2024年10月19日に東北学院大学土樋キャンパスで開催された、未来を創る教育セミナー 2024 in 仙台（主催：一般社団法人 日本教育情報化振興会（JAPET&CEC））に参加させていただきました。この教育セミナーは、全体テーマとなっている「学習者主体の学び」について、校長経験者によるシンポジウム、全9校によるポスターセッション、グループワーク、講評の4つのパートが行われました。
今回は、最初のプログラムである校長経験者によるシンポジウム：「「学習者主体の学び」を支える校長のリーダーシップ」をレポートします。スピーカーは宮城教育大学教職大学院 菅原弘一 先生（元・仙台市立錦ケ丘小学校 校長）、東北工業大学 学修支援教授 佐々木克敬 先生（元・宮城県仙台第三高等学校 校長）、天童市立干布小学校校長 多勢弘子 先生の3人、コーディネーターは東北学院大学 文学部教育学科 教授 稲垣忠 先生でした。
最初に稲垣先生から、2つの問いがテーマとして会場の参加者の皆さんに投げかけられました。
- 「学習者主体の学び」とは？
- 主体的な学習者になるための子どもの視点、教師の関わり方、教師の授業感を生む管理職の役割
この2つの問いについて、3人の先生方が行ったプレゼンテーションのポイントを共有したいと思います。
「学習者主体の学び」とは？
1つめのテーマ「学習者主体の学びとは？」について、天童市立干布小学校校長 多勢先生が行ったプレゼンテーションのポイントと稲垣先生からのコメントをまとめます。
- 「主体」とは、物事の中心になっていること。だから、学習者が自分の意思をもって行動してこそ、学習者主体となる。
- 一斉授業の場面で、先生の話を聴いて、板書を見て書く。これだけでは子どもたちが学習者の自覚や意思を持っているとは言えない。
- 黒板の内容を写すのに必死で、「もっとじっくり考えたい」「わかるまで問題を解きたい」と感じている子どももいる。板書を写すよりもタブレットで撮った方が覚えやすい、という子どももいる。
- 自覚や意思を尊重しない授業では、学習者主体の授業とは言えない。そのために、子どもが自分で考える時間や場所を用意するのが大事。
- 6年生の算数で度数分布表を学習する授業で、以上と未満でつまずいている子が4年生の範囲をExcelで作成した数値を変えられるドリルをプリントして、整理整頓が苦手、先生のそばが安心と広いスペースで学習していた。その子は「プリント4枚やったらやっとわかった」と言っていた。
- これが、自分で考える時間と方法、場所を整えたことで、自覚や意思を伴った学びができたということ。
- 子どもたち一人ひとり、能力は違う。自分で決められる環境が大事。自分で決めた目標に向かって、「やるぞ」と覚悟を決めて、自分自身のエンジンをかける姿。それが学習者主体の学びには欠かせないものであって、本質だ。
- 学習者主体の学びには、自分の頭で考える時間と方法と場所が必要。
- 稲垣先生からのコメント
- 学習者の自覚と意思、というキーワード。自分で選ぶ、自分で決める、という場面がないといけない、ということ。
続いて、宮城教育大学教職大学院 菅原先生が行ったプレゼンテーションのポイントと稲垣先生からのコメントをまとめます。
- 学習者主体の学びについては、「GIGAスクールのクラウド活用」「自己調整学習」「自由進度学習」「授業の複線化」「白紙共有」「他者参照」「途中参照」という言葉がブームかなと思っている。
- 学習者主体の学びにチャレンジしている学校は多いけれど、「その過程で先生は教えちゃいけないんですかね？」と質問されることがある。もちろん教えてはいけないということはない。
- 「先生は教えちゃいけないんですかね？」と質問されることを考えると、「学習者主体」と言う前に、「学び」というものをどう捉えるか、だと思う。
- 「学ぶ」と「習う・教わる」、どちらが主体的だと考えるか？
- 「学ぶ」とはそもそもどういうことなのか、人によって捉え方が違う。
- 光村図書と一緒に、「学び」というものをどう捉えるかを考えるサイト「学びをまなぶ」を構築中。そこでも「学ぶ」と「習う・教わる」ということについても解説している。
- 「学ぶ」の方が具体的な学習内容が決められていないときに使われることが多い。自分で行動していくことが多い？主体的な感じがする。「習う・教わる」は、学習内容が決められている？
