4月21日、国際大学GLOCOM公開コロキウム「子ども1人1台ICT利用のスウェーデン先進事例に学ぶ」に参加してきました。国際大学GLOCOM主幹研究員の豊福先生が司会進行で、スウェーデン・ソレントゥナ市から日本へ視察に来られている4名の方がスピーカーでした(2名がソレントゥナ市教育事務所から、2名がソレントゥナの学校の校長先生とのこと)。
日本でもOne to Oneのタブレット導入を進めている学校や自治体が増えてきましたが、実際、どのように進めていくのかを悩んでいる学校も多く、僕がコンサルをしている学校や教育委員会、学習塾などでも、実は「どんなふうに使うか」のゴールイメージ作りを手伝っているということも多いので、日本の教育の情報化についてのヒントが多く聞けるのではないかと思って参加しました。
最初に豊福先生が、「1人1台でどんな活用を!?と、スペシャルな事例を期待してしまうが、肩透かしを食らうかもしれない。普通のことをやっている。でも、それがスペシャルだと思う。」とおっしゃっていましたが、まさしくその通りだな、と感じるプレゼンテーションでした。勉強になりました。
以下、気になった点などをメモしておきたいと思います。ざざっとメモをとりましたので、意味の取り違いなどもありそうですが、もし何かありましたら、コメントいただきたいな、と思います。
ソレントゥナの教育についての紹介
- ソレントゥナ市は70000人の人口、生徒の数は9000人。
- 77%が公立、23%が私立。
- プレスクールは私立80%、公立20%。
- 2009年~2010年に、政治家がタブレットを1人1台持つということを決定。
- なぜそれが重要か?
- 民主主義を実現するために、学校で平等にICTの可能性を提供することが重要だ、と考えたから。
- それを実現するために、教育において結果を出していくことが重要だ。
- スウェーデン国内でのソレントゥナ市のランキングは、2009年18位、2013年6位、2014年4位、と上がっていく。ICTの導入によるもの?
- ソレントゥナの掲げている目標
- スウェーデン国内でのトップをとる。
- カリキュラムにおいて、すべての生徒が合格点をとること。
- すべての生徒たちが学びにおいて、安心と安全を感じられるような環境づくり。
- 協力から何が学べるだろうか?
- 校長先生はお互いに情報交換をしている。
- 4つのレベルで協力をしている。
- 市の政治家、教育省、校長先生、教員たち
- 上から方針が降りてくるのではない、という形。
- 変化がもう起こっている。From Visible Learning to Challenging Learning
- JOHN HATTIE「VISIBLE LEARNING FOR TEACHERS」に学んでいる。(JOHN HATTIEは、オーストラリアの教育学者)
- どんな組織か?
- 良い例をシェアする
- 新しいアイデアを入れていく。その際には、それを研究している人たちと協力する。
- 先生方も、毎週、毎日、学んでいかなければなりません。
- 方法論的に向上していくことはもちろん、教員研修も質の高いものを。
- ICTの導入は、教育手法と組み合わせて。
- It is OK to fail!
ソレントゥナでの導入、Write to Learn
- ガートナーのHype Cycle(Wikipedia 図もあるよ)
- 5段階の指標
- Technology Trigger
- Peak of inflated expectations
- Trough of disillusionment
- slope of enlightenment
- plateau of productivity
- ソレントゥナでの実例、同じようにこのサイクルに入った。
- 政治家から校長先生まで、政治目標を共有していた。
- 2015年の段階である程度のレベルまで到達した。
- 「学校をデジタル化すべきか」というのはすでに問題ではない。問題は「どうやってすべての先生方に効果的にテクノロジーを使ってもらうか」
- スウェーデンの先生の20%は、ICTは教育の邪魔だと思っていた。
- 30%の先生だけが、ICTを活用することに好意的だった。
- 生徒にフィードバックをしたり、評価をしたりするために使う先生は少数派で、ほとんどの先生はインターネットなどで調べ学習をしたりする程度だった。
- 60-85%の生徒は、積極的にICTを活用していない先生に教わっていた、ということ。
- Write to Learn(以下、WTLと表記)
- 明確なサイクルを。
- サイクルのトップに、目標を明記する。
- 教える段階の前に、「これは楽しいことだよ」ということを生徒に伝える。
- 誰に向かって、何を書くのか、どういうことを書くのか、ということを徐々にやっていく(7歳のときに)
- 実際に書くときには、2人ペアで行う。最初は口頭で行うが、徐々にGoogle Driveを使っていく。1年生の段階から、GoogleのIDをもたせている。
- 書き上がったものをGoogleサイト(ホームページ)にアップロードする。そうすることで、先生だけが読んで評価していたのが、どんどん読み評価する人が増えていく。これが結果を残せたキーポイントだと思う。
