徒に録画させて、編集まで任せている。
- 先生と生徒の対話式数学解説動画を生徒が作成。
- 廊下に置いておいたが、わからない生徒は見に来ない。
- 学びの選択肢をそれぞれが用意することができる。
堀井先生
- スタディサプリを希望者に導入。多くの生徒が使っている。
- 学びのプロセスをまとめた、DUT理論:Desire(興味喚起)→Understand(理解)→Training(訓練)
質問3 アダプティブ・ラーニングは教育を向上させていくツールとなるか?
最後の質問は、「アダプティブ・ラーニングが教育を向上させていくためのツールとしてどのように活用できそうか」ということでした。
品田先生
- 聴診器、レントゲン、MRI的なもの。
- 生徒の学びを変える。勉強は長くやればいいわけではない。
- 教員の役割が変わる。
- 学校が変わらなくてはならない。
永野先生
- 今後必要となる学びを実現するための時間を創出。
- 最適な学びを提供するだけでは不十分?
- 先生はどうなるの?効率化で時間ができた後に、試験監督みたいになってはいけない。
- 21世紀型スキルを身につけさせるのは、先生の仕事。
金子先生
- 日本の学校というのは、戦後、高度な受験システムを作り上げた。成功したシステム。受験システムの世界のその外側に、学校/先生は立たなければいけない。客観的に見るべき。
- 大学入試は根こそぎ変えると、学校教育は大きなダメージを受けるので、全部をひっくり返すよりは、上に積む方がいいのではないか?
- 主体的学びも、ずっと昔から出ている議論。その流れに乗っかっているだけでいいのか?
木暮先生