教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『嫌いな教科を好きになる方法、教えてください!』

 河出書房新社 編『嫌いな教科を好きになる方法、教えてください!』を読みました。「14歳の世渡り術」というシリーズの1冊で、国語、数学、理科、社会、英語、実技のそれぞれに、各界で活躍する豪華執筆陣が文章を寄せている形式の本です。いずれの原稿も楽しく読んだのですが、なかでもICTに関わりがあったところをメモとして共有します。

学ぶ前に「好き」になって、アウトプットする

 社会は、公立高校教師YouTuber 山﨑圭一 先生が、『鬼滅の刃』や『るろうに剣心』、『キングダム』などを例に挙げて、そこを入り口に歴史を好きになってほしい、と書かれていました。

ぜひ、歴史をテーマにしたたくさんの作品に触れ、学ぶ前に「好き」になってください。そして、その「好き」を人にアウトプットしてみてください。私も、ゲームやマンガから歴史に興味を持ち、その「好き」を持ち続けたまま、歴史を一生の仕事にしています。一人でも多く、歴史や文化を一緒に楽しむ「仲間」を作ってほしいと思います。(p.88-89)

 僕も実は社会が好きだった入り口は、光栄のゲーム「信長の野望 全国版」でした。そこから、同じく光栄のゲーム「三国志」へ行き、横山光輝の『三国志』を図書館で借りまくり、そこから歴史小説へ行くと文章を読むのが好きになったのでした。
 こないだ高知県へ行ったときに、土佐中村の地名を標識で見てすぐに、「一条氏の拠点でしたよね」とご一緒していた先生に言うと、「よく知ってますね!」「信長の野望で長宗我部でプレイすると、最初に暗殺してました」と答えると、「わかります」と大いに話が盛り上がりました。何がどうその後に繋がるかはわからないので、山﨑先生のこの話はすごく納得感があります。
 さらに、「好き」をアウトプットしてみてください、というのは山﨑先生が運営されているYouTubeチャンネル「Historia Mundi」がまさにそうなのかな、と思っています。
www.youtube.com

今この瞬間の自分に必要な英語を話せたことの良さ

 英語では、アーティストの新井リオさんが、学生時代にバンドでカナダ公演へ行くときにした英語学習法を紹介していました。

日本にいながら、今あるツールを使い、低予算でできる独自の方法を思いつきます。
まず、LINEに自分一人のトークグループを作り、「自分が言いそうな英語のセリフ」を片っ端から書き出してオリジナル単語帳のようなスレッドを作ります。このとき、英文の添削は、格安(月額6000円程度)でできるオンライン英会話の先生に依頼しました。その後、英語設定に変えたスマホに「Hey Siri, ~~」とそのフレーズを話しかけ、発音が正しく画面に表示されるかを見ます。うまく発音できない単語はYouTubeの解説動画などを見て、またSiriに話しかけて…を繰り返し、自分で矯正していきました。みなさんも持っているであろうスマホだけでも、こんなに勉強が捗るんです。この頃には、勉強法さえ自分で作ってよかったんだという喜びが私の体内に溢れていました。(p.154-155)

 スマホに英語を聞き取ってもらう練習方法は、とても良いと思っています。何より、あまり上手でない英語でもなるべく聴き取ってくれるのでモチベーションが上がります。それに、先生が評価をするわけではないので、先生が「もう一回、ちょっとつなげて言ってみようよ」というふうに支援をする立場に徹する事ができるのもいいと思います。
 こうして勉強した結果でカナダ公演を成功させて、英語でのコミュニケーションもできて、新井さんはこう言っています。

ペラペラでなくとも、今この瞬間の自分に必要な英語がある程度話せていたら、その場における「英語が話せる人」にはなれるのだという発見を得ました。(p.155)

 「この瞬間の自分に必要な英語がある程度話せて」いる体験というのは、英語への向き合い方をすごく変えてくれると思います。僕自身も、英語で仕事に関するコミュニケーションをするときに、ときどきこうした感覚はあります。もしかしたら、好きなアーティストについてとか、ゲームについてとか、同じスポーツに取り組んでいるとか、そうした限定されたフィールドで英語のコミュニケーションの場を作れば、英語が嫌いじゃなくなる子もいるのかな、と思いました。

自分がアガるためのテクノロジー

 最後に、実技教科から、技術は、電子工作ユニット ギャル電のきょうこさんが「自分がアガるためのテクノロジー」 を書いています。プログラミング教育について考えさせられる、とてもいい文章でした。

うまく作れなくても、最初はちょっと間違ってても自分のために自分が思ったようにテクノロジーを使えるようになるってことは最高に面白い!(p.207)

 ここで書かれている、「自分のために自分が思ったようにテクノロジーを使えるようになる」というのはなかなか学校のプログラミングの授業では実現できていないかもしれないな、と思いました。

あんまり自分の作りたいものとは違うものをとりま作ってみるっていうのは、経験値にはなるからあとからじわじわ役にたつことも多いんだけどモチベーション的には続けるのめっちゃつらい。
だから電子工作にかぎらず、ものづくり苦手だけどやりたいなって人は、まずは初心者にはちょっとハードル高いかなって思っても自分の興味あるジャンルの「これが作りたい!」ってものにチャレンジするのをおすすめする。

わたしが電子工作をはじめたときよりも今は「これが作りたい!」ってものを見つける方法がたくさんあって、YouTubeInstagramTikTokTwitterとかのSNSで「電子工作」って検索して出てきたものの中からこれが近いかなってイメージがあればその記事や投稿の中の作品のジャンルや使っている部品をメモって検索ワードに付け加えてさらに検索する。
それを繰り返すとだんだん自分の作りたいジャンルの情報の輪郭がはっきりしてくるから、その中から自分が面白そう、作りたい、やってみたいって思うものを探してみたらいいよ。(p.213-214)

 「これが作りたい!」っていうのを、心ゆくまでいろいろ作れる、学校がそんな場所であるようにできればな、と思いました。

まとめ

 ICTに関連したところを中心にメモを作成しましたが、他の教科についても執筆されている方々が素晴らしかったので、ぜひ読んでみるといいと思います。実際に嫌いな教科がある子がこの本を手に取るのはなかなか難しいかもしれないので、先生方がこの本を読んで授業の一工夫に加えたりするのが現実的かな、と思いました。

(為田)