教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』 ひとり読書会 No.7 「第7章 個が自律的に学ぶ授業づくり」(佐野亮子 先生)

 奈須正裕 先生と伏木久始 先生の編著『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』をじっくり読んで、ひとり読書会として読書メモをまとめていこうと思います。
 今回は佐野亮子 先生が書かれた「第7章 個が自律的に学ぶ授業づくり」です。章のサブタイトルが「単元内自由進度学習における教師の準備」となっていて、実際にどんな準備をすればいいのかが詳細に書いてあって勉強になりました。

単元内自由進度学習とは何か

 「単元内自由進度学習」については、関心をもって自分の学校でトライしてみようとしている先生が多いように思います。この章を読んであらためて単元内自由進度学習について学び直せると思います。

単元内自由進度学習は、授業における学習方法の1つである。ある教科・単元の学習のはじめに行われる「ガイダンス」と、その単元の学習の終わりに行われる「まとめの時間」を除いた、単元の学習展開中のほとんどを子どもが自分で学び進める学習方法である。(p.141)

 佐野先生は、この章の内容を以下のように書いていました。まさに、単元内自由進度学習を始める前に読むべき章だと思います。

本章では単元内自由進度学習で教師はどのような準備を行っているのかに着目し、自律的な学びや個別最適な学びの実現に求められる要所や工夫について具体例を織りまぜながら紹介したい。(p.142)

単元内自由進度学習に求められる教師の準備

 単元内自由進度学習をするにあたって、先生方はどんな準備をすればいいのかというと、「事前準備は大きく3つで構成されている」(p.142)と書かれていました。次のページ以降で詳細が書かれているのですが、図7-1に書かれている「単元内自由進度学習の準備」をインデックスとして転記しておきます。

図7-1 単元内自由進度学習の準備(構成図)(p.142-143)

  1. 単元を選び、学習コースを考える「単元構想」
    1. 単元選び
      複数教科・単元を組み合わせて同時進行することを推奨
    2. コース設計
      子どもの学習適性を考慮
  2. 自力で学習を進めていく拠り所となる「学習材」の開発
    • 学習のてびき
    • 学習計画表
    • 学習カード
    • 発展学習資料・カード
  3. 学習材の効果的な利活用や主体的で自律的な学びを促す「学習環境」の整備
    • 補助資料となる掲示物や具体物や操作教材
    • ICT環境の整備
    • 安心して学習に取り組める空間づくり

 事前準備を構成する3つのステップ「1. 単元構想」「2. 学習材開発」「3. 学習環境整備」のそれぞれについての解説から、読書メモを共有します。(僕自身が「ここは!」と思った部分であり、興味をもったらぜひ原本にあたっていただければと思います)

単元内自由進度学習の準備:1.単元構想

 単元内自由進度学習をするにあたって、どの単元を選ぶか、というのは大事だと思います。どの学年の、どの教科の、どの単元でも同じように単元内自由進度学習をいきなりやれるかというと、難しいと思うので、まずはどの単元を選ぶのか、がとても重要だと思います。

実践者は単元を選ぶ際、具体的な操作や活動を通して学ぶ課題が組み込めることを目安にしているようだ。書く・つくる・試す・体を動かす・実験する等の活動は、その遂行において一人ひとり要する時間が異なる。(略)学習活動場面で個々に必要とする時間にばらつきが生じやすい単元は、自由進度学習に向いていると考えられる。(略)1教科でやるなら、10時間以上あり3週間程度は続く大きな単元でやるほうがよい。(p.143-144)

 「学習活動場面で個々に必要とする時間にばらつきが生じやすい単元は、自由進度学習に向いている」というのは、覚えておくべきことだと思います。
 それと、1教科でやるよりも、複数教科(複数単元)で行うほうが都合がよいことが多い、ということも書かれていました。

そして、1教科でやるよりも、複数教科(複数単元)で同時進行するほうが、実践的には取り組む時間や選択する機会を子どもに十分に与えることができるので、自律的な学びにおいては都合がよいことが多い。
複数教科(複数単元)で実践するメリットは、単元内自由進度学習の指導面のねらいと運営面の事情にある。指導面では、さまざまな学習場面で子どもが自己調整できる機会をつくりやすい。(略)運営面では、実験や具体操作や体験を伴う活動を各自のペースで取り組めるようにするために、学校の実験器具や道具類の集中的な利用を避けて、不足の状況をつくらない工夫ができる。
また、子どもにとって複数教科は、「どちらの単元からやるか」、「今日は何をやるのか」自分で決められることが学習意欲につながっていく。(p.144)

 子どもが自分で「何を勉強するか選べる」というのも大事だということだと思います。

 単元を選んだら、次に学習コースの設計を行います。

学習コースとは、単元の目標を達成するために取り組む課題と学習の流れのことを指す。(略)
コース設計のまず1つは、教科書準拠で進むコースの考案である。単元の学習事項に何がありどのような順序で展開していくのか、教科書の内容や流れを確認する。(略)数社の教科書を調べてどこでも扱われている課題は必修、そうでなければ選択課題にしてもよいという判断が可能になる。こうして、どの個も取り組む必修課題を精選する。(p.145)

