教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』 ひとり読書会 No.6 「第6章 個別化・個性化教育の推進」(加藤幸次 先生)

 奈須正裕 先生と伏木久始 先生の編著『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』をじっくり読んで、ひとり読書会として読書メモをまとめていこうと思います。今回は加藤幸次 先生が書かれた「第6章 個別化・個性化教育の推進」です。

「一斉授業」体制から「個に応じた指導」体制へ

 第6章のはじめに、「一斉授業」がどうして始まったのかが書かれていました。日本で学校制度が始まった当初は、学力(到達度)によって学級が編成される「等級制」でした。でも、就学率の増加に伴って、学級は同じ年に生まれた子どもたちによって構成される「学年制」に変わっていきます。

「等級制」が「学年制」に改革されていくに伴って、そこでの「教授・指導」体制は、教師主導の「一斉授業」に確立されていった。
「一斉授業」という在り方は、国民全員に近代社会が必要とする知識・技能を伝達するのに最も効率的、かつ、安上がりな教授・指導体制である。(略)特に、日本の教師たちはこの一斉授業を研究し、より効率的かつ精緻なものに仕上げていった。その要は教師の資質であり、授業における「発問・指示」と「板書」という技術であった。(p.127-128)

 たしかに、かつては「等級制」だったのですよね。「一斉授業」は就学率の増加という社会の要請で導入されたのだから、同じように多様性を求める社会の要請で「一斉授業」の縛りを緩めてあげられたらいいのにな、と思います(テクノロジーの助けも借りられるわけだし)。
 加藤先生は、この章のねらいとして、「新しい時代に対応する「個に応じた指導」体制をつくり出す」と書いていました。

注目しておきたいことであるが、「一斉授業」という呼び方が、近年、「一斉学習」という呼び方に変化してきている。(略)一斉学習といったほうが、何やら“進歩的に”聞こえるというのであろうか。本章のねらいは、「一斉授業」から「一斉学習」を越えて、子ども「一人ひとり」の学習活動に中心をおいた指導体制、すなわち、新しい時代に対応する「個に応じた指導」体制をつくり出すことにある。(p.128)

「個に応じた指導」体制づくりのための方略

 この第6章では、「個に応じた指導」体制をどうつくるか、ということが書かれていました。ここで、キーワードとして「指導の個別化」と「学習の個性化」という概念が出てきました。

個に応じた指導のいっそうの充実を目指して、「指導の個別化」と「学習の個性化」という概念を組み合わせてみると、次のようになる。
「基礎教科」は、「指導の個別化」という概念のもとに、子ども一人ひとりが基本的なスキルを身につけていく方向をとる。それに対して「総合的な学習の時間」は、「学習の個性化」という概念のもとに、子ども一人ひとりの興味・関心が広がっていく方向をとる。「内容教科」は学校あるいは教師によって位置づけが異なることになる。いわゆる「教科の系統性」に固執すれば、「指導の個別化」に傾き、それに対して、教科への興味・関心を育てることに力点を置けば、「学習の個性化」という概念を採用することになる。(p.133)

 「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つをごっちゃにして「個別最適な学び」と言ってしまっている学校も多いように思うのですが、「指導の個別化」と「学習の個性化」をきちんと分けて、それぞれの教科で、何を育てることに力点を置くのかを考えれば、もっと整理ができると思うし、先生方の間でのディスカッションももっと解像度を上げてできるように思いました。

「個に応じた指導」のための10の学習プログラム

 個に応じた指導について考えるために、加藤先生は「伝統的な一斉授業」がどんな要素で構成されているかを書いていました(p.133)。このまとめ方、研修などで先生方に伝えたいと思いました。

伝統的な一斉授業は「一斉画一授業」とも呼ばれる

  • 教師が指示した「同じ学習課題」に対して、
  • 教科書にある「同じ教材」を用いて、
  • 教師の指示に従って学級全員が「同じペース」で一斉に学び、
  • 学級全員が「同じ結論(まとめ)」に到達する授業。

 この4つの「同じこと」のどれを崩すかによって、多様性を認めていくことができます。「同じ学習課題」をしなくていいようにする指導、「同じペース」で学ばなくてもいいようにする指導、というふうに4つの「同じこと」のどれかを崩すだけでも、いまの「一斉画一授業」よりも「個に応じた指導」にできると思います。
 4つの「同じこと」の崩し方の組み合わせによって、作られた「個別最適な学び」のための10の学習プログラムがp.135に掲載されています。

「個別最適な学び」のための10の学習プログラム(p.135)

  1. 完全習得学習(マスタリー学習)
  2. 学力別指導(アビリティ・グループ学習)
  3. 反転学習(フリップ・オーバー学習)
  4. 一人学習(マイペース学習)
  5. 無学年制学習(ノン・グレイド学習)
  6. 適性処遇学習(ATI学習)
  7. 発展課題学習(エンリッチ学習)
  8. 課題選択学習(トピック学習)
  9. 自由課題学習(テーマ学習)
  10. 自由研究学習(インディペンデント学習)

 この10の学習プログラムは、加藤幸次 先生の著書『個別化教育入門』(教育開発研究所、1982年)のp.93をもとに作成されたものだそうですが、この本をAmazonで見たら価格が29,980円でした…。手に取るのはなかなか難しそうですので、『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』のp.135に掲載されているこの図を見るためだけにでも、買う価値があると思いますw

個別化教育入門

個別化教育入門

Amazon

まとめ(というか、気づき)

 第6章を読んでいて、自分のなかで曖昧だったものが言語化されたのは、「伝統的な一斉授業」を4つの「同じこと」と分解していたところです。そして、そこから導かれていた「個別最適な学び」のための10の学習プログラムも、学校の先生と「個別最適な学びを実現するためには…」という大きな用語で話すのではなくて、「子どもたちに寄り添った指導をするために、どの「同じこと」を崩していきましょうか?」と話してみたいなと思いました。
 10ある学習プログラムを学年や教科、単元によって使い分けることができれば、先生方にとって、「個別最適な学び」という言葉の意味をもっと具体的に、子どもたちの姿を伴って伝えることができそうだな、と感じました。

 No.7に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)