- 先生が読んで評価をしていく。
- Googleサイトを通じて、お互いにフォーマティブなフィードバックをする。クラスメイト間でもコメントを付け合う。
- 文章を書くのが苦手な子は、何度も何度もフィードバックをもらって、スキルを高めていく。
- 先生たちの研修も同じように実施されている。
- 1年間にわたる研修。1ヶ月に1回、講義で今のモデルについて学習する。
- WTLを実際の教室現場で試す。
- Googleサイトで分析をする。
- チューター、メンターとして先生方が研修の場に集う、という形をとっている。
- すでに5年間実施をし、200人の先生がこのモデルを理解し、その背後に5000人の生徒が学習できるという状態になっている。
- すぐにできるようになるというモデルではない。時間がかかるモデルではある。
生徒が受ける授業である、Write to Learn(WTL)と同じように先生たちの研修も実施されている、しかも年間という長期で実施されているのはすばらしいと思います。すぐにできるようになるというモデルではないというのはたしかで、これをハイプ・サイクルでの一度の落ち込みを経て、それでも研修を続けて、授業にきちんと導入した、というその継続性がすばらしいと思います。
そもそも、スタートは政治的な決定からだった、というのであれば状況は日本に似ているのかな、と。リーダーシップ(と責任をとる覚悟)をもって、誰が進めていくのか、ということだと思うし、「どう評価するのか」を明確にしてその評価に見合う結果を出し続けることしかないのかな、と思いました。
WTLのリサーチについても結果を紹介してくださいました。
- リサーチ
- 1年生90人がこの学習をした。
- 有意な差が見られた。
- 読む速度がやや速い
- 文章は長いものを書くようになったし、文法的にも正しいものを書くことができた
- 書くことにおいて自信が持てるようになった
- 自信をもった子どもは、算数においてもいい結果を徐々に示すようになってきている
- どうしてだと思っていますか?
- フォローアップ研究
- WTLモデルの調査結果について
- ICTをどう使えるのかを理解した上で、導入することで、結果が出るといえる。
WTLで学んだ生徒が国語(スウェーデン語)と算数のどちらでも高いスコアを出しています。国語はWTLでの「みんなで協働して書く」などが効果を上げているのかな、と思います。そして、国語ができるようになってくると自信が出てきて、他の教科にも好影響が波及する、というのは現場感覚的にも納得がいくところです。何をスタート地点というかトリガーにして全体を上げていくか、というのは先生方はみな考えていらっしゃることなので、こうしたデータが出ると、教育委員会などに見せて反応を見たくなります。
一方で、「伝統的な方法で教える」よりも「ITU(Individual Technology use)、個人でテクノロジーを使って学ぶ」方がスコアが低かった、というのが比較で出ていたのが素晴らしいな、と。プレゼンの中で、「ITUの手法を採った先生は、ICTをどう使えばいいのかがわからなかった先生」ということで、この形がもっともスコアが低い、となると、やはり「どう導入するか」ということをもっともっと真剣に考えねばならない、ということでしょう。
絶対、導入研修をもっと動機づけ研修に重きを置いてやるべきだと僕は思います。「どんなふうに教室が変わるのか」というイメージを持たずに、新しいテクノロジーや教育手法をいくら伝えても、やはり効果は上がらないと思うのです。先生方に努力をしてもらうのならば、それによって「教室がこんなふうに変わります」という実利に紐付けて、「おもしろそうじゃないか!(意外と…)」くらいに思ってもらって、使ってもらうことがスタート地点になるべきだな、と改めて思いました。
ちょうど、来月の教員研修を設計しているところなので、バックボーンをもらえた感じです。要素として取り入れようと思います。
(追記)このリサーチ結果が公開されていたので、リンク貼ります。
Improving literacy skills through learning reading by writing: The iWTR method presented and tested - ScienceDirect
学校での導入事例
2人の校長先生は、それぞれの学校でどのようにICTを使っているのかを紹介してくれました。
- デジタルを使って、どう教育を改善していったのか。
- 段階的にICTを導入
- 生徒たちにきちんと教えていくのと同時に、先生の方も「どう教えるのか」「どう使うのか」を学んでいった。
- 継続的に先生のトレーニングは実施する。教育学的にどのようにするのが有効なのか、というのを先生たちが話し合っている。経験を共有して、どういうふうにすればこれまでの教育を改善できるのか、ということを話し合っている。
- OK to fail = there is nothing like failure - either you succeed or ou learn something new.
