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『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』 ひとり読書会 No.8「第8章 学習のためのゲームのデザイン」

 C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterハッシュタグ#学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。

 今回は「第8章 学習のためのゲームのデザイン」を読んでいきます。「学習にゲームなんて!」という人もいるかもしれませんが、学校、特に小学校の教室とかにはゲーム性がたくさんありますよね。「今日1日○○ができたら、ゴールドシール。ゴールドシールが20枚たまったら、クラスレクをやりましょう」「やった!がんばる!」みたいな仕掛けとかもゲームを取り入れていることになると思います。僕の小学校のときのクラスは漢字テストで覚えた字数によって東海道本線を西へ進んでいくようになっていて、燃えたのを覚えています。
 その他にも、コーエーテクモゲームス歴史シミュレーションゲームを使って授業をやってみる、というプロジェクトも参加したことがあります。「大航海時代Online」を実際にやってみて、いかに喜望峰をまわってアジアへ行くのが大変か、香辛料がいかに富を生むのかを疑似体験することもできました。

 この第8章では、ゲーム基盤型の教育アプローチについて説明されていました。

p.208~209には、ゲームを学習に使用する理由が書かれていました。まとめていきたいと思います。

ゲームを学習に使用する理由(p.208-209):

  • ゲームは、行動と認知との関係(行うことで学ぶ;learning by doing)を利用する
    • うまく設計されたゲームは、特定の役割と文脈で考え、作業することで真正な練習を提供することができる。
    • 有用性のない知識を獲得するのではなく、プレイヤーは障害物をクリアしゴールに向かって進むために、問題を解決する目的で知識を使用する。または必要な新しい知識をジャストインタイムで獲得し続ける。
    • ゲーム体験を通して、プレイヤーは自分の失敗や成功をふりかえることを学ぶ。
  • ゲームはチーム力開発や社会的学習、そして社会的結束を促進する
    • すべてのゲームはある種の競争を提供するが、プレイヤー同士の協力を必要とするようにゲームを設計することもできる。
    • 協力的なゲームプレイは、分散した知識や他のチームワークスキルの練習となり、プレイヤー集団としての効力の向上をもたらす。
  • ゲームは学習者のエンゲージメントと努力を増進する
    • ゲームは喜びの気持ちを生み出し、動機づけを高める。
    • うまく設計されたゲームをプレイしている間にプレイヤーが経験する没入感とフローの感覚は、長期にわたる集中的なエンゲージメントをもたらす。
    • ゲームをプレイし、失敗し、ふりかえり、そして成功するまでやり直すというサイクルを繰り返すことで、プレイヤーは制御感と自律性を獲得する。結果として生じる自己効力感が、新しい学習課題を引き受ける意欲と持続性への重要な影響を及ぼす。
  • ゲームは学習のための安全な環境を提供する
    • 命と身体を危険にさらす前に、ゲームとシミュレーションで必要な能力を身につけるように学習者に足場かけすることができる。
  • ゲームはカスタマイズ可能である
    • ゲームは、適切かつ可変レベルでの真正性を提供するように設計できる。
    • 初心者や熟達者向けにレベルを変えることで、最適レベルでのチャレンジを提供できる。
    • これにより、その課題が学習者の進歩の形成的評価として機能するようになる。
    • 形成的評価が足場かけとしてゲームに組み込まれると、人による指導の必要性が大幅に減少し、コストが削減できる可能性もある。また、いつどこで指導を受けるかも柔軟になる。

 ゲーム設計の文脈で書かれているのですが、これは「デジタル教材設計」と読み替えてみてもいい部分なように思います。

 続いて、ゲームの目的に関する価値と手段に関する価値が書かれていました。

目的(学習ゴール)に関する価値(p.210):

  • 状況に埋め込まれた問題を解決するためのスキルの開発(克服するために推論に基づく行動を必要とする障害物を学習者を提示することによってゲームが促進)
  • 実世界の課題への移転の促進(真正性と行うことで学ぶことによってゲームが促進)
  • 自己効力感の強化(リスクのない安全な環境を提供し、協働と社会的学習を可能にし、さまざまな足場掛けを提供することによってゲームが促進)
  • 学習経験の基本的な源泉として遊びの価値を認めること

手段(指導方法)に関する価値(p.210):

  • ゲームの目的は学習の目的と密接につながっていること
  • 行うことで学ぶことを促進する、真正性のある設定と課題をゲームに含めること
  • 没入とフロー状態を促進するために、学習者の現在の知識とスキルに最適化された興味深い課題をゲームが提供すること
  • 学習者の行動は自然な結果をもたらし、適切な場合には説明的フィードバックを追加すること
  • ゲームには、難易度を調整し、指導と支援を提供し、必要に応じて部分課題練習を提供する足場かけを含めること
  • 学習目標にチーム開発と協働のスキルが含まれる場合、ゲームには協力的なプレイとプレイヤーのための真正性ある役割があること

 ゴールがあって、ルールがあって…ということを考えると、学校とゲームには共通性があると言うこともできると思います。僕がフェローとして参加しているLudix Labでは、そうした観点からのプレゼンテーションを聴いたこともあります。いま読みかえしても、非常におもしろいプレゼンテーションだったと思いますので、興味のある方はぜひお読みいただければと思います。
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 また、ここで出てきた「状況に埋め込まれた」という言葉は、個人的に思い入れのある言葉でした。

 教科学習ももちろん重要ですが、学んだことが「どう使われるのか」ということも大事です。使うために知識も知恵もスキルも身につけるので、当然だと思っています。そうしたところを書いている本です。また読み返してみたいな、と思いました。

 No.9に続きます。
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(為田)