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書籍ご紹介:『夢中になる東大世界史 15の良問に学ぶ世界の成り立ち』

 福村国春さんの『夢中になる東大世界史 15の良問に学ぶ世界の成り立ち』を読みました。福村さんは、東京都内で歴史専門の大学受験塾「史塾」を設立し、私立高校の学生を中心に指導を行っているそうです。

 この本では、東大受験の世界史の問題15問をどのように解いていくのかを読んでいけるようになっています。そのコンセプトが、「はじめに」で書かれていました。

サッカーの世界でいえば、メッシやクリスチアーノ・ロナウドはすごい、だから彼らのスーパープレー集を見て皆でわいわい盛り上がろうというわけだ。スーパープレー集を見れば、きっと彼らのすごさがわかるだろうし、サッカーの勉強にもなるだろう。本書はそういった試みである。
著者は、都内で歴史を専門とする塾を運営している。夏休みや冬休みになれば「東大論述講習」なるものを開講して学生たちを指導することになる。生徒らはわずか17歳であるが、その閃きともいえる頭脳には舌を巻くばかりだ。東大の「問題」もすごいのだが、それにもまして、解ききる学生の「頭脳」がすごいのだ。本当に日本の未来に期待してしまうほどで、そのすごさを教室に閉じ込めておくことなく、ぜひ皆さんにも知ってもらいたいのである。
本書は、実際に問題を解いている生徒の頭の動きを描写するという形式をとった。生徒があることに気づく瞬間、壁を崩して前に進む瞬間、それこそが東大生(卒)の頭脳が閃光を放つ時である。推理小説の感覚で読み、一緒に考え、閃く瞬間を体感していただきたい。(p.4-5)

 1問目を解説している章では、東大世界史の問題がどんなことを目指しているのか、この本での講師役・宮下先生が生徒たちに伝えています。

東大の問題は、暗記した知識を求めるだけではない。むしろ、暗記した知識をもとにして「新しいこと」に気づかせようとする。学生たちは、試験会場で歴史の新しい景色を見ることになるのだ。
講師である宮下はプリントを配る前、生徒たちに向かって東大の問題について話し始めた。「東大の問題は常に『国家』を主題にしています。どのように国家が誕生して、国家と国家が関係を結ぶ社会、すなわち国際社会が形成され、そしてその社会がどのような問題に直面し、どのように問題の解決にあたったのか、常に東大はそういった視点で問いを立てます」
これは東大がもともと官僚養成学校であったことが大きいのかもしれない。(p.16)

 収録されている15問、すべて史料を読み、構想を立て、構想をもとにして論述していく、というふうになっています。特に「構想を立て」るところは、シンキングツールの使い方と同じように、非常に勉強になるなと感じました。
 東大世界史を受験するときだけでなく、もっと初歩的な問題でも、世界史以外の教科でも、こうしてもっている知識を使って「新しいことに気づき」、「構想を立て」て「論述する」という過程を組み込んだ課題設定をしてみたいな、と感じました。

◆ ◆ ◆

 また、「おわりに」で、福村さんが、最近の生徒たちが変わったと思うことを3点、紹介してくれていたので、それもまとめていきたいと思います。(p.299-302)

  1. 「世界」に対する経験の多さや意識の強さ
    • だから、生徒が「世界史」に期待するものが変わっている。
    • 学生たちに多くの扉を開かせてやるならば、大人も大きく変わっていかなければならない。
  2. 「現在」に対する意識の強さ
    • 情報が手に入りやすくなったことが要因か、歴史が現在の何につながっているのか、それが現在の何につながっているのか、それが現在の何に役立つのか、がないと満足しなくなってきている。
  3. 「発信」に対する意識の強さ
    • 「実践」に対する意識と言い換えてもいい。
    • 生徒たちは、時代の変化をいち早く吸収していて、従来のように知識を詰め込むだけの勉強を拒否し始めている。
    • 世界と対峙したときに、知識だけでは通用しないことを理解している。

 生徒たちがどんなふうにアップデートしているのかを感じさせてくれる箇所でした。大人もアップデートしなくてはいけないな、と思わされます。

(為田)