 コースを複数用意しておくことは、単元内自由進度学習には重要ですが、そのときに注意すべき点が書かれていました。

次に、教科書準拠とは異なる別のコースも検討し考案する。ここでよく見かけるのが、より「やさしいコース」と「むずかしいコース」を設ける習熟度別発想のコース設計であるが、これは算数の単元であってもなるべく避けたい。なぜなら、教科書に示された学びの筋道に「のれない(なんらかの理由で上手く学べていない)」、「のらない(すでにある程度理解しており関心がもてない)」子どもには、教科書準拠のコースをどんなに易しく(難しく)しても、意欲をもって取り組む効果を期待できないからだ。
この場合は、いつも授業にのってこない「あの子」を思い浮かべ、「これなら食いついてくる」「ツボにはまる」という課題や活動をあれこれと考えてみる。(p.145-146)

 ただの難易度別(習熟度別)コース設定にならないようにし、一人ひとりの子が自分で学ぶ姿を考えることが重要だということです。

コース設計では、(略)いくつかの子どもの学習の姿を想定しながら、学習適性に配慮した学習方法や課題を組み込む工夫をする。(p.146)

 とてもよくわかるけれど、気をつけないと、結果的に習熟度別コース設定と変わらなくなってしまわないようにコース設計をしなければならない気がしました。自分で単元内自由進度学習を設計したことも実施したこともないので、このあたりはたくさんの授業を参観させてもらいながら気をつけて見ていきたいな、と思いました。

単元内自由進度学習の準備:2.学習材開発

 次のステップは、「2.学習材開発」です。学習材は「子どもが自力で学んでいく際のガイドとなり拠り所になるさまざまなもの」(p.147)です。学習材はコースを設計しながら準備していきます。この章では、学習のてびき、学習計画表など、いろいろな学習材が紹介されていました。

 学習計画表について書かれているところが、非常におもしろいと思いました。あまりこうした形式の授業を見たことがないな、と思いながら読み進めました。

この計画は2教科同時で進めるほうが断然おもしろい。合計の時間数内で2つの教科(自分が選択した学習コース)を両方終わらせるのだが、たとえば国語と算数の単元なら、先に国語のコースを全部学習してから算数をやってもよいし、その逆でもよい、国語と算数を毎回交互にやるのもよいし、コースの半分のところで切り換えてもよい。やりたい教科からはじめてもよいし、苦手なものをまずやってしまうというのもよい、というように自分に合った進め方で時間配分や順序を決めていく。
単元内自由進度学習ではじめて計画を立てるときは戸惑う子もいる。また実際には立てた計画どおりにいかないことも多い。だからガイダンス時に子どもたちには、最初に全体の見通しをもつため計画を行うが、漸次変更(コースは変えない)する場合があることも伝えておく。(p.149)

 自分自身が、「飽きたら他の勉強に移りたい」「行き詰まったら他のプリントやりたい」と思うような子だったし、今もいくつか並行して読書もするし、仕事も並行してチェンジしながらやるので、こういう勉強スタイルが実は自分には合っていたのかもしれないなと思いながら読みました。

「学習計画表」の情報は教師と共有する。毎時回収して「振り返り」に目をとおす教師もいるし、途中2回程度(1週間分程度の進度状況)で個々の進度が適切かどうかをチェックする教師もいる。(p.149)

 しっかり先生が学習計画表の進捗を見てくれていて、子どもたちに合わせてペースメイクしてくれると、楽しい学びになりそうです。

単元を見通した計画・振り返り・調整の経験を重ねていくと、学習の取組み方の癖や学習のしかたの好みなどがわかってくるようになる。自分に適した学習方略に関するメタ認知が育つともいわれている。こうしたメタ認知は、家庭学習や受験勉強などでも役立つのではないかと期待されている。(p.149)

 自分自身がどんなふうに学ぶのが好きなのかがわかる、というのは大事なことだと思いながら読みました。これが学べることが、「指導の個別化」にも「学習の個性化」にも繋がると感じます。

 とはいえ、きちんと教科書に載っている学ばなければならないことは学べるようにしなくてはならないので、「学習カード」の作り方についても書かれています。学習カードには問題プリントや穴埋めプリントだけでなく、さまざまな形式があることが書かれています。

「学習カード」は子どもたちが直接的に拠り所にする学習材である。「学習のてびき」には、課題のおおまかな内容しか書かれていないので、実際は該当する学習カードに示された課題に取り組んでみないと、その難易度や所要時間はわからない。(略)
「学習カード」に示される学習内容や課題の表し方は、練習問題を解くようなドリル形式のものもあるが多くはない。他には、教科書や資料の一部が引き写されて知識や用語の意味を確認し書き込む形式、課題のテーマと調べ方と表現方法が複数記された選択式ガイド形式、実験の手順と空欄の表が記されデータと考察を書き込む形式、つくって確かめてみる指示だけが記された形式など、教科や単元の学習内容に応じてさまざまな形式がある。(p.151)

