教育ICTリサーチ ブログ

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「平成25年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果 [速報値] (平成26年3月現在)」を読んで。

 文部科学省が、「平成25年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果 速報値 (平成26年3月現在)」を発表しました。数字の概要はニュースなどでも流れていますが、少し詳細に中身を見ていこうかと思います。

調査概要

 まず、この「平成25年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」の目的ですが、調査概要によると以下のようになっています。

文部科学省では、初等中等教育における教育の情報化の実態等を把握し、関連施策の推進を図るため、標記調査を実施しています(調査基準日:毎年3月1日)。

 「関連施策の推進」っていうのが何なのかがわからないんですけど…と思いますが、この目的にしたがって、調査項目が以下の2つの項目となっています。

  • 学校におけるICT環境の整備状況
  • 教員のICT活用指導力

 という点を全国の公立学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校)に対して訊いているものとなります。

 以下、文部科学省のサイトにて公開されているPDFファイルスクリーンショットを提示しながら、いくつかの点について考えてみたいと思います。

学校におけるICT環境の整備状況

 学校におけるICT環境の整備状況を示す数字をいくつか見ていきましょう。まずはコンピュータの整備台数から、「教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数」と「教員の校務用コンピュータ整備率」です。
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 学校におけるICT環境の整備状況の推移として、児童生徒が使う教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数が6.5人。平成25年3月の数値と変わっていません。それぞれの学校で「どのように使っているのか」がわからないので、正直この数字だけでは「十分だ/十分でない」という判断が出せません。

 一方、教員の校務用コンピュータ整備率は、111.1%となっています。1人1台は実現されているのか、という印象ですが、学校で先生方とお話している肌感覚からだと、この数字は大きすぎる気がしますね。
 整備率と言っても、先生方は仕事の特性上、職員室にいる時間は非常に限られていますし、どのくらい使っているのかという実情がわからなければ、この数字も判断できないと主います。校務に使うだけでなく、例えば、校舎内のどこでも児童生徒から質問を受けたときに解説できるようにデジタル教材にアクセスできる方が望ましいとか、いつでも児童生徒の学習進捗を細かく見られる方がいい、というよな目的に合わせるならば、コンピュータよりもタブレットの方が適していると考えることができます。そうすると、この校務コンピュータを教務にも使えるのかどうなのか、という運用の部分も気になりますし、そもそも機種としては何を選定しているのか、という部分を把握していなければならないと思います。


 次に、電子黒板と実物投影機の整備状況です。電子黒板は82,375台で昨年度よりも10,207台増加、実物投影機は159,938台で昨年度よりも18,540台増加となっています。
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 増加したのは喜ばしいですが、これも「実際にどのような使われ方がされているのか」ということと組み合わせて論じられなければ意味がありません。そもそも、数字としての電子黒板82,375台は、小学校21,460校+中学校10,699校+高校5,022校という全体の学校数37,181校に比べて少ない。単純に割り算をすると、1校あたり2台となります。
 電子黒板は小学校での利用が望ましいのか、中学校での利用が望ましいのか、高校での利用が望ましいのかということをきちんと現場で議論した上で、重点的にどの校種に配備しているのか、というのも知りたいところです。
 実物投影機も、電子黒板よりは多いですが、それでも全体の数字で割れば1校あたり4台です。こちらも、どのように配備され、どう使われているのかの数字と合わせて公表しなければ、「ICT環境の整備状況」を知るためには、まだまだ不足な情報だと言わざるを得ません。


 ちなみに、教育用コンピュータのうちでタブレット型コンピュータの台数は昨年度よりも大きく増えてきています。
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 学校にコンピュータ、電子黒板、実物投影機がどの程度配備されたか、というのはあくまでハードウェアの面からのこと、これらがどのように使われているのかの実績との関連性を探っていく必要があると思われます。

教員のICT活用指導力

 そこで、次に教員のICT活用指導力のデータを見てみましょう。教員のICT活用指導力は、「A:教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」「B:授業中にICTを活用して指導する能力」「C:児童のICT活用を指導する能力」「D:情報モラルなどを指導する能力」「E:校務にICTを活用する能力」の5つに分類されています。それぞれの推移を見てみると、一貫して上がってきているのがわかります。
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 参考資料「教員のICT活用指導力チェックリスト」を見ると、小学校版と中学校・高校版の2つのチェックリストがあり、これに「わりにできる」「ややできる」「あまりできない」「ほとんどできない」の4段階でチェックする、という方式になっています。上記の推移は、この4段階チェックの「わりにできる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合です。
 AからEまでの分野において、問われているスキルを見てみましょう。小学校版を以下に転載します。

