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戸田市立美笹中学校 授業レポート No.1(2024年7月12日)

 2024年7月12日に戸田市立美笹中学校を訪問し、黄木歩美 先生が担当する2年2組の理科の授業を参観させていただきました。この日は、自由進度学習の形式で学んでいる単元「生物をつくる細胞」の3時間目の授業でした。

 単元の開始時に、黄木先生から生徒たちに、単元全体の学習計画がロイロノート・スクールで配布されていました。
 学習計画には、単元の目標(「1. 顕微鏡の操作など観察・実験の技術を身につける」「2. 植物の細胞・動物の細胞の特徴を見出し理解する」「3. 単細胞生物・多細胞生物について理解する」)と、全4時間の計画(「計画・基本学習1」→「基本学習2」→「個別学習」→「学習のまとめ(チェックテスト・ふりかえり)」)が示されています。

 単元のゴールは、細胞を観察して撮影した写真を1枚必ず入れて、それに学んだり調べたりした成果をまとめてA4サイズ1枚のポスターを完成させることです。
 ポスターのテーマの例として、「動物細胞と植物細胞の違い」「多細胞生物と単細胞生物について」「細胞のつくり」「細胞の呼吸」「多細胞生物の体のつくり」なども提示されていました。
 黄木先生は「細胞のステキさを伝えるポスターを作ってください」と生徒たちに伝えていました。この「細胞のステキさを伝える」というテーマの設定の仕方も、生徒たちの発想の枠を広げる表現でいいなと思いました。

 単元の3時間目になるこの日は「個別学習」が予定されています。生徒たちは個別学習に入る前に自分のChromebookでロイロノート・スクールを起動し、学習計画に置かれている3回目の授業の「学習目標・振り返りカード」を開いて、自分の目標(「何を・どうやって・明らかにしたい」)を自分で考えて書いていきます。目標が書けたら、個別学習をスタートします。

 生徒たちが個別学習に入るときに、黄木先生はこの日の授業中の活動の目安として「前半は顕微鏡で観察、後半にはポスター作り」と伝えていました。「今日の授業では、これくらいまでは進んでいるといい」という目安を伝えることは、生徒たちがペース配分をする助けになると思います。こうした目安がまったく伝えられないと、最後に慌てて終わらせたり、十分に観察や学習が行えないままポスターを完成させる生徒もいると思います。自由進度学習のときには、こうした先生の気配りは大事だなと思います。

 自由進度学習なので、すでに顕微鏡での観察・写真撮影を終えている生徒もいて、彼らはすぐにポスター作りに取り掛かっていましたが、多くの生徒はポスターに入れることが求められている細胞の観察写真を撮影するために、顕微鏡を自分たちで準備して観察を始めていきます。

 黄木先生は「赤血球を見たい人、プレパラートを用意してあります」と生徒たちに声をかけていました。理科室の教卓には、たくさんのプレパラートや参考図書が並べられていて、生徒たちがいつでも自由に手に取れるようになっていました。実際にプレパラートを手にとって、顕微鏡で見てみて「あ、これおもしろい」と思う生徒たちもいるのではないかと思います。
 黄木先生はこれまでの授業でやりとりをしているなかで、生徒たちが関心をもちそうなテーマを察知して、生徒たちそれぞれが興味のあるテーマを調べられるようにさまざまな教材を準備しているのだと思います。みんなが同じものに興味をもつわけではないので、幅広くさまざまな教材が準備されている必要があります。
 こうした幅広い準備(もしかしたら誰にも手に取られないかもしれない準備)があってこそ、一人ひとりが自分の興味関心に合わせて、自分たちのペースで学べる自由進度学習が実現しているのだと感じました。

 黄木先生が準備したプレパラートだけでなく、理科室の水槽の水なども教材として利用されていました。水槽から水をすくって、ろ過して自分でプレパラートを作ります。何が見えるかわからないプレパラートを準備して顕微鏡で観察するのは、発見したときの喜びを生みます。

 顕微鏡でアメーバやミジンコなどを見つけられたときには、生徒たちから「いた!動いてる!ちゃんととれてる!」と声があがっていました。黄木先生は、「アメーバ、見られた?よかったじゃん!」と応えます。
 一方で難しい課題に取り組んでいる生徒たちもいたようで、「ケイソウは色をつけてないから、見つけにくいよ。レベル高いよ」と黄木先生は言っていました。うまくいかないかもしれないことにもチャレンジできる実験になっているのがいいなと思いました。
 こういう自分で何かを見つける喜びや見つけるための苦労こそが、理科をおもしろがる気持ちに繋がると思います。授業後に黄木先生は「一人ひとりが考えて、やりたいことを見つけて動いている状態にしたい」「できた!見つけた!がたくさんある理科の授業をしたい」とおっしゃっていました。生徒たちにこういう学習経験をしてもらうためには、単元での自由進度学習は適していると感じました。

 顕微鏡で観察したものを撮影するときには、Chromebookのカメラのレンズに顕微鏡撮影クリップをつけて、それを顕微鏡の接眼レンズにはめると、手の震えなどを気にせずに撮影をすることができます。

 ロイロノート・スクールでクラス全員がアクセスできる「写真箱」を作ってありました。黄木先生は顕微鏡で観察して写真を撮影している生徒たちに「良い写真が撮れたら、写真箱に入れておいてね。みんなで見られるから」と言っていました。クラスメイトが撮影した写真を見て、「こんな写真を撮れるなんてすごい」と刺激を受ける生徒もいると思います。

 生徒たちは、顕微鏡で自分の観察したいものを自分の力で観察し撮影できた喜びを、ポスターで表現していく活動へと繋げていきます。ポスターを作る方法は、生徒たちが自分で作りやすい方法を選べるので、ロイロノート・スクールで作っている生徒も、Canvaを使って作っている生徒もいました。
 クラス全員でそれぞれ撮影した写真と、自分で観察したときの感想と、教科書などに書かれている内容を行き来しながら、生徒たちはポスター作りに取り組んでいました。

 ポスターに使う写真は、自分が撮影した写真でなくてもいいというルールだそうです。黄木先生は、「クラスの写真箱にある誰かの写真を使ってもOKですが、その際には撮影した人の名前も入れましょう」と言っていました。
 その他にも、「ポスターにまとめる際に、本やインターネットで調べたり、画像や文章を借りる場合はどこから誰から借りたのか必ず出典を明記すること」と伝えていました。著作権や出典参照などと理科の実験を繋げて学ぶことができる機会になっているのはいいと思います。

 授業の最後にもう一度「学習目標・振り返りカード」を開いて、「分かったこと・まだ分かっていないこと」や「学習への取り組み方の振り返り・次回はどうしたいか」を書き込みます。

 生徒たちが自分の興味関心にしたがって観察ができるように、プレパラートや水槽の水、参考書籍などを黄木先生は準備をされていました。そうした教材だけでなく、先生への質問や教科書を読むことなど多様な方法で生徒たちが細胞について学ぼうとしているのが印象的でした。
 生徒たちが自由に学べるように、幅広く準備することこそが、自由進度学習を成功させる基盤だと思いました。

 No.2に続きます。
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(為田)