2016年3月4日に、平成27年度「教育の情報化」推進フォーラムに参加してきました。今回は2日とも参加することができましたので、内容についてレポートしていきたいと思います。
最初のプログラム、特別講演は、「教育の情報化」 というテーマ。講演者は 国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長の 新井 紀子さんでした。新井先生の講演タイトルは、「教育の情報化」になっていましたが、お話しされた内容は、「AIが大学入試に合格する時代に求められる教育 ~「ロボットは東大に入れるか」から見えてくること~」でした。
新井先生は、東大入試をロボットがクリアできるかということを研究しています。題して「ロボットは東大に入れるか Todai Robot Project」です。
新井紀子『ロボットは東大に入れるか』という書籍にもなっています。
どうして新井先生はこんなことを研究しているのか?ということをよく訊かれるのですが…という言葉から講演は始まりました。以下、講演のメモを公開します。個人的にとったものですので、抜けなどもあるかと思いますが、全体としてテクノロジーの話かと思ったら違って、「では、人間の学びはどうあるべきか」という話になっていくのが、本当におもしろかったです。
ロボットは東大に入れるか?
- なぜロボットは東大に入れるか?を研究しているのか?
- 新井先生の主な関心は変わっていない。「デジタルにできること・できないことをはっきりさせる」ことが目的。
- 「大学入試50万人を全部記述式にして、AIが採点する」それが可能か?
- ビッグデータと機械学習
- 東大入学よりも、将棋でプロになる方がずっと難しいはずだ。だが、電王戦で棋士にプログラムが勝っている。
- 機械にとっての難しさと、人間にとっての難しさは、まったく別のもの。
- 犬と猫の違いを、どうプログラミングしなければならない。
- Googleの画像検索は、もう同定できるようになっている。
- 犬と認識されたデータと猫と認識されたデータをプロットして、線を引く。=統計的な判断をする。
- これは、「意味は考えない」とうこと。正しさはまったく保証しない。だが、けっこう正しい。(手書き文字認識は似た感じのことをしている)
- 東ロボくんにとって、国語はいちばん難しいと言われていたが、最初に偏差値が50を越えたのも国語だった。
- 数学の距離の公理を使って、国語を解く。文字オーバーラップ率で照合した。評論に対して50%の精度(=何も意味がわかっていないけれど、当てられる、ということ)
- こういうことをしているのは、東ロボだけではない。Watsonがクイズ番組Jeopardyで勝利。
- でも、東ロボとは違う。いろいろなことを訊いてくる。
- Jeopardyの問題は、最後に必ず「This …」という文章になるで終わる。→答えは固有名詞になる。
- 意味がわからないままの検索では、69%までしかいかなかった。(2010年11月)
- Watsonが膨大な予算をかけた。でも、そこまでしか行かなかった。
- 東ロボくんでやってみた。
- 同義文判定は絶望的に難しい
- 大学入試を筆記にして自動採点するときには、模範解答を用意してそれと同義文ですか?とAIに訊くわけだが、それは絶望的に難しい。
- 小論文判定も絶望的
- キーワードがあっていて、正答に近いストラクチャーで、正答にちかい語数だと、◯をつけてしまう。
- 「私は岡田と広島に行った」「私は岡山と広島に行った」→GoogleでもYahooでも翻訳すると、どうしてもandが出る。決してwithは出ない。
- 東ロボくんは、進研マークでは、上位2割に入っている。
「デジタルでできることとできないことを知るために研究している」という言葉が印象的でした。その後は、AIについての紹介、Deep Learningについての紹介などが続き、IBMのWatsonがクイズで勝てたのはなぜか?などの説明をしてもらいました。
IBM's Watson Supercomputer Destroys Humans in Jeopardy | Engadget
Watsonがどう検索をしているか、ということを示しつつ、でも文章を扱うのは絶望的に難しい、と言います。例として出ていた、「私は岡田と広島に行った」「私は岡山と広島に行った」をGoogleでもYahooでも翻訳すると、どうしてもandが出て、決してwithは出ない。というところ、人間の認知のすごさを感じます。
では、人間は?
ここで、コンピュータでは文章を読むのが絶望的に難しい…というところで話が終わるのでなく、そこから「ところで、じゃあ人間は読めているのか?」というリサーチについて話が進んでいきます。埼玉県の中学生と東京都の高校生を対象とした調査で、東ロボと同じように、「文章を読めていない」ということがわかったそうです。
- なぜ「人工無能」が人間を凌駕したのか?
- 中高校生は入試問題や教科書を(意味がわかって)読めているのか?
- 調査対象者は、埼玉県の中学生と東京都の高校生。
- 高校生物、中学生も高校生も読めていない。
- 東ロボくんも、同じ間違え方をしている。
- 問題文から、図を書けない。文を読み、それを図に描く。→これこそアクティブ・ラーニングにするべきでは?
- 中学校の教育目標は、「中学校の教科書をきちんと読める」ことに置きませんか?
- 中学校の教科書が読めないということは、マニュアルが読めないということ。どうやって就職するんですか?英語教育をやったとして、どうやって就職を?どうやってAIと違いを出して働くんですか?
- 中学校の教科書を半分の子が読めない。そのなかで、アクティブ・ラーニングをやる。この状況を把握してアクティブ・ラーニングをやればいい(私なら、「文章を読んで、それを表すスライドを1枚で書きなさい」というふうにする。)
- 埼玉県では、「これは先生の初任研修でやるべきではないか」という話も出た。
- 中学校の教科書でこんなに読めないのに、そのまま高校→大学と行き、大学の教科書が読めるはずがない。せいぜいキーワード検索をするくらいだろう。
この新井先生の危機感を感じたという語り口はとてもエネルギッシュでした。このあたりで僕はもう東ロボが東大に受かるかどうかなどどうでもよくなってしまい、それよりも「この基礎学力の低下は社会的にどうしたらいいのだろう?」と考えてしまいました。
新井先生は、「後半生をこれにかける」と言っていました。それくらい大きな問題だと思った、ということでしょう。AIと人間と、どういうふうに仕事をシェアしていくのか、考えないとダメでしょうね。そうした見通しを持って、カリキュラムを設計している学校はどれくらいあるだろう、と思いました。
- 後半生をこれにかけることにしました。
- ペダゴジーを作ります。
- この状況で入試を筆記試験にしたらダメ。フロアー効果で、しても意味がない。
- もし筆記試験をやるならば、2020年までに、教科書を読めるようにしなければならない。これが大きな使命だと思う。そうでないと、AIに負けてしまう。
- このまま社会に出してはいけない。朝読書をしているのに、この状態なのだ。
- 新聞が家にない、本も家にない、大人と会話する時間がない、そうした複合的な理由があるのだと思う。
- みんなで、子どもたちがどれくらい教科書が読めないか、という実態を把握しましょう。
「教育の情報化」推進フォーラムのスタートとして、非常に刺激的な講演でした。
▼参考書籍
No.2に続きます。
blog.ict-in-education.jp
(為田)