5月20日から22日まで東京ビッグサイトで開催されていた教育ITソリューションEXPO(EDIX)の凸版印刷・東京書籍ブースでミニセミナーのスピーカーをつとめました。3日間で全6回。そのうち半分は、東京書籍と凸版印刷からゲストスピーカーをお迎えしてのセミナーでした。おかげさまで、毎回多くの方に聴いていただけました。
どんなミニセミナーだったのか、というのを駆け足ではありますが、スライドとともに紹介したいと思います。最初にスライドを提示して、そのスライドのときに話した内容を下に追記していくスタイルにしたいと思います。
ミニセミナー「教科書づくりのノウハウを活かした新しいデジタル教材」
- 東京書籍と凸版印刷は、グループ企業です。
- 東京書籍は小学校の算数の教科書でシェア40%を持っています。セミナーを聞いている人たちの中にも、東京書籍の算数の教科書で勉強した、という方は多いのではないでしょうか。
- 一方、凸版印刷は、県立高校の1年生、2年生全員にタブレットPCを購入してもらい、学習に使っている佐賀県の裏側のシステムを開発・提供しています。
- 教科書という教育コンテンツを長い間作り続けてきた東京書籍と、教育コンテンツを教室に届けるシステムを開発している凸版印刷という、この2社が組むことで、「教科書づくりのノウハウを活かした新しいデジタル教材」を作ることができるのではないかと思っています。
- 東京書籍と凸版印刷とでミーティングを一緒にするようになってすぐに、「教科書がいかに細かく設計されているか」ということを思い知らされました。
- 教科書が持つ「どうやったらわかるようになるか」を考えぬいたノウハウが素晴らしいと思うようになったのです。
- ただ教科書の内容をデジタルにする、というだけでは、教科書の良さを活かしきれないと考えています。また、教科書に動画やアニメーションなどを盛り込んで理解を促進する「デジタル教科書」とも違うものを作る、というのが我々のやっていることです。
- どんなふうに教科書の問題が設計されているか、実際の教科書を見てみましょう。
- これは、東京書籍の小学校3年生の算数の教科書の問題です。大問2の中に、小問が9問配置されています。
- この小問9問は、同じレベルの問題ではありません。小刻みに少しずつ、レベルを上げていっています。
- 1問目から4問目までは、3桁+3桁あるいは3桁+2桁のたし算です。それぞれ、一の位と十の位で繰り上がりがあり、百の位では繰り上がりがなく、答えが3桁になる問題です。
- 5問目と6問目は、これと少し違って、同じように一の位と十の位で繰り上がりがあるのですが、十の位の繰り上がりは、繰り上がった数字と最初からある数字を足してちょうど10になり、繰り上がったあとの十の位が「0」になるようになっています。
- 1問目~4問目と5問目~6問目の間で問題が解けなくなる児童がいたとするならば、この十の位の数字の扱いのところでつまずいている、と考えることができるということになります。実際、先生方は教室で児童の解答を見て、このように考えながら丸付けをしていると思います。
- いま先生が紙の教科書を使って丸付けをするときに理解している児童のつまずきが、デジタル教材の自動採点になったら見えなくなってしまう、というのであれば、無理に教材をデジタルにする必要などないと思います。
- 計算問題だけではありません。文章題でも同じように、細かく理解を確かめるようにレベルを上げていきます。
- 問3については、図がついてわかりやすくなっていて、問4については少し抽象的なイラストになっています。それだけではなく、問3はすぱっと切れる題材を使っていて、わり算がわかりやすいようになっています。一方で問4は、液体を分けるので、抽象的な理解がなくてはなりません。
- また、文章も問3は単文2つで構成されていますが、問4は長い文章(複文)になっています。問題文の読む力についても、ここでレベルをあげています。
- さらに、この後、「8cmずつにリボンを切るとき、24cmのリボンから何本切れますか?」というふうに、わられる数とわる数の登場順を逆にした文章題が出てきます。
- このように、問題を解くために必要な知識や理解を少しずつ上げていく、ということを行なっています。
- これはどういうことかというと、教科書の問題は、少しずつレベルを上げていき、「これはできる?」「できないとしたら、じゃあこの問題はできる?」と確認をするように作られている、ということです。
