2025年10月18日に東北学院大学五橋キャンパスで開催された、未来を創る教育セミナー 2025 in 仙台(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC))に参加させていただきました。全体テーマは「“ふりかえり”から見とる学習者主体の学び」で、特別対談、全9校・教育委員会によるポスターセッション、グループワーク、講評のすべてのパートで「ふりかえり」がメインテーマとなっていました。

特別対談:自立した学習者と「ふりかえり」〈前編〉
東北学院大学 教授 稲垣忠 先生と東京学芸大学 准教授 登本洋子 先生が登壇した「特別対談:自立した学習者と「ふりかえり」」の様子を〈前編〉・〈中編〉・〈後編〉に分けてレポートします。「探究学習の質をどう高めていけるのか」を共同研究されている稲垣先生と登本先生の対談では、「ふりかえり」についてのさまざまな論点を知ることができました。

中教審「論点整理」に見えるこれからの教育の方向性
対談のスタートとして、稲垣先生は2025年9月25日に文部科学省の中央教育審議会から出た「論点整理」を映してコメントをしていきました。

稲垣先生:
画面のいちばん上には、「自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手育成」と書いてあります。
この「自らの人生を舵取りする」というところは、「長いスパンで自分の人生を自分でコントロールしていく」という意味での主体性までを見据えているんだなと思います。だから、「主体的な学び」という言葉が出てきたら、それは学校の1時間の授業での、先生が見ている前での子どもの姿としての主体性というだけではないということです。
それからそのすぐ下に「「好き」を育み、「得意」を伸ばす」と書いてあります。この「好き」という言葉を出してきたのが今回すごく印象的だと思っているんです。いわゆる「個別最適な学び」という言葉が出てきたときに、単に「一人ひとり自分のレベルに合ったもの」という話をしているのではなくて、「本当にその子自身がどういうことに興味関心をもっているのか」「何を極めていきたいのか」、そういった意味で本当に自分の「好き」なところを伸ばしていくところにすごく関心がもたれていると思っています。
その下に【各教科等での検討イメージ】が書かれていて、「総合」「各教科等」「特別活動」「道徳」と分かれているなかで、「総合」の中に「個人探究」が入っていますね。
登本先生:
課題の設定は、個人探究でやった方がいいのか、グループ探究でやった方がいいのか、という議論があると思います。どちらにもそれぞれの良さがあって、必ず個人でなければいけない、グループでなければいけない、というのではありません。
今、個別最適な学びということがありましたので、探究するときにも「学びを委ねる」とか「生徒が自分で気がついていく」ことがありますが、気が付いてほしいところに本当に気がつけているのか、探究が深まっているのか、課題が自己の在り方生き方につながるものになっているのか、そう捉えたときにどちらがいいのかということが、今後議論が進んでいくところかと思います。稲垣先生:
個人でやらなければいけないものでもないし、グループでやらなければいけないものでもない。
これまで、特に小学校の学習の時間で個人探究という発想はあまりなかったと思うんですけど、私が関わっている学校でもだんだん個人探究をやっている学校が出てきていますね。ただ、個人探究になればなるほどそれをどう見取っていくのかというのは難しくなります。そんなところも今後考えていく必要があるのかなと思います。それからもうひとつ、「各教科等」のところを見ていくと、2つ目のところで「教材・学習方法の選択」という言葉が出ています。このあたりもやっぱり「個別最適」というのが少し出ている部分です。それからもう少し下に行くと「探究的な要素を持つ学習活動」と書かれています。現状だとまだまだ「探究というとどうしても総合の方だよね、各教科の方は教科でね」という壁があるところもあったりするんですが、「教科のなかで探究的に学ぶ」ということが本格的に位置づいてきたのかなというふうには思っています。
さらにその下に「家庭学習の内容を自律的に決められる」と書かれています。宿題をどう扱うかについてマスコミでもいろいろな議論がされていますけれども、「自律的に」という言葉がここに入ってきています。大学での学習では、「大学の授業時間だけでなく授業の前後の学習が大事だ」と基本的には決められて、それで単位を出すというのをやっていますが、小中高のなかでも、「家庭学習も含めて自分の学びを作っていく」という発想が出てきているのかなというふうには見ています。
この「論点整理」で書かれている内容が学習指導要領の形でどうなってくるのかは、これからというところですね。
「ふりかえり」の「誰が」「いつ」「どのように」を整理する
「論点整理」についてのコメントの後、稲垣先生はこの日のセミナーのメインテーマである「ふりかえり」について話を進めていきます。議論のスタート地点として、「ふりかえり」を「誰が」「いつ」「どのように」「何について」「何のために」「どう活かすか」という観点で整理していきます。