- なぜ、「習う・教わる」は主体的でない、と言えるのか？自分自身の意思で、「これができるようになりたい」とか、「これはどうしてなんだろう？」と思って習ったり、問いを持って習ったり教わるのであれば、それも主体的なのではないか？
- 単純に何が主体的かと言い難いところもある。
- 学び方は多様だということを前提に、前任校の仙台市立錦ケ丘小学校では、学校としての方向性を見出したいと意識していた。
- そもそも大事なのは、子どもたちのなかに、「知りたい」とか「学びたい」とか、「自分にとって学ぶことが大切だ」という学習動機がちゃんと形成されていること。それがあれば授業の中だけでなく、学校外でも継続して学び続けるし、知的に楽しく、探究的に学ぶこともできる。「こうしたい」という意思があって学んでいく状態ができる。それが主体的に学ぶ、ということだと思う。
- 稲垣先生からのコメント
- 最後に学校外の話も出てきましたが、主体的な学びを授業の方法論みたいに狭めて捉えている学校も少なくない。「学び」とはそもそも多様なもので、主体的な学びかどうかを決めるのは、学習者の意思であり、それは授業の中だけではない、学校の外での子どもたちの学んでいる姿だ。
最後に、東北工業大学 学修支援教授 佐々木先生が行ったプレゼンテーションのポイントと稲垣先生からのコメントをまとめます。
- 最近の高校の実情から。すでに大学受験の半分は推薦、あるいは総合型選抜。
- いろいろな新しい入試形態が出てきているし、入試問題が変わってきている。日常の生活をもとにした問題や、学習過程として教室を場面設定した問題などが出題されている。
- 高校生に求められている力はどんなもの？
- 以前は、勉強ができる生徒、部活動で頑張ってきた生徒、という感じだったが、「コンピテンシー」が求められるように変わってきている。
- OECD調査結果は「日本の高校生は規律を守って、人の話をよく聞くけど、自分から進んで課題を発見したりとか行動する力が足りないよね」と。そこで「主体性」。
- 「これまでプラスと思われてきたこと」と「これからのプラス」をまとめてみた。「プラス」とされる評価が変わってきている。
- 学習の進め方
- 教員や保護者の計画に従って学習できる
→自分で計画を立てて学習を進められる- 授業の様子
- 教員の指示に従い、ハンドアウトや問題・実習をこなす
→個人およびグループで問題を解いたり、課題を解決する- 学習の成果
- 教員作成のテストで合格点をとる
→自らの学習の成果をみんなの前で発表し振り返る- 学習の記録
- 板書された事項をきれいに書き写す
→自分のまとめや考察を書き込む。ICTを活用し学習記録を蓄積する- 家庭学習
- 漢字、英単語、数学演習などドリル的な学習に取り組む
→自分で問題や課題を考えて、それらを解決する学習に取り組む
- 学習者主体の学びとは、学ぶことに興味関心をもって、自分のキャリアの方向性と関連づけながら、責任と見通しをもって多面的に取り組む力だろう。
- 稲垣先生のコメント
- 大学入試が、学力から資質・能力（コンピテンシー）の育成へ価値観が変容してきている。コンピテンシーを発揮している姿というのは、主体性を持っていないと見えてこない。主体性を発揮している姿を見とるときには、基本的にはコンピテンシーの何が育っているのかを見る必要がある。それによって入試が変わってくる、授業の形も変わってくる。
主体的な学習者になるための子どもの視点、教師の関わり方、教師の授業観を生む管理職の役割
2つめのテーマ「主体的な学習者になるための子どもの視点、教師の関わり方、教師の授業観を生む管理職の役割」について、東北工業大学 学修支援教授 佐々木先生が行ったプレゼンテーションのポイントをまとめます。
- 小学校から社会人までの連続性を意識していかないといけない。キーとなるのは探究的な学び。
- 「教育」から「学習」への移行
- 認知能力 ／ 非認知能力
- 教員コンテンツ ／ 生徒
- ティーチング ／ コーチング・ファシリテート
- 仕事・大学 ／ 経験の延長
- 最終目標は就職や大学入学だったのが、それは経験の延長になっている
- 18歳時点の進路実現 ／ 将来にわたるWell-being
