教育ICTリサーチ ブログ

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プログラミング教育必修化ー学校現場はどう対応する? 取材レポート 小中交流会@小金井市立前原小学校(2016年6月13日) No.3

 2016年6月13日に、小金井市立前原小学校(松田孝校長)を訪ね、学校で行われる“小中交流会でのプログラミング授業とそれを巡る協議会”を取材させていただきました。この小中交流会は、前原小学校の近隣の小中学校の先生方を招いて、授業公開、分科会でのディスカッション、全体会を行うというものでした。

 第3回は、分科会でのディスカッションの様子をレポートします。分科会は3校の先生方10人が6つの分科会に分かれて、各教室で話し合っていきます。趣旨としては、「プログラミングを見ての率直な感想を聞きたい」ということだったかと思います。
 前原小学校の先生方は、自分の担当されている教科や学年で、どのようにICTを活用しているのかを発表されていました。また、参加されていた隣接校の先生方からは、感想や質問などが寄せられました。前原小学校の先生方のコメントは、以下のようなものでした。

  • モニターを使って授業をするのは慣れてきている。高学年ではプログラミングがいよいよ始まった、という感じ。
  • iPadをまだ使っていない学年もある。一人1台はまだ早いかな、という学年もあるが、そうした場合でも、ペアだったり班で1台使う、くらいかな、と模索中。2学期くらいから使いたいと思う。機械にはどんどん慣れていくので、与えさえすればできると思っている。それだけではなく、日々のアナログな授業を組み合わせるべき。中にいるとよくわからないので、外部の人からの意見を聞きたい。
  • 1学期にiPadが学校にある状況になり、プログラミングを実施するまでにグループごとにiPadを使って、プレゼンの準備をしてきた。その作業のなかで、写真撮影、撮影した写真を編集加工したり、というのを、ロイロノートを使ってしている。
  • プログラミングは、BB-8のキャラクターを動かすのを導入にして、「プログラミングをどう動かせばいいのか」というのを考えている。6年生の先生方も楽しんでいる。それがいいと思っている。
  • 生の、即時的に作り上げていくことを図工は目指している。今日のプログラミングとは真逆かも。自分で自分の写真を作ろう、というのを図工でやるので、そのときにiPadでの撮影体験をしようと思っている。ICTの使えるところは活かしつつ、生の感じをどう残すか、というのを考えている。

 松田校長の着任以来2ヶ月。ICT環境が整備されてきて、授業の中でも日々利用が始まってきている様子がわかります。
 隣接校の先生方からのコメントは以下のようなものがありました。

  • いろんな専門用語が出てきて、むずかしいなと思った。「フリーズした」と言っている子がいたり。1年間、このプログラミングをやっていて、どうなるのかという目標がわからない。でも、子供たちは楽しそう。中学校でやったらどうなるのかな、と思った。
  • プログラミング授業が必修になる、ということでの取り組みですか?小学校で入るということは、中学校でも入るということ?どういうつながりがあるのだろう?というのがわからない。
  • 到達目標はどこに持ってきて、何のためにこれをさせていくのか、という部分かなと思った。論理的思考を養うということを、プログラミングを使って育てたいのかな、と思ったりもした。言語を使って行う、というのは、中学校の技術でもやっていないと思う。中学校では、Word, Excel, PowerPointで発表、というのがベース。
  • 子どもたちはゲームで親しんでいる面もあるのだが、最終的にどうなるのか、どうなっているのが理想なのか、というのが手探りなのかな、大変だな、と正直なところ思った。
  • 小学校でやるということは、中学校にも何らかの影響が出てくるということですよね。中学校だと専科制なので、どこでどういうふうにするのか。どこまで身につけた状態で上がってきて、それをどう活かすか、ということになる。この言語、この教え方が正しいのかどうかも、まだわからない。
  • プログラミング=「命令」というのを最初に聞いたので、何をやるのだろうと思った。動かすための命令だということを理解するのに時間がかかった。命令を出すことを練習したり、命令を出して動かすことを目的としてやっていたのだと思いますが、それができるようにさせたいということなのかな、と思った。
  • 学習指導要領に位置づけられて、その後は各学校で決めるということになっている。総合の授業ならば、命令を出す授業はできるかと思ったが、他の教科ではどうやるのだろうか?PCが使える、ICT化という流れでは、こういうのを導入しようという流れだと思うのだが、プログラミングを他の授業とどう組み合わせていくのかというイメージができなかった。
  • プログラミングの中で生きていく、というような世の中。プログラミングがどんなものか知って、生きていくことが大事だ、という話だと思います。知らないうちに原理を知らないものに囲まれることはあり、原理を知ることを、義務教育の中にどう位置づけていくかというのは大事。プログラミングができなければ就職できなくなるような時代がやってくるのか、中学、高校はどうあるべきなのか、そこに興味がある。大変だな、とも。どこまで義務教育で、プログラミングをはじめ、新しいスキルを身につけさせなければならないのか。英語、道徳などがあるなかで、さらにプログラミングを…というのはどうなのか?
  • 「何を学ばせたいか」を考えるべき。何を評価するか、どこまで行ければいいのか。先生も、最後まで終わるのを期待していなかったように見えた。

 こうした意見の中には、「なるほど、そういうところも気になりますよね」という質問も多かったと思いました。特に、「何を評価するか」「どこまで行ければいいのか」「どういうことを目指しているのか」「小学校と中学校との接続はどうするのか」など、これから議論を深めていかなければならない点も多いと感じました。

 途中、松田校長が教室に現れたので、どういう背景でプログラミング教育をするのか、ということについての質疑応答に直接答える場面も見られました。
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 前原小学校の先生方にとっては、前任校でも多くのプログラミング授業を実施し、自分でも先頭に立ってプログラミング教育を教える松田校長といつも話をしているので、急速にノウハウが蓄積されてきているのではないかと思います。例えば、No.2で紹介したように、「先生がティーチャーになるのではなく、ファシリテーターになる」というような転換は、実際に数多くの授業をやってみて、子どもたちがどんなふうに反応するのか、1年が終わって子どもたちがどう変わったのか、他の教科とどんなふうに融合させることができるのか、などを実際にやってみることから生まれてくるのだと思います。「やってみる」という気風を校長先生が率先してやっている学校から、何かが変わっていくと思います。


 文部科学省は6月3日に最終の有識者会議を開催し、6月16日に議論の取りまとめを公開しました。今後、この報告が中央教育審議会に引き継がれ、さらなる検討を重ね2020年の学習指導要領改訂につながっていきます。
プログラミング教育必修化をめぐっては、さまざまな議論がありますが、その中の大変重要な課題の一つが、学校現場が対応できるのか、です。今回、前原小学校が小中交流会でプログラミング授業を公開し、中学校の先生方も巻き込んで子どもの事実をもとに率直に意見交換したことは大変大きな出来事だと思っています。
 全国各地でこのような議論が巻き起こり、先生方が自分事としてプログラミング教育を考える場がたくさん開かれていってほしいと思います。

 No.4に続きます。

(為田)