こないだ「外国がデジタル教科書をやめてる」というニュースを、どれくらい気にしたらいいのだろう?というエントリーを書きました。
そのエントリーで、「ヨーロッパでは、デジタル教科書をやめて紙の教科書に戻そうという動きもあります。日本はいまからデジタルでの教育をやる必要があるのでしょうか?どう思いますか?」という質問を受けたときに、“スウェーデンはデジタル教科書の何について否定をして、その解決として紙の教科書に回帰したのか”ということを知ってからでないと判断できない、と書きました。
そうしたら、「あのニュースについてですけど…」とたくさんの方からコメントをいただきました。共有することでみんなで学べるかと思い、いくつかご紹介したいと思います。
文部科学省のデジタル教科書推進ワーキンググループ(第10回)の参考資料2「デジタル教科書をめぐる状況について」
まずは、文部科学省のデジタル教科書推進ワーキンググループ(第10回)の参考資料2「デジタル教科書をめぐる状況について」のPDFファイル、49ページ「諸外国の状況」です。
ここでは、「スウェーデンについて、学力の低下等により教科書をデジタルから紙に戻す動きがあるとの指摘があるが、2010年頃からのデジタル教育の推進以降も、国際学力調査のTIMSSでは過去3回とも成績が向上し、PISAでは2015年、18年と向上し、直近の22年でのみ低下している状況」と書かれていました。「いや、学力が低下しているとも言えないんですよ」ということですね。
デジタルでの教育をする目的が、「学力向上」(あるいは「学力維持」)なのだとすれば、このやりとりでもいいかと思うのですが、もう少し広く「なぜデジタルでの教育をするのか」ということを考えられたらいいな、と思います。
公益財団法人教科書研究センター センター通信No.135「スウェーデンのデジタル教育論争の争点は何か」
公益財団法人教科書研究センターが発行しているセンター通信のNo.135(2025.4.20)に、教科書研究センター特別研究員・信州大学大学院教育学研究科 准教授 林寛平 先生が「スウェーデンのデジタル教育論争の争点は何か」という原稿を書いています。
スウェーデンは教育のデジタル化を積極的に推進してきた。一人一台の端末環境は2020年頃までにすでに整備されている。子供たちは様々な教科学習でパソコンを使い、文書作成、情報検索、プレゼンテーション、計算、読書などに活用している。保護者との連絡や校務支援でもデジタルツールが使われている。しかし、2024年8月に新年度が始まると、特にプリスクール(幼保一元化された施設)において電子端末の使用を控える動きが顕著となった。基礎学校(日本の小中学校に相当)でも低学年では使用が減少する一方、中学年以降では従来通りの活用が継続されている。高校や大学ではほとんど影響が見られない。(p.2)
林先生は、電子端末の使用を控える動きに関わる3つの争点を挙げていました。以下に書かれていた3つの争点をまとめてみます。
- 「スクリーンタイムが子供や若者の健康に悪影響を与えるという指摘」
- 子どもの運動不足や若者のSNS依存
- 寝る前に明るい画面を見て睡眠の質が損なわれるリスク
- スウェーデンの公衆衛生庁は年齢別のスクリーンタイムの上限を勧告(2024年9月)→「幼児教育の現場ではスクリーンを子供たちに見せないという方針が広がりつつある」
- 「子供たちが学校に持ってくる携帯電話の扱い」
- 日本とは違い、スウェーデンでは携帯電話を学校に持ってきてもいいのか、という議論が20年以上前から繰り返されてきている。
- 現在多くの学校では、教室の入り口でスマホなどは集めて下校時まで預かっている。
- PISAでの低迷が続くなか、携帯電話の使用と生徒の成績との間に負の相関があると分析され、政府は2026年から「学校での携帯電話の使用を全面的に禁止する法改正を提案している」。
- デジタル教材の使用をめぐる争点
- スウェーデンでは1990年代に脱集権化改革が結実。「この過程で教科書の事前審査がなくなり、教科書や教材の質が低下してきた。
- 「政府は学校図書館へのアクセスをすべての生徒に保障するという政策を出した。あわせて、教科書などの定義を教育法に明記することにした。教科書はデジタルの要素を含んでいてもよいが、印刷された学習教材を用意する必要がある。また、教科書と学習教材は専門の出版社が作ったものである必要がある。こうした定義を設けることで、学校に適切な教材を購入させようとしている」
- 「紙の教科書の購入を学校に促すことで、デジタル教材に依存することで生じた学校間の格差を是正し、すべての生徒に質の高い教材を提供」することを目指す。
こうして見てみると、1点目のスクリーンタイムの話と、2点目の携帯電話の扱いについては、「デジタル教科書とその教育的効果」の話とは関係がないのだな、と思います。
3点目についても、日本の教科書制度とスウェーデンの教科書制度の違いが大きくて、日本でこの争点をもってきて「デジタル教科書はダメ」というのはちょっと無理があるような気がします。
まとめ
文部科学省と教科書研究センターが出している資料を読んでみて、とても勉強になりました。「ヨーロッパでは、デジタル教科書をやめて紙の教科書に戻そうという動きもあります。日本はいまからデジタルでの教育をやる必要があるのでしょうか?どう思いますか?」という質問への回答として、先生方にお伝えしていきたいなと思います。
(為田)