2019年11月7日に、Lenovo Japan本社にて「新しい未来の学びPerspectiveセミナー ICTを活用した学級経営」が開催されました。このセミナーは、教育委員会と学校の先生方限定のセミナーで、早稲田大学教育・総合科学学術院 教授の河村茂雄 先生と、小金井市立前原小学校 前校長/合同会社MAZDA Incredible Lab 代表の松田孝 先生による講演が行われました。
今回は、早稲田大学教育・総合科学学術院 教授の河村茂雄 先生による講演「学級集団づくりのためのWEBQU」のレポートとして、河村先生の講演で興味深かったところをメモとしてまとめ、公開します。
学び方の変化と学級集団
河村先生の講演は、講演の最初に、高度情報化社会が進み、学び方が大きく変わってきている現状の把握から始まりました。
- これからの子どもたちは、規制の知識・技術(コンテンツ)を蓄積しているだけではだめで、「変化する状態に自律的に立ち向かっていく力を身につける」ことが必要。
- そうした力を身につけるために、いろいろな人とチームを組んで、チームで何かを成し遂げることができるようになる必要がある。子どもたち一人ひとりが持っているいろいろな特性を使えるかどうか。どういうチームを作っていくかを学んでいかなくてはならない。
- このチームが「学級集団」。新しい学習指導要領が出て、学ぶ内容は変わったものの、学級集団の形は変わらなかった。ただ、学ぶ内容、学び方が変わるので、学級集団の質は変わっていく。
- チームでやれるようになるか。ここはいまの子どもたちにとても難しい。「自分でやったほうが速い」「あいつとはやりたくない」と言う子どもたちをどうチームにしていくか。
- 最初の段階で、どういうふうに人と関わるか、というルールのようなものを共有しないとだめ。
- ムラ社会的なものじゃなくて、誰とでも繋がれるという学習集団のルールやマナーの環境設定をしっかりしなければならない。見当違いのことを言っても批判されないとか、建設的な話し合いができるとか、そこまで持っていくのが非常に難しい。
- 一人ひとりの個人の特性をつかみ、自分のクラスにどんな子がいるのかをおさえながら、みんなで学習し合える集団を作っていくことのハードルは上がっている。
- 学級集団を見る視点は、ルール(集団で安心して生活するための基本的なルール)とリレーション(安心して本音を言い合えるような人間関係)。ルールとリレーションのバランスが取れていると、集団は安定する。
新しい学習指導要領に現れている、求められる資質・能力の話は、多くのセミナーでされますが、それをチームとして働く力としてとらえ、子どもにとってのチームとして「学級集団」を位置づける視点は、学校にとって非常に重要なことだと感じました。
学級集団の考え方を変える
河村先生は、「学級集団の考え方を来年から変えていかなくてはならない」と言います。この部分は、学校の先生方にとって非常に重要な指摘だったと思います。
- 学級集団は、これまで「生徒指導のための、安定していられるベースとなる基地」だった。
- これからは、学級集団は「学習のための集団」に変わっていく。集団で関わること自体が学びなんだという意識への変化。
- 20年前は、「学級崩壊しないためにどうするの?」という視点だった。ICTで授業を改善する以前の段階の学級がたくさんある。これは生徒指導の発想。
- 10年前くらいから、学力テストの話が出てきて、「生徒指導だけではだめ」となった。クラスを安定させているだけでは学力伸びない。
- 子どもたちは素直で先生の言うことをきいてトラブルも少ないが、学力は全国平均より低く、不登校が多い、というクラスがある。こうしたクラスは、静かにしているだけで、相互作用が活性化していないからよくない。だが、先生方は「トラブルが少なくて、落ち着いている」と安心している。
- 安定しているだけのクラス作りをしていても、評価されない時代が来た。子どもたちの資質・能力を活性化させるクラス作りをしなくてはならない。クラスが安定しているのなら、新しい視点を入れるだけでいい、とも言える。
- クラスが荒れていたら問題外だが、静かにいられるだけでもだめ。ほどほどの緊張がありながらも、そこにいることで学びが発生するような、そういう集団を作っていくことが求められる。
日本の教育は、「共通性の担保(=すべての子どもに一定の学力を)」と、「多様性の保証」という2つの原則を持ってきた、と河村先生は言います。
- 2つの原則のなかの「多様性の保証」の方が、2007年以降優先順位が高くなってきたのではないか。多様性を保証したうえで、子どもたちの共通性を上げていくんだ、という順番になっていないか。
- これによる大きな変化として、ひとつひとつの学級によって、授業展開は変わってくるようになった。
- ひとつひとつの学級によって授業展開が変わってくることで、先生方の仕事量は間違いなく増えている。それにプラスして、保護者対応を含めた感情労働(いまの若い人が苦手)もあって、教職志望者が減ってきている。
- 迅速的確なアセスメントをすることで、この状況を変えられるのではないか。