稲垣先生:
まず「誰が」については、今回は子どものふりかえりに特化したいと思います。「子どもの姿として何が起きているのか」にフォーカスしてみたいというのが、今回のセミナーを企画した趣旨でもあります。子どものふりかえりに着目して、「どんなことを書いていることが素敵なのかな」「実際ふりかえりを書いてもらったところで先生方はその扱いってどうしたのかな」というところを集中的に議論できたらと思います。東京のある小学校のふりかえりを書くワークシートの右上には、かわいいキャラクター「ジモン君」がいます。自問自答のジモンなんです。すべてのふりかえりの場面でこのジモン君が登場して、子どもはそれを見ながらふりかえることになっています。
生活科でどんぐりとかを使っておもちゃを作って、それを1年生に遊んでもらう授業です。そのときに「そのおもちゃをどうパワーアップしたのか」と「次の時間にやってみたいこと」を書いてもらっています。その日のふりかえりではなく、次に繋がるようなふりかえりを書かせたい、という意図が見えるかなと思います。
それから「いつ」というところでいうと、1時間の授業が終わったときのふりかえりだけでなく、もうちょっと長期スパンのふりかえりもあります。3つの学校でのふりかえりを紹介します。
去年アメリカで訪問したOne Stoneという高校では、プロジェクト学習をすごく一生懸命やっています。そこの生徒がしてくれたプレゼンには、この学校で育みたい資質・能力がどの時期に伸びてきたのかが可視化されていました。
生徒たちはいろんなプロジェクトを経験していくなかで、「このプロジェクトではこういう力の育成につながります」と先生が決めている部分と、「自分でやってみた結果、こういう力がついたよね」という自己評価の部分の両方を積み上げして可視化できるようになっているんです。生徒はそれを見ながら「何年生の頃にこういうプロジェクトをやって、そこでこんな力がつきました」ということを一生懸命語ってくれました。ある意味、これは複数年にわたるスパンの長いふりかえりです。千葉県の中学校の理科の授業では、エネルギーに関する提案をするプロジェクトに取り組んだ単元の最後で、ワークシートに「プロジェクトの振り返り」を書いていました。ワークシートの振り返りを書く欄の上には、単元のルーブリックや評価基準がついていて、「何を手掛かりにふりかえったらいいのか」を示しています。生徒たちはそれを手掛かりに「自分としてはどうだったのか」ということをふりかえっていました。
最後に、愛知県の瀬戸SOLAN小学校です。瀬戸SOLAN小学校では、ふりかえりのための「まなポート」という専用のデジタルのポートフォリオを作っています。ここでは毎時間、「探究のプロセスのどの段階なのか」「そこで何をしてそのときこんなことやったよ」という写真を1枚くっつけて、ふりかえりと自己評価をする形でやっています。子どもたちが書いたふりかえりと自己評価に対して、先生方がフィードバックを返す形で毎時間のふりかえりをやっています。
子どもたちのふりかえりをどういうふうに価値づけるかによって、「学年で見る」「学期で見る」「単元で見る」「毎時間、見る」というふうに、いろんなスパンがあることがわかります。
それから「どのように」ふりかえりをするのか、です。ふりかえりには、いろんな方法があります。アナログでふりかえるか、デジタルでふりかえるか。どちらがいいという話ではないと思うんですけどね。
例えばデジタルの方が書きやすいので、文量的にはすごく増えるということもあります。でも、紙でふりかえりをして常にそれを持ち歩けることの良さもあります。一方で紙で書いたふりかえりは、先生に提出しちゃったら子どもの手元に残らないじゃないか、ということもあります。いろんなやり方の良し悪しは、まだまだあるんだなと思います。スプレッドシートを使ってふりかえりをしている学校もあります。スプレッドシートの1つのシートに子どもの名前がずらっと並んでいて、1枚のシートを見ると全員のふりかえりが分かるという形でやっているところもあります。スプレッドシートのタブを使って、一人ひとりが自分のシートをもっていてふりかえりを書いているところもあります。
Padletを使って、一人ひとりが短冊の形になっていて、その下に1個ずつ何月何日というふうに積み重ねていく形でふりかえりをしている学校もあります。Padletだと写真も貼り付けられるので、さっき紹介した瀬戸SOLAN小学校の「まなポート」に近いこともできますね。
あと「何について」「何のために」「どう活かす」か、ということにも、いろんな視点がありますよね。全部説明していたら時間がなくなっちゃうのでこれくらいにしておきたいと思いますけど、少なくともふりかえりというのは「単一の目的がある」とか「一通りのやり方しかない」という話よりも、「教育の文脈に合わせてどういうふりかえりが必要なのか」ということを先生方のなかで上手に選んで設定していくものなのかなと思っています。
今日、このセミナーに出ることで「これが必殺技のふりかえりだ」「これさえやればいいんだ」というものを見つけられるようなものではありません。おそらくこの後のポスターセッションで発表する9つの学校も、いろんなふりかえりのやり方をしていると思うんですね。そこでどういう幅があるのか、それぞれのところでどういう価値が生まれているのか、そこを見ていくなかから、「うちの学校の子どもたちにはこのへんのやり方がいいんじゃないかな」と見つけていただけるといいかなと思っています。
「ふりかえり」に関する学習理論の紹介
稲垣先生から、「ふりかえり」に関する代表的な学習理論が紹介されました。

