2024年9月18日に関西学院大学 大阪梅田キャンパスで開催された「ゲームの遊びと学びの未来シンポジウム in 大阪」に参加しました。このシンポジウムは、東京大学大学院 藤本徹研究室と関西学院大学 福山佑樹研究室の主催で行われたもので、「プレイフル社会の理論構築と社会実装プロジェクト基金」への協賛各社からの支援で実現しているそうです。
最初に趣旨説明をした藤本先生は、「このシンポジウムは東京大学藤本研究室の共同研究プロジェクトや所属メンバーの研究活動を発信して相互学習の機会となる「地方巡業」セッションである」と紹介していました。こうした場を「地方巡業」と言うのも、ひとつのプレイフル(=遊ぶように働く・学ぶ)だな、と思いました。
参加した「企画セッション:「ゲームを作る&遊ぶ」から広がる学び」を聴きながら記録したメモを共有したいと思います。登壇したのは、日本ゲーミフィケーション協会 代表 岸本好弘 先生と東京国際工科専門職大学 講師 小野憲史 先生です。
ゲームを遊ぶことをきっかけにした学び
岸本先生は「ゲームを遊ぶことをきっかけにした学び」というテーマでプレゼンテーションをされました。岸本先生は28年間ゲームを開発してから、大学教員・ゲーミフィケーション研究者となり、いまは日本ゲーミフィケーション協会の代表をされています。
- 日本デジタルゲーム学会 ゲーム教育SIGに所属して、エデュテイメント、ゲーム開発者の教育
- 岸本先生の経歴
- 28年間、ゲーム開発者
- 「世界を神ゲーに。」←つまらないことも、本人次第でワクワクに変えられる、と布教している
- “小中高校生はゲームを遊ぶのが好き” と “「主体的に考えて行動できる人材」の育成”を繋げたらいいと思う。
岸本先生がおっしゃっていた、「世界を神ゲーに。」というのは素敵なメッセージだと思います。しんどい状況のなかでも、本人次第でワクワクに変えられる、そのときにゲームが役立つというのは、東日本大震災の後の節電をゲーミフィケーションした事例や、ダイエットやトレーニングなどをゲーム化したりとか、さまざまな事例を見つけることができます。
続いて岸本先生は、「ゲームをあそぶことをきっかけにした学び」として、「ゲームリテラシー」「ゲームデザインスキル」「ゲーミフィケーションデザインスキル」の3つを紹介してくれました。
ゲームをあそぶことをきっかけにした学び 3つ
- ゲームリテラシー(自己コントロール力)
- TVゲームとは適切に付き合えば有益なこともある。
- 子どもたちへの問いかけ@オンラインのこども会議
- ゲームにハマった経験は?
- なぜ、ゲームにハマってしまうのか?(きっしー先生より仕掛けの説明)
- ゲーム開発者は、ハマってもらうように作っている。ハマるのは当たり前。悪い大人が作っていることもあるから気をつけなければいけない、と伝える。
- ゲームとどう付き合えばいいと思う?
- 時間泥棒であるゲームとどう付き合うかを考えることが、主体的に考えて行動できる力を身につける練習になる。
- ゲームデザインスキル(ゲーム制作力)
- 面白いゲームを作るための能力のこと。
- バンタンゲームスクール高等部には1年生ゲームプログラミングコースがある。
- ゲームの7つの謎を考えてもらう(ゲームクエスト「ゲームの7つの謎に挑む」)
- それぞれがゲームをやっていて「なんでだろう?」と思ったことを考える。グループで持ち寄ってディスカッションして考える。
- ゲームの「没入感の謎」「面白いの謎」「課金の謎(=なぜ、課金してしまうのか?)」「乱数の謎」「依存の謎」「バグの謎」をディスカッションする
- 「正解ではなく、納得解を探す」ということを生徒たちに伝えている
- ゲーミフィケーションデザインスキル(人生神ゲー化力)
- ゲームがもつ、「人が熱心に取り組める要素」を利用し、継続的にモチベーションやロイヤルティを高められる
- ゲーミフィケーションをリアル世界に転用する
- 「人生はクソゲーかも」
- 3つの要素が入っていないから。でも、自分の人生をデザインしているのは誰ですか?自分でしょう?
「なぜ、ゲームにハマってしまうのか?」ということをきちんとみんなで考える授業がおもしろいと思いました。
また、紹介してもらった「ゲームデザインをリアル世界に転用」するための「ゲーミフィケーションデザイン6要素」は学校での先生方の授業設計などにも役立てられそうだなと思いました。
(ゲームを)作ることで学ぶ
小野先生は「(ゲームを)作ることで学ぶ」というテーマでプレゼンテーションをされました。小野先生は、ゲーム開発者教育をされている立場からの事例をたくさん紹介してくださいました。
最初に、教育現場の新潮流として、ゲームがどのように教育現場に登場しているのかについて紹介してくれました。
教育現場の新潮流
- GIGAスクール構想 プログラミング教育、情報Ⅰ・Ⅱ
- 探究でゲームを増える学校が増えてきているような気がする。
- 探究学習でアナログゲーム制作(追手門学院高等学校が教育系ボードゲーム開発)
- 昨日、広島桜が丘高等学校とゲーム作りの授業をオンラインで実施。そこでアナログゲームを買って、授業で遊んでいる。
- そのうち、デジタルシリアスゲーム、学校で作るようになるかな?