- そのような考え方で作られている教科書だからこそ、先生方は児童が「どこで」「どうやって」間違えたか?を見て、次の指導を考えることができるのです。
- デジタルで問題をどんどん出すシステムの中には、こうした小刻みに理解を確かめるプロセスをとっていないものもあります。例えば、さっきの計算問題9問は、そのうちの何問が正解だったか、という大雑把な正解数を先生に伝えるだけでは不足で、「どこで」「どうやって」間違えたのか、というのを先生に伝えなければ、先生方がいま教室で行なっている教え方に追いつかない、ということになります。
- 問題をデジタル化することで、今の授業よりも質が下がるのであれば、デジタル化する必要などありません。
- こうした点を考慮して、我々は教材の出題方法を考えています。すなわち、最後の答えだけで正誤判定をするのではなく、問題を解くプロセスについても判定をし、問題を解くために必要だった知識やスキルのどの部分でつまずいているのかを明確にし、その部分を補習できるようにしています。
- 先生がいま教室で行なっている「どこがわからないのか」に応じた指導は、きめ細かい一方で、児童数の多い授業ではなかなか実現するのは大変です。だから、その部分をデジタルで自動化して、一人ずつに適した問題を自動的に出題するようにしています。
- これで、児童一人一人が間違えたポイントを見つけ出し、さらに一人一人にあった問題を出題して、反復練習をさせることが可能になります。
- 一人一人にあった出題というだけでなく、もうひとつデジタルが優れている点は、単純だが膨大な記録をとり続けることです。一つの問題に何分くらい取り組んだのか。一日に何分くらい勉強したのか?週での勉強時間は増えているのか、減っているのか?昨日出した宿題の正答率はどうだったのか?そうした時間の記録などもすべてとって、先生が見ることができるようにしています。
- 先生は朝、職員室で昨日の宿題の正答率を見て理解度を確認し、その日の算数の授業の最初に、復習を入れたりすることができるようになります。
- また、学習時間が増えた児童をひとこと褒めてあげる、ということも可能になります。点数はまだ上がっていなくても、学習時間が上がっていればほめてあげる、ということも可能になります。
- それから、こうして「間違えたポイント」を記録しておくことで、教科書を設計した時の「ここの問題がわからない子が多いはずだ」という東京書籍の予測がどれくらい正しいのか、数字で明確に把握することができるようになります。これは、ますます教科書の質を上げていくことにつながっていくと、東京書籍の担当者の方も期待を寄せてくれています。
- こうしたデジタル教材ができることで、算数の学力が向上してくれればいい、と思っているのはもちろんですが、実はそこは最終目的ではありません。最終的に目指しているのは、「勉強ができるようになった」と思ってもらい、「自分はやればできるんだ!」と感じてもらうことです。そうした気持ちが、「努力する力」につながると思っています。
- 一時的な学力よりも、「努力する力」こそが、人生においての成功のための重要な要素になるという研究事例もあります。我々もそう考えています。そのための第一歩として、「勉強をしっかりしたらわかるようになった」と思ってもらい、学びが楽しいと思ってもらうように、サービスを開発していきたいと考えています。
- そうした思いをこめたデジタル教材の名前は、「やるKey」といいます。5月から11月まで、茨城県古河市と東京都福生市において、実証研究を行います。このリサーチの結果も公表していきますので、ぜひ注目していただければと思います。
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以上、いかがでしたでしょうか。20分間のミニセミナーでしたが、やるKeyの機能紹介などはほとんどなく、
「どのようなことを考えて作ったのか」ということにだけ絞ったセミナーでした。この後、ブース内のやるKeyの展示コーナーに来てくださった方もとても多く、たくさんの方とお話をすることができました。また続報を出していければと考えています。
また、東京書籍の「教科書づくりのノウハウ」のところの説明が、本当にリアクションがよくて、聴衆の中で先生方がものすごく頷いてくださっているのが見えて、それもとてもうれしかったです。先生方の教え方をICTで助けることができるように、がんばっていきたいと思います。