- 新しい学習の姿を「学習者の視点、教員の視点」で整理する
- 学習者の視点
- 学ぶことに興味関心をもつ
- 自己のキャリア形成に関連づける
- 見通しをもつ
- 学習過程に自己責任を負う
- 粘り強く取り組む
- 自己の学習活動をふりかえる
- 新たな課題を自分で設定する
- 教員の視点
- 過去の学習と他教科の学習を関連づける
- 具体的事象を教材として使う
- 興味ある学習課題を設定する
- 学習者自身に目標・目的を把握させる
- 課題解決の見通しを立てさせる
- 思考を見守る
- 思考に即した授業展開を行う
- 学習者の解答から授業を構成する
- PBL型の学習が再注目されている。学校にどう組み込んでいくか。
- Problem-Based Learning（課題解決型学習・問題解決型学習）
- 具体的事例（シナリオ）に対して、その解決に必要な知識を小グループで自立的に学習していく。
- Project-Based Learning（プロジェクト型学習）
- 一定の目標を達成するためにチームで取り組む過程を通じて知識習得・応用・体験学習を行う。
- PBLの究極の目的とは、「学び方を学ぶ（learn how to learn）」こと。
- 知識習得・定着、応用力の向上
- ソーシャルスキルの向上
- 学習意欲の向上
- 集団活動（協働）スキルの向上
- 高校ではICTをどう使うか。
- ICTを使うことが個別最適化というところで、内向きになっているのではないか。
- 学校でICTを使ってドリルをするのではなくて、発信したり調べたり、他の学校や社会と繋がる、というふうに外向きに使うべきだと思っている。
- ICTを用いたインタラクティブな学習を
- 高校では他者との相対化が効果的。
- 生徒も教員も、発展的なアクティブラーニングが可能になる。
- 高校生や保護者はSNSを通して、隣の学校では何をやっているのか、他の県で何をやっているのか、というのを知っている。校内で禁止してもどのような学びが他では行われているのか，比較している時代だと思う。
- 児童生徒、教職員、管理職、行政等の視点
- 【児童生徒】自分ごとの学びというのが大切。
- 【教職員】教職員自ら思考する、成長するという力が大切。授業改善、教育改善という意識に繋がってくる。
- 【管理職】「学習する学校」「学習する組織」教員が成長すれば、子どもたちもそれにともなって成長するだろう。チーム全体で教育を深めに行く。
- 【行政】教育行政のあり方が、学校の縛りになってきていないか？挑戦への見守りとか応援をやってほしいと思う。何のために学校を応援するのかということを考えてもらえれば、学校や先生が勉強・学習しやすくなる。
続いて、宮城教育大学教職大学院 菅原先生が行ったプレゼンテーションのポイントをまとめます。
- 山形市立金井中学校の取り組み
- 生徒会の子どもたちが「こんな授業はいやだ」ということを整理した図を見ると、子どもたちなりに一斉指導、一斉授業じゃなくて、自分で自分のわかりかたをしたい、ということを思っていることがよくわかる。
→生徒の声に耳を傾ければ、「生徒主体に」という授業改善の方向性が見えてくる。- 「ICTで授業を変えます」ではなくて、「どんな生徒に育てていきたいか」が大事。
- 「どんな生徒に育てていきたいか」がはっきりして、道具（ICT）の使い方がわかれば、授業はあっという間に変わっていった。
- 金井中学校では、4月に研修をした後、9月にはどの教科の先生も生徒主体を意識してクラウドを活用した授業を展開している。
- 社会科では、相互参照をしながら一人ひとりが課題解決にあたっている。
- 国語の先生もICTは不得意だったが、意見文の推敲を重ねていた。相互参照しながら進めるのが効果的だということで取り組む。
- 英語では、スピーチを録画している。
- 数学では、自分のペースで学ぶというのをどんどん進めている。
- 主体的な学びのふりかえりを意識していて、半年くらいでどんどん先生方が進められるようになった。
- 形だけ生徒に時間を委ねて自己調整しなさい、というのではない。根底にある、メタ認知、学習方略、動機づけという自己調整を支える要件を大事にしている。こういうのは1単位時間の授業でなんとかするものではなく、学校教育全体を通してやっていくもの。これを大事にして授業を進めていこうね、というのは管理職の先生がリードしていく必要がある。