 それと、必修課題のその先にあるべき発展学習についても書かれていました。パフォーマンス課題とかがこれにあたるかな、と思いました。

「学習のてびき」には「ここまでは必ず終わりましょう」という必修課題と、その先に自由選択式の発展学習が提示されている。
発展学習は、単元の学習内容を活かして(ここが重要)、楽しくおもしろくやりがいのある(ここがポイント)課題になっている。ガイダンス時に「早く終わった人はこんなことにも挑戦できる」と発展課題のいくつかの例を紹介すると、発展学習がやりたくて必修課題を頑張る子もでてくる。発展学習の内容を考えることは、教師にとっても高度な教材研究になる。(p.151-154)

 たくさんの「学習のてびき」を見てみたいなと思いました。作って、子どもたちにハマったときには先生方は本当に嬉しく楽しくなりそうです。

単元内自由進度学習の準備:3.学習環境整備

 3ステップ目は、「3.学習環境整備」です。教室のなかで子どもたちが多様な学び方をしている様子が頭に浮かびます。「単元構想」と「学習材開発」をしっかりしているからこその、多様な学びの風景になっていると考えるべきであり、この順番が逆にならないように先生方は注意しないといけないと思います。(見た目は自由に学んでいるようでいて、「単元内自由進度学習」にはなっていない、という授業も多く見かける気がするので)

単元内自由進度学習の授業風景は、テスト中のような一様に座学でプリントに書き込んでいる様子とは異なる。(略)授業をはじめて参観した人が「これが授業か?」と驚くのは、全体を一望したときの、その多様さへの違和感からなのだろう。(p.154)

 それと、学習環境として、教室や廊下、クラウドなどあらゆるところで学習材や資料に子どもたちが触れられるようにすることの大事さも書かれていました。

以前は教材研究でたくさんの資料を集めても、授業ではその一部しか提示できなかったが、いまは映像資料の画像の一部分とその紹介や短い解説を掲示しておき、「続きはWebで」「さらに詳しくしりたい人はQRコードにアクセス」とリンク先を示しておけば、子どもが必要に応じてさまざまな資料にアクセスし活用することができる。(p.158)

 もちろん、デジタルだけでなく、実物を見たり、本物に触れることも大事だと書かれています。「手元の端末画面で映像資料を見る学びと異なる大切な学習であり、端末があれば何でも事足りるということにはならない」(p.158)というのはそのとおりです。
 学びの素材がアナログ・デジタルを問わず、身の周りにたくさんある、というのが大事だと思います。

単元内自由進度学習の特徴と成果

 この章の最後に、単元内自由進度学習をどれくらいするのか、ということが書かれていました。100%全部の授業を単元内自由進度学習にしよう、と言っているわけではないことがわかります。

単元内自由進度学習は学習がはじまる前に学習材や環境を準備するのが特徴である。単元丸ごとの準備なので、思い立ったら明日にでも授業ができるというものではない。しかし見通しをもって準備すればどの学校でも実施できる。
近年の実践例で見ると、この学習方法で授業する時数は年間100時数を超えてはいない。つまり、年間の総授業時数の1割に満たないということである。それでも学期ごとに1か月(20時数)程度、自分のペースや自分のやり方で単元を学び進める経験によって、「わからないことをそのままにしなくなった」「確認したり納得することを他の勉強でも大事にしたい」という子どもの声や、他の授業でも子どもの学びに変化が出てきたという報告はさまざま聞こえてきている。
実践後のアンケート調査では、8~9割の子どもは「単元内自由進度学習は楽しい」「またやりたい」と評価している。子どもの反応を受け止め、各学期に1~2回、時期と単元を選んで計画的に実施することで、「次はこうしたい」と子どもがめあてをもって取り組めるようになる。そして、どの子もいずれかの単元で「今回は自分らしい学び方でできた」、「この発展学習はすごくおもしろかった」という達成感や充実感を味わえるようにしたい。(p.159-160)

 単元内自由進度学習は、子どもたちを変えるだけでなくて、先生方も変えていくということが書かれていました。

このように単元内自由進度学習の経験を重ねることで、教師は準備を通して教材研究や環境整備(環境による教育の方法)の腕を磨き、子どもは学習を通して自分に合った学び方や得意分野を見つけていく。そして、自立した学習者として培われた力は、子どもたちが共に追求する授業でも発揮されていくことが期待されている。一人ひとりが自分の得意を活かし、独自の視点で考えてまとめた成果を携えて交流の場に臨むからこそ、自分の考えを聞いてもらうこと、人の考えを聞くことが楽しく感じられるし、新たな発見や疑問やアイデアが生まれてくるのだろう。(p.160)

 子どもたちがこんなふうに変わったら素敵だと思います。

まとめ(というか、気づき)

 単元内自由進度学習については、事例として本で読むことは多かったですが、授業を参観した経験はあまりないな、と気づかされました。実際にどんなふうに子どもたちが学んでいるのか、そしてその前段階として先生方がどんな思いでどんな準備をしているのか、ということをもっと見ていかなければいけないと感じさせられました。
 自分自身が関わる授業で、単元内自由進度学習を取り入れられるところがないか、考えてみたいと思います。

 No.8に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)