- 現段階ではデジタルツールの利用は、教育の中で自然に行なわれていること。
- シェアリングの文化が、先生の間でも生徒の間でも、非常に強く存在している。
- 各クラスが独自にブログを持っている。
- 高学年になると、科目ごとに先生が違うので、科目ごとにブログが存在する。
- ブログは、生徒がメインだが、保護者の方も見ることができる。
- ブログによって反転授業的なこともできる。
- 授業で使えるサイトにリンクを貼ってあったりもする。
- Google Driveを使ったフィードバック
- 複数の先生が協働してフィードバックをしている
- Movenoteを使ってコメントをつける
Movenote iOS App Tutorial - YouTube
https://itunes.apple.com/jp/app/movenote/id535115011?mt=8&uo=4&at=1l3vvB7
最初にも出てきた、「OK to fail」という部分は非常にいいな、と思いました。本当に、日本ではみんなICTを導入して100点満点を狙い過ぎだと思っているので、多少失敗しても、今の70点より5点あがるとか10点あがるとか、そこを目指してどんどん進んでいけばいいと思うのです。
また、Google Driveを使ったフィードバックなどは、広尾学園で実践されていることに近いのかな、と僕は思いました。目的を明確にして、それを学習活動ときちんとリンクさせ、先生方にもその方向性を共有してもらう。オーソドックスだけど、あまり簡単でない、この方向しかないよなあ、と思いました。
ict-in-education.hatenablog.com
その他、プログラミングのことにも触れられました。
- プログラミング
- これまでもっていたプログラミングへの考え方を、まったく変えざるを得ないと思った。
- 子どもたちはプログラミングなんてわからないだろう、と思っていた。
- いまは、生徒たちはクリエイティブだということがわかった。
- デジタルの技術は手段である、と思う。
- デジタルコンシューマーから、クリエイティブイノベーターへ。
それと、年間のなかで、自分がどんなふうに学ぶのか、というのをしっかりプランを書き、それを元に学校で面談をする、という話も。
- 生徒が、自分がどう発達していくのか、ということにコミットしていくことが大事。
- 4年前のBefore
- The 1:1 idea
- プラットフォームとしてGoogle Apps
- Individual development Plan(IUP)をデジタルフォームで。
- 年間の進め方
- 8月にスタートし、プランを書き、それを元に学校で面談などの機会を持つ。
- プランをもとに、どれくらいまで到達したか、ということを自分で説明する。
- 12月になると、どれくらいプランが進んだのかというのを評価する。
- 1月からまた新しいプランを書く。
- Grade2とGrade5のプラン
- すべての科目について、何が得意か、何をしなければならないか、好きなこと…などを答える。
- 保護者の意見
- 70%の保護者は、アンケートでポジティブ。
- 30%の保護者は、日中に面談に行かなければならないことに対してネガティブ。子どもたちがどんなふうに目標に到達したのか、ということを話してもらえなかったことについて不満だった、と答えた。
上松先生(武蔵野学院大学)によるディスカッション
- 子どもたちが勉強しているときに、どのように自分が評価されているのか、何のための活動なのか、目標は何なのか、というアセスメントの全容をすべて理解させた上で活動させる、というのが重要なことだと思った。
- 日常的にICTを使っているというのが素晴らしいな、というのが印象です。
- ICT導入に否定的な先生が多いと思うが、どういうふうに日常的に使うようにさせてきたのか?
- 先生方も、生徒たちも、ディスカッションが非常に活発な印象がある。
- 先生たちがきちんと話をしていく、というように、先生方を教育しています。
- 生徒たちが書いたことなどがオープンになることについては、コンセンサスをとっていかなければならないのか?
- 当然、コンセンサスをとらなければならないです。
- 「消費者としてだけ生きる、というのではなくて、こちらからどう使っていくのか」ということを、保護者に伝えている。
子どもたちは、デジタル社会で生きていかなければならないので、それに合わせての振る舞いなどを身につけなければならない、ということだろうなあ。実際、クラウドに何かを表現する、というのは仕事をしたりとかするなかで、どんどん増えていくし、SNSに何かをアップするときに発生する責任なども、ここで教えられるのであれば、リアルだと思うのです。
豊福先生によるまとめ
- 日本の教育情報化については、ある程度型があると思っている。
- 今日は、コンテンツの話も、ICT支援員の話も出てこなかった。情報モラルの話も、ちょこちょこしか出てきていない。
- これに気づくのに、2回訪問しなければならなかった。
- 日本でどう教育情報化を進めるかを考えている。脱教具論というのも進めている。Facebookでグループページあります。
「コンテンツの話も、ICT支援員の話も出てこなかった」というのは、たしかにそうだったなあ、と思いました。もっと本質的な、「どう教えるか」というところが常に話題の中心だったな、と。このあたり、日本の「教育の情報化」の議論とはまだけっこう距離があるのかな、と感じました。
もっともっと、学校に行って授業を見て、先生方とお話をして。教育委員会に行って教育長や指導主事の皆さんとお話をして。そうしたことを積み重ねていくことが大事だな、と思いました。
豊福先生、とても学び多い機会を本当にどうもありがとうございました。
(研究員・為田)