2024年9月18日に関西学院大学 大阪梅田キャンパスで開催された「ゲームの遊びと学びの未来シンポジウム in 大阪」に参加しました。参加した「『桃太郎電鉄 教育版』事例研究シンポジウム」を聴きながら記録したメモを共有したいと思います。
『桃太郎電鉄 教育版』の特徴と利用状況調査結果
セッションの最初に『桃太郎電鉄 教育版』の教育的価値の評価に関する共同研究をされている東京大学大学院 准教授 藤本徹 先生から、最初に趣旨説明と利用状況調査結果が紹介されました。
- 『桃太郎電鉄 教育版』は2023年に公開
- 2024年9月18日現在10,000校を超える利用登録があり、そのうち5,000校が小学校
- 『桃太郎電鉄 教育版』の特徴
- 授業での活用を想定してカリキュラムにあわせた各種機能を搭載
- 学びたい地方を限定してのプレイ
- 駅周辺の地理情報やランドマークの情報をゲーム画面の右側に表示
- 先生が管理ツールからゲームをコントロール
- 『貧乏神』は出てこない仕様、持ち金が変動しすぎないよう調整
- 任意の駅に物件追加が可能
- 利用者を対象としたアンケートを実施(2024年7月~8月に実施、有効回答数218件)
- 学校の活動で使用する頻度など、利用状況調査をまとめている
『桃太郎電鉄 教育版』の利用登録をしている学校数が多いことに驚きます。さすがにコンテンツ力です。僕自身も小学校のアフタースクールで担当している小学校3年生のクラスで夏休みに『桃太郎電鉄 教育版』を子どもたちと一緒にやってみましたが、すごく子どもたちは楽しんでいました。
特別講演(小学校教諭・エデュテイメントプロデューサー 正頭英和 先生)
エデュテイメントプロデューサーの正頭英和 先生による特別講演が行われました。小学校で教えている正頭先生が感じている、いまの日本の子どもたちの様子を紹介していただき、それを変えるためのエデュテイメントの重要性を紹介してもらいました。
- いまの小学校6年生は、「やってみたいことがある」(2割):「やってみたいことがわからない」(8割)だと思う。
- この時代に「やってみたいことがある」と答える2割の子たちは、なぜそうなっているのか?→起点は「体験」だ
- 体験の定義:「調べてみる」「作ってみる」「試してみる」
- 今の子どもたちは「とりあえずやってみよう」では動かない→ここのハードルを下げるために、エデュテイメントを使いたい
- 「マインクラフト」によって体験を起点とする授業はできたが、日本のコンテンツでやりたいと思った。
- すぐに思いついたのが、『桃太郎電鉄』だった
授業実践事例
『桃太郎電鉄 教育版』を授業で活用している先生方による、授業実践事例の紹介も行われました。単純にゲームとして遊んでいる、というのではなく授業のなかでの教材として活用している様子を聴くことができました。
- 事例紹介1:
- 楽しいは子どもたちの学びの入口になる
- 「好き」に没頭できる特別支援教室を目指している
- 『桃太郎電鉄 教育版』の駅名漢字対決でコミュニケーションがとれている。
- 事例紹介2:
- 特別支援学級での桃鉄
- 順番を守る
- 勝ってもほどよく喜ぶようになる=社会性+負けても人・物にあたらない(ゲーム設定のおかげで他責思考になりにくい)
- 一緒にプレーしつつ、個々の学び
- 学年によって違うグラフで「サイコロの目」を記録する、など
- 事例紹介3:
- 「桃鉄をやりたい!」←ゲームの力はすごい。
- 休み時間も、給食後も、問題を溶き終わったあとも、「やっていいですか?」となる
- 5年生 水産業マップを作る
- 第1時までに
- 『桃太郎電鉄 教育版』でそれぞれの駅をめぐって、水産業に関係する物件をチェックして、スクショする
- PadletのMapで「増毛」を検索して、そこにスクショした水産業に関係する物件を投稿していく
- ここを起点に、水産業について調べまくる子たちが出てくる
学習研究から見た『桃太郎電鉄 教育版』
広島大学大学院 准教授 池尻良平 先生が、3人の先生方による授業実践事例の紹介を受けて、学習研究から見た『桃太郎電鉄 教育版』についてのプレゼンテーションを行ってくださいました。ぼんやりと思っていたことに、言葉を与えてもらったと感じたのは、池尻先生の「ゲームが楽しいのはわかる。でも、直接教授より学習するの?」というコメントです。学校の先生方がシリアスゲームやゲーミフィケーションのことを考えるときにもっていてほしい視点だなと感じました。
池尻先生は、「未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning)」(Bransford & Schwartz 1999)で実験されている発見学習 vs 直接教授の実験を紹介し、そこから桃鉄を「未来の学びの準備」に位置づける方法を提案してくださいました。
「どんな質問+仮説思考をさせる?」「どんな学習素材と組み合わせる?」という2つの提案がされました。こうした提案は、学校での授業設計に役立ちそうだと感じますし、この日発表された授業実践でも、学習素材と組み合わせている様子はたくさん見られたように思います。
おわりに
最後に、藤本先生がまとめとして「ゲームと学校のデザインの世界観の違い」について紹介してくださいました。最初のセッションで日本ゲーミフィケーション協会 代表の岸本好弘 先生がおっしゃっていた、「世界を神ゲーに。」という言葉ではないですが、学校を逆にクソゲーだと思っている子たちも多いのではないかと思います(先生方にも多少はいるかも…)。
一気に神ゲーにまでできなくても、ゲーミフィケーションの知見を用いつつ、学校を楽しく学べる場所にするよう仕事をしていけたらいいなと思いました。
ゲームの遊びと学びの未来シンポジウム、大変学びが多い時間となりました。
主催された東京大学大学院 藤本徹研究室と関西学院大学 福山佑樹研究室の皆さん、藤本先生、福山先生、本当にどうもありがとうございました。
(為田)