2025年5月12日に神奈川県立上鶴間高等学校を訪問し、今枝契輔 先生が担当する3年生の世界史探究「第一次世界大戦とアジアのナショナリズムの展開」の授業を参観させていただきました。電子黒板に授業スライドを映して、今枝先生は授業をスタートします。プリントを配布して、この日の目標が「なぜ儒教が批判されたのか理解しよう」であることを書いてもらいます。
授業プリントはGoogleクラスルームにもアップされていて、スライドのノート部分には補足情報が書かれているので、生徒たちはそこを見て復習することができるようになっています。この日の前の授業では今枝先生の喉が不調で声が出なかったそうですが、Googleクラスルームにアップされていた解説スライドを使って生徒たちが自分で学ぶ形の授業を行ったそうです。解説スライドを作成しておくことによって、アクシデントの状況にも対応することができます。
今枝先生が最初に「民族自決って、どういう意味?」と質問すると、生徒たちから「自分たちの民族のことは自分たちで決めること」と答えが返ってきます。電子黒板に世界地図を映して、民族自決運動が世界各地で起きていたことを視覚的に見てもらって、そのまま東アジアでの民族自決運動へと話が展開していきます。
ホワイトボードに中国・朝鮮・日本の地図を映して、生徒に山東半島がどこにあるか書き込んでもらいます。こうしてさまざまな地図をデジタル教材として準備をしておくことで、すぐに切り替えて見せることができます。また、ホワイトボードに映すことで、先生も生徒たちも書き込むことができるので、授業の幅が広がると思います。
山東半島の場所を地図で確認した後で、ドイツがもっていた山東半島の利権を日本が継承することなどを求めた「二十一か条の要求」のことを説明したら、机を動かして、3~4人ずつで班になります。一人ずつ自分のタブレット端末でロイロノート・スクールを開いて、今枝先生から送られた画像の中にある3つのプラカードに何が書いてあるかを、班のメンバーで協力して解読する時間をとります。
最後にクラス全体で、「廃除不平等條約」「北京大学」「廃除二十一箇条」と書かれていることを確認して、北京大学の学生による五四運動のときのデモ行進の様子であることを紹介します。
この画像をみんなで見た後で、今枝先生は「北京大学の学生がこのような運動を起こしたのかを知るためには、中国社会に浸透した儒教を理解する必要があります」と伝えて、儒教についてのスライドを電子黒板に映しながら解説していきます。
ここで、今枝先生はロイロノート・スクールでワークシート「第一次世界大戦とアジアのナショナリズム ~儒教について理解を深めよう!~」を配布します。ワークシートにはQ1からQ3までの3つの問いが用意されていました。
Q1では、儒教を極めた郭巨という人物についての物語が資料として添付されていました。その物語は、「郭巨は、老母と妻、幼い子どもと暮らしている。貧しくてどうしても4人では生きていけないとき、誰を口減らしするのが正しいか?」というものでした。2分間で一人ひとりが資料を読み、その後で班でどう思ったかを伝え合う活動をしました。
班での話し合いが終わったら、それぞれの班でどう考えたかをクラスで共有します。生徒たちの意見でいちばん多かったのは「老母」でした。そのほかにも、「妻は他人だから」「子ども」というふうな意見が出てきました。
クラス全体の意見を聴いた後で、今枝先生は「儒教では長幼の序が明確なので、子どもを殺すことになります」と伝えます。郭巨の物語を読むことで、こうした意思決定の場面での儒教の大きな影響力と共に、いまの自分たちの価値観との隔たりを感じた生徒たちのリアクションがありました。こうして資料を用いながら価値観が揺さぶられる体験を疑似的にできるのは、歴史を学ぶ大きな意義だと思います。
このような儒教の徹底した考え方を紹介した後で、ワークシートのQ2へ進みます。Q2は「自分が中国皇帝だったら、儒教をどう政治に利用する?」という問いです。
最初に5分間、個人で考えてロイロノート・スクールの青いカードに自分の考えを書いてもらいます。その後で、班で共有した後の意見をピンクのカードに書いてもらいます。
赤とピンクのカードの隣には、儒教の教えとして「位無きを患えず、立つ所以を患う」「礼は和を以て貴しと為す」「少にして学べば、壮にして為すこと有り。壮にして学べば、老いて衰えず。老いて学べば、死して朽ちず。」「長幼の序」の4つの言葉とその解説が書かれた資料カードが置いてありました。生徒たちはこの資料も読みながら、どう儒教を政治に利用するかを考えてカードに書き込みます。
「自分が中国皇帝だったら、儒教をどう政治に利用する?」という問いに、なかなか回答が書けない生徒も多いように思いました。個人の考えを書く青いカードは、少し時間をとったら「まだ書けていない人はそれでもOKなので、提出箱に出して」と言って提出してもらって、クラスメイトがどんな感じに書いているのかを見て参考にできるようにしてもいいかもしれない、と思いました。
最後にクラス全体でどんなことを考えたのかを共有していきます。生徒たちは、資料にあった「儒教の教え」から、「“位無きを患えず、立つ所以を患う”というので、皇帝に正統性をつけられる」というふうに考えを発表していました。
今枝先生は、「こうした儒教の政治利用は中国ではずっと昔から行われてきたのが、20世紀になって、“なんか違うんじゃない?”と思う中国人が出てきたのです」と言って、ワークシートのQ3へ進みます。
Q3では、陳独秀が『新青年』の創刊号(1915年)に掲載した論文「謹告青年(つつしんで青年に告ぐ)」を資料として読んで、儒教を表している四字熟語を抜き出して、青年にどう生きるべきと説いているのかをまとめてもらうものでした。個人で5分間、読み解きをして、その後でロイロノート・スクールでカードに自分の考えを書き込みます。
最後に、クラス全体で資料の内容を読んでみて、儒教に対してどのような批判が出てきたのか、をまとめていきます。
ロイロノート・スクールで配布したワークシートには、たくさんの資料が添付してありました。生徒たちはその資料を自分で読み、考えたことをワークシートの中に書き込んでいくことができます。自分で資料を読み、自分の言葉で考えを書く活動に多くの時間があてられているのが印象的な授業でした。
No.2に続きます。
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(為田)