学級経営の前提が変わったことで、ひとつひとつの教室の学級づくり、方法論を一人の先生に任せるのは難しくなりました。学校経営の方針があって、学級づくりがある。ひとつひとつの学級がうまくいかないのは、学級担任の責任だけではなくて、大きな方針を打ち出せない管理職の責任になる。「チーム学校なんて、これだけいろいろなハードルが上がってきたら、いろいろなデータを駆使しなければクリアできない」、と河村先生は言います。
学級経営の状態をデータとして迅速かつ的確にアセスメントするのに、WEBQUは大きな力を発揮します。WEBQUになって、瞬時に結果を返せるようになっただけでなく、学級経営の次の一手を提案してくれるようになっています。
WEBQUの特徴
河村先生は、WEBQUの特徴を以下のようにまとめて説明されました。
- “瞬時に”分析されて結果が出力される
- 子どもたちはWebで回答する。記入漏れのチェック、質問項目の読み上げ機能もある(発達障害の子たちには重要。これまでは先生がやっていた)。
- 回答が終わったら、瞬時に結果が表示される。WEBQUは4時間目にデータを取ったら、その日の放課後に事例検討会ができる。
- 子どもは、QUに書き込んだら、すぐに学校が対応してくれると思っている。結果が出るまでに時間がかかれば、子どもは対応されないことに失望する。WEBQUなら瞬時に出せる。
- 対応策の指針を提供する
- QUの20年間のデータの蓄積がある。例えば、うまい先生は、1年かけて良いクラスを作る、とみんな思っているが、データを見ると、うまい先生は6月くらいまでにほどほどの集団を作っている。この実態がわかっていれば、先生に「こうやったほうがいいですよ」と提案できる。
- WEBQUは集団とか子どもを理解するための尺度であるとともに、次の一手をどうするかのための尺度となる。
- 管理職は、一人ひとりの教員がどのような手段をとったかを定期的に見ることができる。組織で対応できるようになる、学級は組織の最前線。その責任は管理職、教育委員会の責任。実態にあわないやり方をしている教員がいたら、管理職も教委も対応しなければいけない。これまではここはブラックボックスだった。
- 「ルールとリレーション(=生徒指導)」と「安定度と活性度(=学習指導)」の2つの視点で学級集団を捉える
- 安定したクラスを作るだけでは評価されない。例えば、怖い先生がいて子どもたちは規律正しく、私語がないクラスは、昔は褒められていた。だが、データ分析をすると、不安定なクラスよりもこのクラスは学習意欲が低いことがある。子どもたちは、規律よくすることだけに力が入ってしまっている状態。相互作用が生まれていないのでは、評価されなくなる。
- また、序列が固定されているクラスもわかる。学級数が少ない地方の学校で学力が低いケースで見られるのは、幼稚園・小学校低学年からクラス替えがなく、序列が決まっているから。それでは切磋琢磨が生まれない。
- 危険なのは、外からは素晴らしく見えるけれど、子どもたちの関係性が固定していて、遂行レベルになっている(先生が言うことだけをやっている)状態。これを粛々とやっていても、形だけやっているだけで、学力は伸びない。「安定してできているね」と安心していてはいけない。結果が出ていない。いままで、これがなんでだろう?で終わっていたが、WEBQUによって、ここにメスが入れられる。「相互作用が活性化していない、このクラスは序列が固定しているからだ」と言える。
- 学級の強みと弱みを具体的に指摘
- WEBQUは調査学級の強みと弱みを具体的にしていく。WEBQUの結果を見て、悔しい結果が出ても、「クラスがバラバラだから、まずは個別学習から始めなさい」というふうに具体策が示される。
- 同僚からそういうことを提案されない先生にとっては、大切なことになるだろう。
- 部活動の領域を追加、ハイリスク群の児童生徒を特定して抽出
- 部活動、SNSによるいじめ被害もキャッチされる。いじめは2種類、孤立といじられ。どちらなのかが明示される。
- 管理職の画面でも見られるので、学校のハイリスク群の子どもをワンクリックでわかるようになる。どこが危ういのかがすぐにわかる。
まとめ
生徒指導を中心としたQUから、学習集団をどううまく作っていくかの一手を提案するWEBQUへと進化したのは、時代の変化だと河村先生は言います。
- 従来は、先生も決められたことをやっていたらOKで、結果がどうだったかは、子どもの問題だった。
- これからは、コンピテンシーベースの時代。専門家の助力で、結果が出たのか、が問題になる。
- 子どものせい、地域のせい、ではない。「先生のやり方が違っていた」、ということに情報を入れたい。すべての先生方が結果を評価される時代が来た。
先生方が結果を評価されるが、それは学校全体で取り組むべきことであり、そのために「ここからやってみませんか」、と次の一手を提案できるWEBQUの意味は大きいと思いました。
No.2に続きます。
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(為田)