- メディアリテラシーとゲームリテラシー
- ゲームリテラシーはメディアリテラシーの下位概念?
- メディアリテラシー:読解力・表現力・考察力
- ゲームリテラシー:遊べる・作れる・意味理解
- 高等教育におけるゲーム開発者教育
- 世界中でこの流れが起きている(海外は日本より20年くらいはやい)
- 東京藝術大学でゲームを作ることを教えている
メディアリテラシーとゲームリテラシーの関係については、中橋雄先生の『メディア・リテラシー論 ソーシャルメディア時代のメディア教育』の図が引用されていました。ゲームリテラシーがメディアリテラシーに包含される、というのはおもしろい観点だと思いましたし、学校の先生方にお伝えしたいなと思いました。
その後で、3つの事例を紹介してもらいました。
- 事例1:長期入院者によるゲーム開発と展示の試みと、その効用
- ゲームが好きだ、という人に、遊ぶだけでなくて作ってもらう。地域の子どもたちに遊んでもらうゲームを作ろう、というのをやった。
- 自分たちの作ったゲームをお客さんに遊んでもらっている様子をビデオで撮影して、見せたら前向きになった。
- 「次はScratchじゃなくてUnityで作りたいです」「ゲームを紹介するサイトを作ります」と前向きな行動が見られた。
- 事例2:放課後等デイサービスと大学を往還するゲーム制作実習
- 大学でのインターンシップへの導入
- ゲームとの関わり方の3段階モデル
- 「遊んで楽しい」→「作って楽しい」→「遊んでもらって楽しい」
- 遊んで楽しい→作って楽しい→遊んでもらって楽しい
- 自分たちで作ったシリアスデジタルゲームを「遊んでもらって楽しい」時代へ…
- 事例3:地域の魅力発信につながる周遊支援コンテンツの開発と配信
- SONY「ロケトーン」
- 周遊支援アプリ
- 全国200くらいの実践がある
事例2のところで小野先生がおっしゃっていた、ゲームとの関わり方の3段階モデル(「遊んで楽しい」→「作って楽しい」→「遊んでもらって楽しい」)は、小学校や中学校でのプログラミングの授業を設計するときの指針になりうるものだなと感じました。3段階目の「遊んでもらって楽しい」のところまで、どう進めていくか、ということを先生方とお話したいなと思いました。
参加者との質疑応答
参加者からの質問に岸本先生と小野先生が回答したやりとりも、公開します。
最初は小学校の先生からの質問でした。学校の授業、学校の勉強について考えさせられるやりとりでした。
- Q:ゲーミフィケーションの理論は今の子どもたちに親和性が高いと思っている。小学校でもやっていること。6要素は、子どもたちの姿と結びつけていますか?
- 岸本先生:ゲームを使うこと=ゲーミフィケーション要素を使うことは、楽しくすること。「勉強って楽しいだけじゃダメ」と言う人がいる。楽しいの定義が難しい。楽をする、というのではなく、夢中になる状態、フロー状態、ということ。そういう体験をさせることが大事だと思っている。主体的に考えて行動するように仕向けるように、そのためにゲーミフィケーションを使うべき。楽しい、はすぐ飽きてしまう。詰め込み教育よりは、主体的に子どもたちを動かす方が時間がかかる。でも、これからの日本に必要なのはそうした人材だと思うし、それを育てるのには時間がかかる、ということだと思う。
次に、子どもたちにゲームを作らせるが、うまくいかないことがある、という質問です。ゲームを作るときに、他者(ユーザー)を想定しているかどうか、というのは大事だなと感じました。
- Q:子どもたちに最終的にゲームを作らせる、というのをやらせているが、うまくいかないこともある。「作りたいものを作ると失敗する」というのがあるが、そこを詳しく知りたい。
- 小野先生:プロでも、自分でも好きなものを作ると失敗する。けんかになるし、好きは言語化できないし。自分の好きは、括弧に入れておいて、特定の誰かのために作ったほうがいい。特定の人に向けて、その人が喜ぶように作ってください、とやる。
最後に、ロボットプログラミング講座の講師をされている方からの質問です。一般的な「つくること」ではなく、「ゲームをつくる」ことだからこその価値はあるのか、という質問でした。
- Q:子ども向けのロボットプログラミング講座の講師をしている。デザインだったり商品開発だったり、何かを作ることで学べることはたくさんあるが、そのなかでも特にゲームを作る、というのが他と比べてのメリットはありますか?
- 小野先生:ゲームを作るのは、プラモデルと同じ。半完成品。ゲーム自体に価値があるのではなく、ゲームを遊ぶ人の体験を作っている。ゲームは遊んでもらって、そこで完成する。作って楽しい、動いて楽しい、だけじゃなくて、その先があるというのがゲームの特徴。
No.2に続きます。
blog.ict-in-education.jp
(為田)