- 岩沼市立岩沼南小学校の取り組み
- 子どもが主体的に学ぶ授業づくりのために、学校全体の取り組みとして3つの視点を明確化し、徹底している。
- 【視点1】各教科等の「見方・考え方」を働かせた動機づけ
- 【視点2】さまざまな学習方略を駆使した問題・課題解決
- 【視点3】自他の学びをメタ認知させるふりかえり
- 大衡村立大衡小学校・大衡中学校の取り組み
- 先進事例のビデオを見て、自分たちのこれまでの取り組みの中で「自信がもてるところ」と「課題になる部分」をふりかえる研修を実施した。先生方のなかでも、「今までは先生主体だったな」「もっと大胆に生徒に委ねる授業をやってみたいな」という声があがってくる。
- そうしたふりかえりが出たら、校長先生が「そういう授業にチャレンジしてみるのがいいね」と言い、指導主事の先生もそれをバックアップしてくれた。
- 多賀城市立多賀城第二中学校の取り組み
- 探究の場としてSTEAMラボを開設した。STEAMラボにある機器に目が行きがちだが、「自ら問いを見つけて探究することが大事なんだ」ということを校長先生が言っていた。校長先生のこうしたメッセージが学校全体の試みを支えてくれると思う。
最後に天童市立干布小学校校長の多勢先生が行ったプレゼンテーションのポイントをまとめます。
- 天童市立干布小学校での「小さい一歩を踏み出した事例」を紹介したい。
- 子どもは個別最適、自由進度学習を進めないといけないなと思うが、一気にではなく徐々に変えていく。
- 天童市内には、自由進度学習でよく取り上げられる天童中部小学校があり、刺激を受けるが、「やらなきゃね！」と職員に無理にプッシュすることはしない。
- 先生方は手一杯だけどがんばっている。大規模校に比べると単学級がゆえにチームは組めないし、校務分掌の負担も多い。無理を押しつけるのではなくて、授業改善の必要性を共有して、効果を実感してもらう。
- 放課後の時間やすきま時間に相談をして、徐々に変えていく作戦をしている。
- 学校のビジョンを共有して進める
- 困り感の聞き取り
- 授業改善の必要性と有効性を共有（職員会議）
- すきま時間で個別相談
- 週打ち合わせで成功事例を紹介
- バラバラだった漢字学習ドリルの進め方を統一した
- 教員不足がいちばんの困りごとで、サポートする余裕がない。また、代替教員によって教え方が変わるので子どもたちが混乱する。
- 「せめて、漢字ドリルの進め方だけでも統一して子どもたちが自分で学べるようにしよう」というところだけを共有している。
- 進め方を説明した後は、子どもたちが自分で学習できるように漢字学習のスタンダードを作った。それから、子どもたちに委ねていった。
- 先生方の挑戦を後押しする。
- 体育の授業でのお手本動画、理科の自作実験動画、算数の自由進度学習、体育での自由進度学習、作文指導など。
- 子どもの成長の姿を見ることは、教員の成長に繋がる。
- 子どもたちは自分に合った方法で学び始めてきた。全員に同じ方法ではなくて、一人ひとりにあった学び方を考えていかなければならない。
- そうして動いていたはずなのに、年度始めとか教員が入れ替わったりすると、一斉授業に戻ってしまう。教員も、子どもたちも。
- 新しいチャレンジで学びが変わっている様子を写真を撮って、毎週の打ち合わせや職員会議で教員に共有している。少しずつではあっても前進している姿を示し続けることが大事。
このセミナーでは、参加者がシンポジウムを聴きながらコメントや質問をPadletに書き込めるようになっていました。シンポジウムの最後で、Padletに書き込まれた内容に登壇している4人の先生方がコメントをしていきました。
プレゼンテーションのなかで、たくさんのトピックが語られていたので、それについてのコメントや質問を参加者全員で共有する場があることは、学びを深めることに繋がると思います。
稲垣先生が「主体的な学びについて考えるためにここに来ている先生方が、話を聴いて終わりではなく、Padletに考えたことを書き込むことで主体的に参加しましょう」とコメントをしていたとおりのシンポジウムになったと思います。
No.2に続きます。
blog.ict-in-education.jp
（為田）