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ミニセミナーを聞きに来てくださった方から、いただいた感想がうれしかったので、シェアさせていただきます。
デジタルコンテンツだから容量を気にせずたくさん学習できる、んじゃなくて、いかに人と状態に見合ったコンテンツをビッグデータの中から選んであげられるか。
デジタルコンテンツが急増した今なら、そういった為田さんの話が多くの方にちゃんと響くと思います。
まったくそのとおりです。もう「デジタルにしたから」「ICTを導入したから」ということでニュースになる時代ではないと思います。「どう使うのか」ということが、きちんと教育現場で議論をされるようになるといいと思います。
スペシャルトークセッション
実は、全部で6回開催したミニセミナー、最後の6回目で、僕がちょっとトチりまして(笑)、最後の最後にトチってしまったのが本当に悔しかったので、タイムテーブルにはないものの、最後にもう1回フリートークで話をさせていただきました。フリートークの相手をしていただいたのは、凸版印刷の村上さんです。
タイムテーブルにはないけれど、その場でどんどんお客様が立ち止まって話を聞いていただけたのがうれしかったです。けっこう集まってきたところで、「ここでミニセミナーやってたんですけど、聞きました?」と訊いたら、「いいえ」という方が多かったので、簡単におさらいをして、そのうえで、「他のブースではどこかおもしろい展示ありましたか?」などと、お客さんにマイクを渡してみたり、自由な感じでした。
しっかり原稿を作って準備をするのもいいですけど、こういう突発的なものもいいな、と思いました。
最終日の午後5時近かったので、もう終盤で、見学者のみなさんも疲れている感じだったので、ちょっと新鮮だったのかな、と思います。もし来年もこういう機会があるならば、何人かゲストをおおまかに決めておいて、どんどんフリートークで広げていったり、いくつかのブースで共同でやって、それぞれの見どころを紹介しあったりとか、そういうやり方もあるかな、と思いました。
突然、「もう1回、ステージ使っていいですか?」と無茶なお願いをしたのに、スクリーンを準備してくれて、マイクを準備してくれて、と動いてくださった凸版印刷のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。一緒にステージに立ってくれた村上さんもありがとうございます。突然呼び込んで話を伺った、菊地さん(凸版印刷 教育ICT事業開発本部 本部長)もありがとうございました。
会場では聞けなかったスペシャルメッセージ
ここまでは、基本的にミニセミナーの内容を公開してきました。
最後に、Webでの特別コンテンツとしまして、やるKeyのプロジェクトを推進している凸版印刷株式会社 教育ICT事業開発本部の菊地尚樹本部長から、EDIXを終えた感想と、今後への展望をコメントとしていただきたいと思います。
はじめまして、TOPPANの菊地です。
去年の8月から教育の世界にデビューした、かなり年季の入った新人です。
初めてEDIXに参加しましたが、他の展示会とは違う雰囲気を感じました。 何というか熱量が大きい感じ・・おそらく来場者の皆さんから多く発せられたものだと思います。
3日間ずっと会場に居ましたが、その空気感とても居心地良かったです。
特に最終日の「スペシャルトークセッション」はちょっとワクワクしました。「お客さんも巻き込んだフリートークをやってみたい(突然)!」という為田さん、瞬時にそれに乗っかる村上他うちの連中、そして何よりもそんな場に参加して、楽しんでくれた来場者の皆さん「来年も絶対こんなことやりたい!」と思い、その場で次回の出展を決めました(笑)
為田さんからもご紹介がありましたが、われわれはお子さん達が社会に出て活躍してゆくための大切な素地の一つである「努力する力」に着目しそれを育むサービスとして「やるKey」を創っています。
その第1歩として、福生市さま、古河市さまとの実証研究がいよいよスタートしました。「初めて100点が取れた!」というお子さんの話を 我が事のように伝えてくださった先生の笑顔がわれわれのエネルギーです。
これからもそんな力を皆さんからいただきつつ、喧々諤々ちょっと青臭い議論も熱く戦わせながら(特に為田さん熱い!)本当に価値の有るサービスを創り上げてゆきます。
以上、EDIXでのミニセミナー、スペシャルトークセッション、スペシャルメッセージでした。「やるKey」、実証研究が始まっています。今後のレポートにも、ぜひご期待ください。
(研究員・為田)