教育ICTリサーチ ブログ

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Edvation × Summit 2019 イベントレポート No.4 「学習データの活用により教育現場はどう変わるのか?」(2019年11月4日)

 2019年11月4日に、紀尾井カンファレンス・麹町中学校を会場にして開催されたEdvation × Summit 2019に参加してきました。参加したパネルディスカッションなどから、自分用のメモとコメントを公開したいと思います。何かの参考になればと思います。

 パネルディスカッション「学習データの活用により教育現場はどう変わるのか?」に参加しました。登壇されていたのは、山田政寛 先生(九州大学基幹教育院・ラーニングアナリティクスセンター 准教授)、稲田大輔 さん(atama plus株式会社 代表取締役)、神野元基 さん(株式会社COMPASS 代表取締役)、加藤理啓 さん(Classi株式会社 代表取締役副社長)の4人でした。
 山田先生は、ラーニングアナリティクスの研究をされてます。稲田さんはatama+(アタマプラス)、神野さんはQubena、加藤さんはClassiを日本の教育現場に広げ、実績を積み上げています。それぞれの現場では、多くの学習レコードが日々蓄積されていると思います。

 以下、自分で気になった部分のメモを公開したいと思います。

ラーニングアナリティクス(LA: Learning Analytics)とは

 最初に、山田先生が、ラーニングアナリティクス(LA)とは何かを説明してくださいました。
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  • ラーニングアナリティクスとは、「情報処理技術を用いて、学習ログなど学習者や学習環境に関するさまざまな観点のデータを使用し、教育や学習環境の改善に寄与する研究、ならびに実践領域。
  • Educational big dataから、解釈可能性のあるEducational and meaningful dataへ。
    • 何千万という学習レコードがあり、これをどのように使っていくのか、という研究。
  • 例えば、学習ログには以下のようなものがある。
    • moodle
      • レポート提出、小テスト、教材アップ、出欠など
    • Mahara
    • BoookRoll
      • 京都大学九州大学の独自開発
      • 電子教科書・デジタル教材ビューワー(メモ・マーカー・ブックマーク・検索など)
  • 学習データをどうするの?:九州大学の例

 ラーニングアナリティクスセンター学習教育データ化学研究ユニットなどが設立され、研究が進められているそうです。

 たとえば、こんなことができる!という例として、山田先生は、以下のような例を挙げました。

  • 知識マップ分析
    • 電子教科書・デジタル教材のログを活用して学習者が作成した知識マップを可視化。個人・類似した知識構造を持つグループ/全体別で表示。構成プロセスも可視化。
  • 生産的議論の可視化
    • グループ内の人間関係や議論に貢献している発言の程度を個人/個人間/グループ全体で可視化。
  • 授業外/学校外の学習行動把握
  • センサーネットワークとの連携
  • 成績推定
    • 何回かの授業の学習ログでどの学生がどの程度の成績をとるのか、90%程度の一致率で推定可能。

 EdTechの活用が進めば進むほど、ラーニングアナリティクスで活用できる学習ログが蓄積されていきます。「教育ビッグデータ」として蓄積していくだけではなく、これをどのように解釈していくのか、という段階に入ってきているのだと思います。
 ここを解釈できるデータとして取り扱うことで、先生方のスキルと知見で実現されてきた「上手な教え方」や「導き方」などが、可視化されていくと思います。また、児童生徒の学び方も可視化されていくことで、自分自身にあった学び方を選べるようにもなると思います。このあたりが、自分がラーニングアナリティクスに期待していることだな、と確認しながら、説明を聴きました。
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で、どうですか?稲田さん、神野さん、加藤さん

 「ここまで聴いていると、学習データ活用はとても良さそうに聞こえますが、本当のところはどうですか?」と山田先生は、稲田さん、神野さん、加藤さんに訊いていきます。
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  • atama+
    • 中高生一人一人の得意なところ、不得意なところ、そういうデータをとってきて、学習をパーソナライズする。教材も自分たちで作っている。演習問題がでてきたり、授業動画が出てきたりする。(稲田さん)
    • AI x 人のベストミックスでの新しい教育を全国の塾に提供し、大手塾の約3割で導入。(稲田さん)
  • Qubena
    • Qubenaを活用した授業では、先生は授業をするのではなく、声かけや質問対応をする。(神野さん)
    • AIを用いていると、子どもたちが画一的にシーンとした感じでやっているというイメージを持つ人が多いが、質問の数が爆発的に増える。(神野さん)
    • 一方通行の授業だと、子どもたちは質問できない。Qubenaを使う方が先生に質問するようになる。(神野さん)
    • わからないときには友達に聞きにいく、ということもできる。教え合いが生まれてきた。(神野さん)
  • Classi
    • Classiは、高校を中心に2校に1校で導入。100万人を超える高校生や先生、保護者に使われている。(加藤さん)
    • 教育のど真ん中は学校。だから、学校への導入にこだわる。(加藤さん)

