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渋谷区教育委員会 外国語担当者研修@渋谷区立原宿外苑中学校 レポート(2025年6月26日)

 2025年6月26日に渋谷区立原宿外苑中学校を訪問し、渋谷区教育委員会の外国語担当者研修に参加させていただきました。3年生の英語の公開授業の後に参加させていただいた協議会と指導講評の様子をレポートします。

渋谷区の先生方と京丹後市の先生方で協議会

 この日の研修には、渋谷区と同様にすでにELSAを導入して授業で使っている京丹後市の先生方もZoomで接続してリモートで参加していて、公開授業の様子もZoom越しにリモートで参観していました。公開授業の終了後に、参加者の先生方は協議会を行いました。

 森静香 先生の授業者自評では、「2025年度からELSAを本格導入しています。ELSAには英語っぽく話すのに、ペアでクラスメイトに英語を話すときにはカタカナ英語に戻ってしまうのが課題だと思っています」ということが伝えられました。

 この後で、「生徒たちは主体的に学べていたか」「ELSAでの練習を、その後の活動に活かせていたか」という視点が渋谷区教育委員会から提示され、9つのグループに分かれて協議に入りました。
 それぞれのグループで京丹後市の先生も参加されていて、この日の授業の様子について話し合うとともに、先行している京丹後市でのELSAを活用した授業の様子、指導の変容などについて協議が行われていました。

 渋谷区の先生方から、京丹後市の先生にいろいろな質問が投げかけられていました。こうして同じ自治体のなかだけでなく、先行している他自治体との間でも情報共有が行われることで、ELSAを活用した授業研究を速く進めていけると感じました。

指導講評(ELSA Japan 髙橋一也 先生)

 協議会の後で、ELSA Japan合同会社の髙橋一也 先生による指導講評が行われました。元教員で、工学院大学附属中学校・高等学校で教頭先生を4年間務めてらっしゃった髙橋先生は「授業をどうやって設計するか」ということと、PBL(Project Based Learning)が専門です。

 髙橋先生は、この日の森先生の授業作りのポイントは、生徒同士が英文を聴いて話し合ったり、新出単語を学んでからナレーションを録音する活動だったと指摘します。
 授業の中では、単語を発音したら正しい音で言えているかをELSAでチェックします。それから長文を音読して、またELSAで発音をチェックします。ELSAの効果的な使い方は、こうして音読する文章をどんどん長くしていくことだと言います。
 それと、発音をELSAで練習した後に、単語テストや穴埋め、語順整序、英作文…というふうに、活動とテストを繰り返していくことをして、教科書の文章をしっかり覚えられるようにELSAを使ってもらえるといい、と髙橋先生は言います。
 髙橋先生は授業の改善点として、生徒たちに配信したELSAの課題の初期設定を指摘しました。ELSAでは課題を作るときに、練習するスキルとして「語彙スキル」か「発音スキル」を選ぶことができます。今回は初期設定であった「語彙スキル」になっていたため、発音を練習している生徒たちが少なかったそうです。発音を練習することがELSAの強みなので、スタートしたらそのまま発音を練習できるように、「発音スキル」を選んで教材セットを配信してほしい、とコメントしました。

 ここで髙橋先生はELSAの画面を映して、発音の練習へのフィードバックを見せてくれました。ELSAのフィードバックの特長は、単語単位ではなく音素単位であることです。「notebook」という単語の発音が良くない、というのではなく、notebookの「oo」のところの発音が良くない、と音素単位でフィードバックしてくれます。
 髙橋先生は、「ELSAは生成AIを動かすだけの会社ではありません。ELSAは音声データの会社です。世界192カ国、6000万人の膨大な音声データをもっているから、こういう細かい、音素レベルのフィードバックができるんです」と言います。こうして音素単位でフィードバックを返してくれるELSAで発音練習ができるからこそ、森先生が授業の最初に発音を注意すべき単語を解説したところもより効果的だと思いました。

 髙橋先生は、この日の授業のいちばんのコアは音読のところで、音読の前に行うELSAでの音読練習が機能していなかったので、自信をもって発音できなかった生徒たちもいた、と指摘します。自分の授業のコアをどうやって豊かな活動にするか、そのために前のアクティビティを計算して授業を設計することが大事だと言います。
 また、コアとなる音読をどう評価するのかについても指摘されました。この日の授業では、動物園の音声案内を録音して、それをお互いに聴き合うという活動をしましたが、発音へのフィードバックは得られていませんでした。ワークシートにどうだったかを書いてくれているものの、音読を録音した本人はどう改善できるのかがわかりません。自分で「どう改善できるか」という意識が生まれないと、学びが生まれてこない、と髙橋先生は言います。

 ELSAでは、事前に英文を読み込ませておけば、どんな英文でも音素単位で発音のフィードバックを得ることができるので、今回の授業の音声案内の原稿もELSAで準備をしておけば、一人ひとりが自分の担当する原稿の音読を練習するときに、発音のフィードバックを受けることもできます。
 フィードバックの画面を見ながら生徒たちは自分の声を聴いて、発音をより良くするために自分で練習をすることができる。そのために、ELSAで客観的な数字を出して自分の達成度合いを測るということがポイントになってくると思います。

 髙橋先生の指導講評を聴いていて印象深かったのは、「ELSAが音素単位でフィードバックを出すことができからこそ、発音の練習の精度を上げることができる」、「ELSAで発音の練習をした後で、活動とテストを繰り返していくように英語の授業の中でELSAの長所をどう活かすかを設計していくことが大切だ」という2点でした。

 渋谷区の中学校の英語の授業で、ELSAを使った英語学習がこれからどのように発展していくのかがとても楽しみです。

(為田)