教育ICTリサーチ ブログ

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書籍ご紹介:『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』

 江森百花さんと川崎莉音さんの共著『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』を読みました。「教育分野のジェンダーギャップ」を社会課題として江森さんと川崎さんが現役東大女子学生だった頃に行った緻密な調査・分析と提言を読むことができます。

 僕は小学校から大学までずっと神奈川県内の学校へ進学しましたが、いま仕事でいろいろな地方へ行って先生方と話すと、(時代が全然違うことを差し引いても)学校の様子は全然違うのだということに気づきます。僕は、江森さんと川崎さんが課題として持っている、「資格取得を重視し、自己評価が低く、浪人を避ける。地方と女性という二つの属性がいかに進学における壁となっているのか」ということを、全然知らずに過ごしてきたのだということを感じることがときどきあります。それで、この本を読んでみたいなと思いました。

 特に気になったところを2か所だけ、紹介したいと思います。まずは地方女子学生が「どうして東大/難関大学を目指さないのか」ということについて書かれているところです。

本書で述べた通り、地方女子学生は進学にあたって様々な問題を抱えています。特に顕著なのが「浪人回避傾向」「安全志向」「実力の過小評価」で、この三要素が揃ってしまうことで地方女子学生は志望大学の難易度を、地方男子学生や首都圏学生たちより少しずつ下げているのです。この問題を、地方女子学生と周囲の意識・価値観を改善することで解決するというアプローチもできますが、より手っ取り早いのは「浪人回避傾向」「安全志向」「実力の過小評価」があっても安心して難関大学を受験できるシステムを整えることでしょう。
(略)
私たちは、この「失敗できない」「一度きり」の入試制度を変えることこそ、地方女子学生を難関大学に増やすために最も有効な施策だと考えています。(p.192-193)

 大学入試だけでなくて、社会全体として日本は「失敗できない」というのが効きすぎている社会だな、と思っています。受験制度も変わりつつありますが、その制度をどう活用するかはマインドにもよるので、こうして文言化されていて読めてよかったなと思いました。

 最後にある「おわりに」で、読者への提言として、【地方女子の皆さんへ】【保護者の方々・これから保護者になる方々へ】【教育関係者の皆様へ】【メディアに関わる方々へ】【直接的な関わりを持たない方々へ】と、宛先を明記した提言が書かれています。なかでも、保護者向けのものは刺さりました。僕は教室で子どもたちに対して言葉をかける仕事をしているので、気をつけなくてはいけない、と思わされました。

【保護者の方々・これから保護者になる方々へ】
保護者の方の存在は、高校生にとって非常に大きいものです。何気なくかけた言葉も、口には出さない期待も、あらゆるところで影響を与えています。
ぜひ、その一言をかける前に、本人の希望を無視していないか、自分の思い込みを押しつけすぎていないか、一度踏みとどまってみてください。また、どんなにかける言葉に心を砕いているつもりでも、誰しもがステレオタイプやバイアスを持っているものです。保護者の方が、今一度自分がかけてきた言葉を振り返り、娘と向き合うことで、女子学生が自分の思いをありのままに発露させる・自分の志に正直になるきっかけになるかもしれません。(p.209)

 江森さんと川崎さんが自身の問題意識から行動を起こして、調査して分析して提言をしているのが、「探究」だなと感じました。興味をもった方は、江森さんと川崎さんが立ち上げた #YourChoiceProject のサイトを見てほしいです。

yourchoiceproject.com

 地方で中学生・高校生を教えてらっしゃる先生方に読んでいただいて、感想をお知らせいただきたいです。

(為田)