教育ICTリサーチ ブログ

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教材として使えるかも?: 『火星の人』 B問題作りにも、前向きな姿勢のモデルにも。

 アンディ・ウィアー『火星の人』を読みました。映画「オデッセイ」の原作本です。火星に1人取り残された宇宙飛行士マーク・ワトニーが、いかに地球に戻ってくるか、というストーリーです。居住施設や探査車は無事だが、残された食料では次の探査隊が到着する4年後までは生き延びることが不可能。不毛の地(不毛過ぎる!笑)である火星で、食物を栽培すべく対策を編み出していく、という話です。


映画「オデッセイ」予告E

B問題の宝庫だと思う

 読んでみて、非常におもしろかったのは、この小説を題材にしてB問題をたくさん作れそうだな、ということです。例えば、限られた食料、物資を使って、「食料はいつまでもつか?」「水はどうやって作るか?」「どれくらいカロリーが必要で、そのカロリーをどうやって作るか」などなど、すべてがロジックなのです。科学、数学、問題発見と解決。そうしたものがおもしろく書かれている。エンターテイメントで読まされて(←褒めてます)、考えさせられます。例えば、以下のような記述があります。

僕は毎日1500キロカロリーとらなくてはならない。手始めに確保できるのは400日分。となると、1425日程度生きているためには、その全期間を通じて、毎日どれくらいのカロリーをつくりださなくてはならないでしょうか?

 単純な算数的なものだけでなく、化学的に物質を作り出す場面もたくさん出てきます。なにしろ舞台は火星。自然にない水を創りださなければならないからです。

なすべきことはただひとつ、触媒(これはMDVのエンジンから手に入れられる)を使って、窒素と水素に変えればいいのだ。化学の講義は控えるが、最終的にはヒドラジン分子五個が、無害なN2分子5個とかわいいH2分子10個になる。

 映画を見ていないのですが、こうした細かい記述はなさそうな気がするので、映画を見て興味を喚起して、小説の該当部分を題材に授業をする、とかそうしたものもおもしろいかな、と思いました。

成り立ちがデジタルだ…

 ちなみにこの作品、成り立ちもとてもデジタルだな、と思います。あとがきに書かれている成り立ちを紹介すると、以下のようなものでした。

作家志望だったウィアーが本書の執筆をはじめたのは2009年。自分のウェブサイトに一章ずつ無償で公開していった。やがて読者から電子書籍(この場合はアマゾン・キンドル)でまとめて読みたいという声が寄せられるようになり、ウィアーは遂行した作品に、版権のない火星の写真を表紙につけたキンドル版を作成する。本人は無償公開でもよかったのだが、規定上それは許されず、最低価格の99セントで売りだした。このキンドル版は発売3カ月で35000ダウンロードを記録し、SF部門の売りあげトップ5に踊りでた。

 そこから、出版、映画化、と進んでいったそうです。最初から出版社に行くのではなく、自分でどんどん発信をしていき、それが広がっていき価値が認められていった、というのは非常におもしろいと思います。

まとめ

 作品としても、本当におもしろいです。「火星に一人取り残される」なんていう、これ以上ないくらいの過酷な状況で、主人公はユーモアあふれるログを残していくスタイルでストーリーが進みます。いつでも明るさを忘れない主人公の前向きな姿勢も、一つの教材になるんじゃないかな、と思いました。
 読む先生によって、「お、ここは教材として使えるかも!?」と思う箇所がそれぞれ違うのだろうなあ、と思います。「この部分がおもしろい!」というところがあれば、先生方とお酒でも飲みながら話し合ってみたいな、と思いました。