 山田先生は、「学習データを使うと、勉強がどう変わりますか?」ということを3人に訊きました。

  • めちゃくちゃ成績が上がる。テクノロジーを活用することで学習時間が短くなる議論があるが、それだけでは意味がない。成績がアップすることとセットだと思っている。やみくもに教科書の順番に全員が同じことを勉強していた時代から、一人一人に合わせて出題するようになるのだから、当然。atama+で学習すると、2週間で平均をとると1.5倍にもなった。データを活用して人にあった学習をすると、劇的に短い時間で成績が上がる。(稲田さん)
  • 昨年度「未来の教室」実証事業を行った麹町中学校では、学習の時間が半分くらいで終わった。60時間のところを30時間くらいで終わる。残りの時間を「未来教育」にあてることができるようになった。人がやるべきことは人が集中して、システムがやることはシステムがやるということを実現できたと思う。(神野さん)
  • Classiは主体性の育成にチャレンジしている。そのなかでプロジェクト学習をやっている。週の目標をたてて、それをプロジェクトの仲間でシェアできる。ITのツールをこうしたところで使っている。(加藤さん)
  • データを先生に戻してあげると、「思った通りだった」というコメントが返ってくる。ログによって、本当のアクティビティが見えるようになっていることがよい。やっと、そうしたことを可視化できるようなところまで来た。(加藤さん)

教育現場への導入の苦労

 山田先生は続けて、「とはいえ、簡単に教育現場へ導入されていくわけではないと思うのですが…」と質問をします。

  • プロダクトを使って子どもたちの成績が上がって、満足しているが、導入が進まない。阻んでいるのは塾の人や保護者だった。塾でatama+が楽しかった、と子どもが言っても、親が「勉強は紙と鉛筆でやるものでしょ」「タブレットはうさんくさい」と言う。実際にプロダクトだけでは、一気には進まないな、と思った。いまは塾と一緒に「新しい教育を始めるのだ」と言っている。端っこの方でオプションでやっても、マインドシェアは変わらず、導入は進まない。塾と「これは新しい学び方だ」ということを合意して、痛みを共有してやっている。(稲田さん)
  • アダプティブラーニングだと、先生方と「問題をアダプティブに出題するときに、それって(問題の)戻り方はどうなの?」というような教育論になることがある。そこを先生方と議論をすることが重要だと思っている。プロダクトとしての思想と、現場の先生方の思想をどうやって合わせていくのか、ということ。(神野さん)
  • 学校の現場で進めるのであれば、学習指導要領、教科書のあり方が出てくる。指導略案のなかで、何がどこに紐付くのかということをいままで授業設計していいるので、それが今までとどう紐づくのか?というところから議論をしなければならなかった。先生方と同じ目線で改革にあたっていくことができて初めて、導入してもらえるようになってきたと思う。(神野さん)
  • 2014年にソフトバンクLTEをつけて100校にタブレットを配布していったが、1年後に4割くらいは死蔵となっていた。それならと生徒のスマホを活用するようにしたら、「スマホは学校では禁止です」と言われたりする。(加藤さん)

 使ってもらうための苦労がうかがえます…。「ICTだから、使うといいですよ」「AIだから、使うといいですよ」「デジタルだから、使えばいいですよ」というのでは、限界があるのだと思います。「子どもたちはどう変わるのか」という部分や教育論の部分で先生方と話をできるようにならないといけないのだなと感じました。

 山田先生は、「データをどう先生に手渡すか、そこを橋渡しする人材は必要でしょうか?」と質問しました。

  • 橋渡しする人がいなくても使えるようにすることだと思っている。エンジニアが現場に行って、計算用紙に何を書いているかも見る。間に人が入らなくても使えるようにする。そうでないと、浸透していかないのではないかと思っている。(稲田さん)
  • 使っている人が増えれば、橋渡しする人がいらないと思う。実際にプロダクトを触ってもらったときに、先生方が見えなかった部分を見とることができれば、先生が変わる。(神野さん)

 多くの実証を現場で行っているサービスが、現場を大事にしている様子がわかります。

学習データを活用してこういう世界を作りたい

 最後に山田先生は、「学習データを活用してこういう世界を作りたい」という思いを3人に質問しました。

  • これだけ大きく社会が変わってきているなかで、子どもたちに求められる能力も変わってくる。受験勉強だけでは通用しない、社会で生きる力も必要。基礎学力も必要。どっちが大事、ではなく、両方大事。基礎学力も身につけながら、社会に生きる力も身につけてほしい。それには時間が足りなすぎるので、テクノロジーを使う時代を作っていきたい。そのために、AI x 人の教育をまず塾業界で作りたい。(稲田さん)
  • 子どもたちにまず時間をつくって、21世紀を生き抜く力を伝えたいと思っている。時間を作るために、教科教育を最適化しようと考えている。学びをどう最適化するかというところでは、データのシームレス化も大事。学校現場で子どもたちが何ができるようになったのか、を家庭にも引き継ぐべき。それができれば、学校と家庭学習と塾とでデータを連携することができるようになる。(神野さん)
  • この先に向けては、学校を超えて子どもたちがつながるようにしたい。福岡と北海道の子どもたちが協働してプロジェクトをする、というような学びを当たり前にしたい。テクノロジーではできるが、されていなかった授業。同じ場所で同じ人たちが学ぶだけでなく、違う人たちと混ざることを、子どもの時代に環境として提供できるか。データでできることとしては、さまざまな接点で、できるだけデータを活用することをしたい。(加藤さん)

 山田先生は、「学びはずっと続いていくものなので、データをシームレスに連携させていく、どう繋いでいくか」ということを今後の展望として示し、パネルディスカッションを終えました。
 学習データの活用で、新しい学び方、新しい教え方が確立すれば、今まで(たまたま)学校の勉強に合わなくてついていけなかった子が救われる可能性もあります。それは社会の可能性を広げることに繋がると思いますので、どんどん活用が広がってくれればいいと思います。

 山田先生のブログでも、エントリーがアップされていましたので、リンクしておきます。合わせてお読みいただければ、より深まるかと思います。
mark-lab.net

 No.5に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)