稲垣先生:
まずJ・ダンロスキー、J.メトカルフェ『メタ認知 基礎と応用』です。「メタ認知」という言葉はいろんなところで聞いたことがあると思うんですが、「メタ」は、「上位の」とか「上から」とか「俯瞰してみる」という意味です。自分の学習状況を俯瞰して「自分は今こういうことができている」「こういうことはちょっと苦手だな」「自分は今こういう気持ちの状態にある」…そういうのを自分で見つめることをメタ認知と言います。なので、ふりかえりをするためには少なくともメタ認知ができていないとやりようがないという話になります。次は、バリー・J.ジマーマン、ディル・H.シャンク 編著『自己調整学習の理論』です。「自己調整」という言葉は、次の学習指導要領にも入ってくるかなと思っているんですけれども、単にふりかえってメタ認知しているだけじゃなくて、自己調整学習のサイクルを回していくことが必要になります。つまり、学習の計画を立てて、実際やっている途中をメタ認知して、そのメタ認知した結果から何を得られるのかをふりかえる。それをサイクルとして回していくところを「自己調整」というふうにして理論化が進められてきました。
「メタ認知」と「自己調整」は、どちらかというと学び方だったりとか自分の理解だったりとか、自分の学んでいる状況に対して、より良いものにしていこうというアプローチなのかなと思っています。一方で、松尾睦『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』は、どちらかというと自分が経験したことにどんな価値があるのかとか、どういう概念が含まれているのかとか、内容を深めていくという方向かなと思います。
それをもう少し続けて考えていくと、ナラティブラーニング(J.ブルーナー『ストーリーの心理学』)になります。自分が結局どういう学習の物語を経験してきたのか、そこの意味づけをちゃんとしていくという話になります。だから『ストーリーの心理学』『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』の方のふりかえりというのは、経験を意味づけたり価値づけたりしていくようなふりかえりです。
「学び方のふりかえり」と「学んだ内容のふりかえり」というのは別なんですよ。
それらが合わさったところにドナルド・A.ショーン『省察的実践とは何か』(Reflective Practice=省察的実践)を入れておきました。
著者のドナルド・ショーンは、教師をはじめ何かの専門家になっていく(=熟達していく)過程には、メタ認知やナラティブのことも含めて、「自分の学習を客観的に見ることができる力」が欠かせない、ということを言ってきた人でもあります。
そういうふうに考えていくと、学び方を見たり学習内容を見たり、そういう両面のふりかえりを積み重ねた結果として一人一人の子どもたちが自分で自らの学び手として熟達していく、そういう過程がふりかえりのなかで作っていく形なんだろうなというふうに思っているわけです。
No.2に続きます。
(為田)








