スマートに学べる問題集リブリー(Libry)を提供する株式会社Libryの代表取締役CEO 後藤匠さんのインタビューをお届けします。リブリーは、いままで学校で使っていた問題集をタブレットやスマートフォンで見ることができるようになるシステムです。
ノートをリブリーに記録することで授業が変わる
リブリーでは、問題を解いた後に、ノートを撮影して学習履歴と紐づけておくことができます。ノートの写真はクラウドに保存されるので、先生は、先生用の管理ツールで生徒の学習の成果(正誤結果やノートの写真)を確認できます。また、先生用管理ツールでは、宿題の配信や回収をすることができ、回収した宿題の集計も自動で行われます。
それぞれの宿題について、先生は、クラスのどの生徒がどの問題を「正解だった」「不正解だったか」「やっていない」という情報を、一覧で見ることができます。また、それぞれの問題の正答率も自動で集計されます。これは、これまで先生が生徒のノートを全て確認して、はじめてわかる情報でしたが、学習履歴をクラウドに保存することにより、リアルタイムに自動で集計した形で見ることができます。
また、ノートの写真もまとめて見ることができるのですが、ノート全体を提出するのではなく、問題ごとにノートを撮影するので、先生は問題ごとにクラス全員分のノートをサムネイル表示して見ることができます。また、これまでノートを集めていたときにはできなかった、同じ問題を解いてあるA君のノート、B君のノート、C君のノート…をまとめて見ることができます。
ノートをリブリーで見ることができるようになると、授業が始まってノートを回収して、その次の授業で…というのではなくて、回収しなくても授業前にノートを見て、クラスの習熟度合いを理解したうえで授業ができるようになります。授業のPDCAサイクルを、リブリーの力を借りて、速く回すことができます。
ノートを物理的に回収し、職員室まで運び、採点しやすいように出席番号順に並び替えるなど、これまで先生はノートを見る時間だけでなく、多くの時間を宿題の確認に費やしていました。その中で「先生がやる必要のない業務」について、リブリーが代わりにやってくれるようになります。
リブリーを使って、正解した生徒のノートだけをフィルタリングして表示し、おもしろい解法を使っている生徒のノートを電子黒板で紹介・解説するという授業をしている先生もいるそうです。逆に、典型的な間違い方をしている生徒のノートを電子黒板で映して、「みんなだったら、こういう解き方をした人に対して、どうやって教える?」と発問し、アクティブラーニング型の授業をしている先生もいるそうです。
ノートのやりとりは、ウェットでファジーなコミュニケーション
それぞれのノートには、先生用管理ツールからスタンプでリアクションすることができるようになっています。このスタンプには、「OK」や「ばっちり!」などのようなリアクション以外に「途中式を書きましょう」などのコメントも用意されています。
生徒が自己採点したノートは、正解/不正解/部分正解というふうになっています。これによって、生徒が、どこまでを正解としたのか、何をもって部分正解にしたのか、というのを先生は見ることができます。「自己採点では正解になっているんだけど、本当は不正解だよ」「君の中ではつながっているかもしれないけど、答案としては不正解ですよ」というようにギャップを認識させてあげたい、と後藤さんは言います。
採点者と回答者の認識のギャップを埋める、こうしたファジーな採点やコメントは、今まで先生方が生徒とのコミュニケーションのなかでやってきたものであり、AIなどでの採点ではなかなか難しい部分かもしれません。自動採点が基本で、学びの生産性を上げましょう、というデジタルドリルが多いなか、採点もコミュニケーションの一つの形として手放していないのもリブリーの特徴です。
「完全に自動採点にして、ただ単純な正答率だけで、生徒と先生のコミュニケーションが終わってしまうのは、ちょっと冷たいと思ってしまう。もっとウェットでファジーなところはあると思っている」と後藤さんは言います。自己採点の仕組みをとり、自己採点に対して先生側からスタンプを押して返せるという形で、採点者と回答者のギャップをある程度許すファジーさが残っているのは、先生方がアナログで「採点もコミュニケーション」と大事にしてきた姿勢と共通するものがあるように思います。
生徒のやる気に火をつけるのは…?
リブリーは、あまり勉強をしたくないという生徒のモチベーションを喚起するところは、いまはあまり機能として持っていません。リブリーは紙の問題集の代替物で、「紙の問題集より便利でしょ?」という見せ方をしています。生徒たちにとって、紙の問題集より持ち運びが楽で、見やすくて、わかりやすくて、ちょっと楽しくなった、というふうに、紙からシフトさせられればいい、と後藤さんは今の段階では思っているそうです。
現状、リブリーで機能としては強くない、エンタテイメント性、モチベーション喚起の部分については、サービスとしてどうデザインしていくのかを考えているそうです。後藤さんは、「そこは、ICT独り相撲だとダメだと思っているんです」と言います。
モチベーションが下がってしまっている生徒たちを巻き込むために、リブリーのスタンプ機能を使うことはできます。実際に、生徒たちはスタンプが先生から返ってくるとうれしい、というようなコメントもしているそうです。でも、「最初に火をつけるところは、人間だと思っています。ちょっと種火がついたところで、そこに一所懸命に薪をくべてあげるようなサポートの仕方はできる。0→1で生徒のモチベーションに火をつけようというよりも、薪をくべ続けるところがICTができることなのではないか」と後藤さんは言います。
リブリーが大事にしている「ウェットでファジーなコミュニケーション」を、ICTを使って多くの生徒とやりとりできるようにすることが、生徒に薪をくべ続けることを可能にしてくれると思います。
No.3に続きます。
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(為田)