【小学校版】
A:教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力

  1. 教育効果をあげるには、どの場面にどのようにしてコンピュータやインターネットなどを利用すればよいかを計画する。
  2. 授業で使う教材や資料などを集めるために、インターネットやCD-ROMなどを活用する。
  3. 授業に必要なプリントや提示資料を作成するために、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用する。
  4. 評価を充実させるために、コンピュータやデジタルカメラなどを活用して児童の作品・学習状況・成績などを管理し集計する。

B:授業中にICTを活用して指導する能力

  1. 学習に対する児童の興味・関心を高めるために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する。
  2. 児童一人一人に課題を明確につかませるために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する。
  3. わかりやすく説明したり、児童の思考や理解を深めるたりするために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する。
  4. 学習内容をまとめる際に児童の知識の定着を図るために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などをわかりやすく提示する。

C:児童のICT活用を指導する能力

  1. 児童がコンピュータやインターネットなどを活用して、情報を収集したり選択したりできるように指導する。
  2. 児童が自分の考えを文章にまとめたり、調べたことを表計算ソフトで表や図などにまとめたりすることを指導する。
  3. 児童がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して、わかりやすく発表したり表現したりできるように指導する。
  4. 児童が学習用ソフトやインターネットなどを活用して、くり返し学習したり練習したりして、知識の定着や技能の習熟を図れるように指導する。

D:情報モラルなどを指導する能力

  1. 児童が発信する情報や情報社会での行動に責任を持ち、相手のことを考えた情報のやりとりができるように指導する。
  2. 児童が情報社会の一員としてルールやマナーを守って、情報を集めたり発信したりできるように指導する。
  3. 児童がインターネットなどを利用する際に、情報の正しさや安全性などを理解し、健康面に気をつけて活用できるように指導する。
  4. 児童がパスワードや自他の情報の大切さなど、情報セキュリティの基本的な知識を身につけることができるように指導する。

E:校務にICTを活用する能力

  1. 校務分掌や学級経営に必要な情報をインターネットなどで集めて、ワープロソフトや表計算ソフトなどを活用して文書や資料などを作成する。
  2. 教員間、保護者・地域の連携協力を密にするため、インターネットや校内ネットワークなどを活用して、必要な情報の交換・共有化を図る。

 中学校・高校版は少し表現が違いますが、最終的な集計では小学校版と合わせて集計しているので、対応した項目だと解釈することにしましょう。
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 もっとも高いポイントだったのは、「A2.授業で使う教材や資料などを集めるために、インターネットやCD-ROMなどを活用する。」(87.5%)です。次いで、「A3.授業に必要なプリントや提示資料を作成するために、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用する。」(83.8%)となっています。これらの質問について、「わりにできる」「ややできる」というのがどれくらいのスキルなのかが具体的にわからず、これならまあ、どちらかを選ぶだろう、という設問だと感じてしまいます。(残りの2つの選択肢は、「あまりできない」「ほとんどできない」です。)

 また、最低ポイントだったのは、「C3.児童がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して、わかりやすく発表したり表現したりできるように指導する。」で59.7%だった。これでは、ICTを児童生徒に配布して協働学習を、21世紀型学習を、というのも、今すぐ実現というわけにはいかないのではないかと思う。

より現場に寄った調査を!

 だからICT活用なんてやめてしまえばいい、というのではありません。せっかく多額の予算をかけて導入し、調査をしているのですから、もっと「どう使われているのか」という現場での様子を調査するようにしてほしい、と思うのです。スキルのチェックも、これでは正直、たいした意味を持たないと感じます。実際に、研修を設計するときにこのようなアバウトな学習目標で研修を設計することはできません。
 先生方がどのように使っているのか、どのように使いたがっているのか、とう点が見える形の調査をし、それに合わせて研修の仕組みや研修のコンテンツなどを作っていかねば、ICT活用が効果を上げるのに時間がかかるように思います。
 私は、ICTが学校に、教室に入ることで、今は勉強がわからない児童生徒、勉強を楽しめない児童生徒を、変えることができるのではないかと思っています。その際に、教室でその児童生徒に授業を届けるのはあくまで先生方であり、先生方が使いやすい環境を作っていくことこそが重要という目的意識は、文部科学省と変わりません。先生方が使いやすいICT環境の構築のために、こうしたアンケートについては、より詳細に、定性的な内容も入れて行う方がいいのではないかと感じました。